第28話 一撃必殺を右から左に受け流すだけ
「お前は、自分が何を言っているのか、理解しているのか?」
返答は、この上なく冷たかった。
それを言ったのは、男子高校生の永 飛龍(ヨン・フェイロン)だ。
後ろで縛っている黒髪に、黒目で、俺を睨む。
「今の
「お前には関係ない!」
「そもそも、
「違う。俺は日本の四大流派である
苛立った
「結論を言え!」
「俺は、迦具夜の弟子だ」
応接室で、沈黙が支配した。
「その女は、我らの門派で印可を授けられている。流派の名前を言ってみろ!」
「
驚いた顔が並ぶ。
「……なるほど」
1人で納得した
「であれば、お前も関係者だ! そうなると、『やっぱり帰ります』では済まさんぞ?」
「あの女が、日本に逃げ帰ったわけだしな?」
困惑した表情の
「お前は、迦具夜の内弟子だろう? その言い方は気に入らん!」
ああ、序列を乱す行為はNGと……。
そう思った俺は、
「あいつと出会ったのは、月乃に絡んだ話だ。……悪いが、知ると命を狙われるから」
全員の視線を集めたまま、言い切った。
息を吐いた
「まあ、そこはいい……。我が門派として、月乃をどうしたいのか? だ」
「月乃の意思を尊重したい」
「……お前が、こいつを保護すると」
また、静寂に包まれる。
黙っていた永 俊熙(ヨン・ジュンシー)が、口を挟む。
「
「親父は黙っていろ! この件については、俺の裁量で決める!」
こちらに向き直った
「
言葉を切った後で、宣言する。
「だが……。お前を確かめる! 少なくとも師範代の力を示さなければ、宗家の直系の娘を預けるわけにはいかん!」
要するに、月乃を守っていた老師、季 一诺(チー・イーヌオ)と同じ実力があると証明しろ……。
ここで、
「お前は、親父の友人だ……。
「話を進めてくれ」
俺の返事に、
「分かった……。ならば、手っ取り早く片づける! こちらの弟子と連戦してもらうぞ?」
いわゆる、百人組手か。
こいつの雰囲気と、最後に止めた流れから――
「死んでも、恨むなよ? 早く準備しろ」
立ち上がった
俺も立ち上がり――
座っている月乃が、俺の袖を引っ張った。
「あ、あの……。ボ、ボク……」
月乃のスタイルは剛拳、空手に近い。
軍隊式の格闘術だから、仕方ないが……。
たぶん、こいつらと相性が悪い。
(それに、月乃が勝っても意味はなく、ここの連中を傷つければヘイトを集める)
考えをまとめた後で、言い返す。
「俺が戦わないと、連中が納得しない。お前は見ていろ」
置物だった
「室矢さま……。いざとなれば、私の一命をもって……」
素人の俺が見ても、半分は死人だ。
場は収まるだろうが、一時的なもの。
「まあ、やるだけやってみますよ」
◇
板張りの道場で、壁沿いに座っているうちの1人が立ち上がった。
中央に立つ俺と、正面から向き合う。
(弱いな……)
端にいた弟子だ。
開始の合図で、身体強化による踏み込み。
(予兆なしで、異能を使ってきたか!)
移動しながらの練り上げ。
けれど、風を巻き上げながらの詰め寄りは、割り込んだ俺の足にひっかかって、そのまま飛んでいった。
ダアンッ! と床に叩きつけられた音。
勝負あったが、最弱でこれ。
(相手に触ったら終わる内家拳でスピードが加わると、
近づかれた時点で、殺される。
実際に手合わせをしてみた感じだと、裏流儀で剛拳を使ってくる奴もいそうだ。
2人目は、摺り足で間合いを詰めてきた。
と思わせて、少し離れた距離で低いホバーのようなジャンプ。
こちらも霊力の身体強化で、一気に詰める。
驚いた奴を正面から崩し、そのまま背中から落とす。
はい、終わり。
3人目は、さすがに技を受けた。
その勢いを体の外側に弾きつつ、片足で回り、手応えがあった男を後ろから振り払った。
対戦相手が、正面から床に叩きつけられた。
とたんに、周りの空気が変わる。
ざわつくが、大陸語で分からない。
待機している列の順番が飛んで、いかにも強そうな奴――服装も違う――が立ち上がった。
チラリと月乃を見れば、彼女の師である
風切り音と、プレッシャー。
考える前に体が動き、ぶつかってきた相手の肩、腕、足にそれぞれ打ち返しつつ、両足を滑らせる。
3回ほどの応酬をへて、頭突きをしてきた相手を躱しつつの崩しで、相手が飛んだ。
道場が揺れたことで、終わり。
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