第8話 四大流派のための大学(後編)
揚げ物とカレーを食べ終わって、ラッシーを飲む。
東京の私立らしい、清潔でアートのような空間を眺めた。
「
俺の愚痴に、
「仕方ありません! 私たちは、四大流派のシンボルです。そこに傷をつければ、多くの人が犠牲になりますよ?」
「どうしても入りたい大学はなかった。今の時点でも、就活どころじゃない立場だしな?」
「私の実家のほうで融通した資産があれば、庶民ぐらいの生活なら、寝てても可能ですよ?」
呆れたように、明夜音が告げてきた。
「頑張っている方々がいればこそ、私たちは富裕層でいられます。けれど、こちらの判断ミス1つで、多くの人を路頭に迷わせるか、首をくくりかねないのです。……
俺はラッシーを飲み切り、口を開いた。
「分かっているよ……。高校の時に、だいぶ知り合ったからなあ」
そこで、明夜音が話題を変える。
「大学といえば、
「へー?
「はい! 私たちが生きている間に実現するかは、微妙ですけど……」
壮大な計画だ。
俺には関係ない……よな?
すると、男子たちの声。
「お、ここ空いてる!」
「何で、誰も座らないんだ?」
「いいから、食おうぜ」
断りもなく、俺や明夜音の隣に座り出す。
トレイの上にのっている容器やスプーンが、音を立てた。
眉をひそめた明夜音は、笑顔のまま、俺に言う。
「では、行きましょうか?」
「そうだな……」
俺は自分のトレイを両手で持ち、席を立った。
明夜音も、それに続こうとするが……。
「あ! 君は、まだ残ってよ!」
「そうそう! そんな奴より、俺らと――」
目をつけた女子を逃さないため、陽キャどもが騒ぎ出した。
…………
俺はトレイを持ったまま、同じ明夜音に言う。
「身繕いをしてから、どこかへ行くか?」
「はい!」
食器を戻して、絡んできた連中がいたカウンター席を見れば、手つかずの食事が残っていた。
「……もったいない」
「流石に、それは止めてください」
ため息を吐いた明夜音に
◇
明夜音が口説かれた場面から、12時間後。
「君、どこの学部? 共通でも見なかったし……え?」
金持ちそうな女子を口説いていた陽キャは、言葉を失った。
気づけば、食堂は真っ暗。
ブーンという、冷蔵庫の音が響いている。
非常口を示すライトや、外で光っている街灯、さらに月光が差し込むだけ。
他の男子も、不安げに辺りを見回す。
「お、おい? どうして、夜なんだよ?」
「俺が知るか! ……げえっ! 深夜の1時!?」
スマホの明るい画面を見た男子が、素っ頓狂な声を上げた。
夜目が効いてきて、昼にいたカウンター席だと分かる。
言うまでもなく、自分が注文した料理はないが……。
軽快なBGMが、暗闇で鳴った。
「あ……。すみません! えっと……。す、少し体調が悪くて……。明日に――」
どうやら、バイトをすっぽかしたようで、スマホを耳に当てている男子は平謝りだ。
他の男子たちは、その様子を見て、ゾッとする。
「……昼から何をしていたっけ?」
「いや、ぜんぜん覚えてねえわ」
室矢重遠によって時間を飛ばされた、陽キャども。
今回は、警告だけ。
式神にしている室矢カレナの権能を使えば、これぐらい簡単。
遠方に飛ばせば、大騒ぎになる。
したがって、この対応。
敷地内の警備システムに引っかかり、駆け付けた警備員に通報され、散々だった陽キャども。
怒り心頭で重遠を探して、詰め寄るも――
今度は、丸1日を飛ばされた。
夢遊病のように彷徨っていた線が消え、重遠に説明を求める。
だが、次は1年後になるぞ? の一言で、座っている彼を殴りそうな陽キャたちは後ずさった。
気にせず、
その進路から
「……あいつには、もう関わらないでおこう」
「だな」
「それより、あの女子だよ! 見るからに上品だったし」
懲りない男子たちは、明夜音の情報を集める。
日本を代表する悠月グループの女と知って、テンション爆上がり。
「悠月さん、だよね」
「少し時間くれない? ぜってー後悔させないから!」
運よく見つけた男子2人は、ここぞとばかりに口説き倒す。
せめて、SNSの連絡先だけでも――
明夜音と向き合っている男子2人は、背中に押しつけられた感触で口を閉じた。
自分の後ろに立っているのは男だと気配で分かったものの、尋常じゃない様子。
小声で、命令される。
「騒ぐな……。こっちへ来い。こっちだ」
それぞれに指や手首の関節を決められ、その痛みでコントロールされての歩行。
「……ああ、悠月さん! 俺ら、食堂でのことを謝りたくて――」
やはり、拘束された。
傍目には、隣り合って歩くだけ。
その日が、重遠と明夜音に絡んだ連中を見た最後だった……。
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