第27話 お前のもの(死亡フラグ)は俺のもの
「いやー! まさか、海豚(ハイツン)に会えるとはな?」
嬉しそうに言ったのは、VRの釣りゲームで知り合ったフレンドだ。
30代後半の男で、経験と体力がピークになっている頃。
長い黒髪だが、薄い青の瞳をしている。
俺は
「よく分かりましたね?」
「まーな? 声だけでも、意外と気づくものだ」
いかにも武術家という雰囲気の男は、腕を組んだまま、うんうんと頷いた。
声から年上と知っていたが、意外に若い。
傍にいる男子高校生が、俺を見た後で、
「
「
ネイティブ同士の会話で、聞き取れず。
けれど、すぐに終わる。
男子高校生は、俺に会釈した後で離れた。
「
ネトゲと同じ、マイペースな話し方。
念のため、敬語の有無を確認したが、構わないそうだ。
ここの大陸人のグループは遠巻きで、邪魔せず。
その視線を感じつつ、答える。
「俺は関係ないんだけど、付き添いで……」
何かを察した
「あの子の名前は?」
「すまん。本人に確認しないと……」
「そ、そうか……」
しきりに、月乃のほうを見ている。
(ここで真実を伝えるべきかどうか……)
おそらく、一時的な滞在だろう。
このまま別れたほうが、お互いのためか。
「そう言えば、
「ああ! ここで武術を教えている先生に会いに来たんだ。ちょうど帰るところでな? 本当は、お前とも少し手合わせをしてみたいんだが」
彼は、疲れ切った雰囲気で、無理に笑顔を作る。
よく分からないが、楽しい話題ではなかったようだ。
「そっか……。また、いつものネトゲで――」
俺の別れの言葉は、先ほどの男子高校生の叫びで途切れた。
大陸語だ。
それを聞いた
同じく、大陸語で叫びつつ、そちらへ足早に移動する。
◇
奥の間。
大陸街にある武道場だが、ここは洋風だ。
先ほどの
さらに、影が薄い初老の男が1人。
すでにお互いの自己紹介を済ませており、その初老の男、季 一诺(チー・イーヌオ)――月乃の母親を大陸から逃がした人物――が事情を説明した後だ。
誰もが、口を閉じている。
大陸の高そうな茶と菓子は、それぞれの前に置かれたまま。
男子高校生の永 飛龍(ヨン・フェイロン)が、顔を上げた。
「老師から『時翼を見逃して欲しい』と嘆願され、それを受けた。が! それは出会わなければ、の話だ! こうして顔を合わせた以上、もはや
今さら、見なかったことにはできない、と。
「
ため息を吐いた
「先に確認しておくが……。お前は、自分の素性をどこまで知っている?」
「老師には武術を教えてもらったけど、お母さんと知ったのも初等部の高学年ぐらいだったし……」
「親父? ここまできたら、全て説明しろ」
――1時間後
自分の出生にまつわる秘密を知り、呆然自失の時翼月乃が、こちらです。
付き添いだった俺も、巻き添えになりました。
「つき……時翼は、俺たちと一緒に来る気はないか?」
俺のほうをチラリと見た月乃は、自分の父親に向き直る。
「ど、どうして?」
(言われた直後に聞かれてもな?)
心の中で突っ込むが、俺の出る幕ではない。
傷ついた様子の
「そ、そうだよな? 急に言われても――」
「ハッキリ言ってやれ、親父! 時翼、お前が選べるのは3つだけだ」
――開門搏撃拳の門派、または指定した誰かと結婚する
――大陸にある本拠地へ移住して、国籍も変える
――暗殺される
パクパクと口を開けた月乃は、すがるように俺を見つめた。
けれど、
「宗家の直系であるため、その技が不十分で決して名乗らずとも関係ない! お前の子孫が『開門搏撃拳の正統である』とすれば、いらぬ火種になる」
「だから……。ボクを連れていくか、消すと?」
絞り出すような、月乃の声。
頷いた
「そうだ」
「すまない、時翼……。俺を父親と思わなくてもいいが、お前が殺されるのだけは許せない! それ以外を選んでくれ」
死亡フラグ。
死亡フラグ。
(またか……)
原作の【
けれど、
知らず知らずのうちに、声に出ていた。
「
その場にいる全員が、注目した。
構わずに、続きを述べる。
「迦具夜への文句は、俺に言え」
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