第9話 大学生らしい死亡フラグをどうぞ!

重遠しげとお? 警察庁の上級幹部(プロヴェータ)である木月きづきさんから、『明大めいだいで行方不明になった学生がいるようだ』と相談がありました。……警視庁の特殊ケース対応専門部隊にいた、木月祐美ゆみです」


 悠月ゆづき明夜音あやねに言われて、首をかしげた。


「……ああ! 柳井やないさんの後任の! それで?」


真牙しんが流ではなく、警察キャリアとしての依頼です」


 探るような視線に、ため息を吐く。


「善意で協力しろと?」


「結論は、そうですね。借りと認識していますが……」


「悪い意味で、警察官だからなあ……。『力があって動けるのなら、任意で協力して当然』という前提は、鼻につく」


 明夜音が、打診する。


「報酬を約束させるのも、1つの方法ですけど?」


「これ幸いと、金一封に表彰だのをセットにして、俺たちを型に嵌めてくるだけ! 前例を作ったら、どんどん押しつけてくるぞ?」


 首肯した明夜音は、自分の意見を述べる。


「ええ……。先日の外務大臣の失踪でも、こちらを便利に使おうとした警察は信用できません。私に、確保したMA(マニューバ・アーマー)1機を提出するよう言ってきました」


「自腹を切り、本音で話してくれるだけ、柳井さんのほうがマシか! 悪いな、相手をさせて」


 首を横に振った明夜音は、微笑んだ。


「いえ。当主の重遠が対応すれば言質げんちを取られますし、最終決定になりますから……。どうします?」


「分かっている情報は?」


「心配した友人が警察署に駆け込み、相談という形で受けています」


 ――明示めいじ法律大学 理工学部キャンパス


 ――機械分析工学科の男子が数名ほど、姿を見せない


「その男子が在籍していたのが……」


「次元振動研究室ですね! 独自の理論に基づき、別の次元との干渉。……平たく言えば、の実現を目指しています」


 明夜音の説明に、息を吐いた。


「構造物の分析や立体モデルで振動を見るとかじゃなく、SFの再現かあ……」


「この理工学部キャンパスには、大戦中に武器の製造所や研究所がありまして。自汰じた教授が、その機材を手に入れた可能性も」


 俺は、決断を下す。


「その教授が未来を知ったか、別の世界線にアクセスできない限り、明夜音の言った通りか……。大学生だけに、レベルの高い死亡フラグってか? 大きな問題になる前に、ウチで叩く! とりあえず、俺1人でいい」


「はい! 現地でのサポートは?」


 明夜音の質問に、俺は心当たりの名前を告げた。



 ◇



 明示法律大学の理工学部キャンパスで、1人の女子大生が目覚めた。


 単身者用のゲストハウスだ。

 ユニットバス、台所があり、ドヤとは違う。


 上体を起こした女子は、寝ぐせがついた銀髪ロングのまま、青と黄色のオッドアイで見つつも、習慣でスマホに触る。


 アラームが止まり、ベッドから両足を下ろした女子は、ペタペタと歩き、シャッとカーテンを開けた。


 ふわああっと欠伸あくびをした女子は、どんどんパジャマを脱ぎ散らかしつつ、ユニットバスへ消える。


 しばらく水音が続き、白い肌をさらし、タオルを頭に巻いた姿で帰ってきた。


 スマホを持ったまま、指で触っていく。


 しかし、ピタッと動きが止まり、息を吐いた。


「課題で忙しいのにぃ……。でも、ウチの行方不明者か」


 SNSのメッセージを読んだ女子は、慣れた動きで返信。


“協力するけど、講義と課題の合間にだけ”


 通知をさばいた女子は、ドライヤーで髪を乾かし、インナーから身に着ける。


 白い壁紙で統一された室内をぐるりと見た。


「他の男子は、研究室で寝泊まりだし……。文句を言えないわね?」


 洗濯機が外の共有で、盗難を恐れている彼女は使えない。


 宅配のクリーニングを利用していて、馬鹿にならない出費だ。


 女子は愚痴を言いつつ、大きな書類が入るトートバッグに必要なものを放り込み、安っぽい玄関ドアから外へ……。



 空気は、美味しい。


 山の中にある街といったキャンパスには、巨大な建物がゆったりと。


「お、おはよう!」

有亜ありあさん、次の――は大丈夫? 良かったら、手伝うよ」


 理工学部とあって、男子ばかり。


 明大でも、都心部のキャンパスとは全く違う。


 適当に応じつつ、もう古ぼけた掲示板で立ち止まった。


 ……SNSのメッセにあった、行方不明者についての張り紙だ。


「同じ研究室ね?」


 独白したら、訳知り顔で、近くにいる男子が言う。


「まだ見つかっていないよ! 有亜さんも、気をつけて」

「ええ……」


 それを皮切りに、他の男子も騒ぐ。


「本当に、どこへ行ったんだか?」


「自汰教授は?」

「見ていない」

「このままだと、警察も入ってくるんじゃね?」

「勘弁してくれ! こっちは睡眠時間を削って、缶詰なのに」


「私、自分の課題をやりたいから……」


 オタサーの姫といった女子は、目立つ容姿のまま、足早に離れた。


 ベルス女学校で室矢むろや重遠と因縁があった、りょう有亜。


 彼女は再び、表舞台に立つ。

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