第7話 四大流派のための大学(前編)

“外務大臣の失踪には、東京の市街地で行われたMA(マニューバ・アーマー)との戦闘も関わっていたと――”


 スマホの画面で、見当違いの推測をまじえたニュースを見る。


 俺がいるのは、共用の長机と、そこに固定されている椅子の並び。


『えー! 経済学では、このように貨幣価値が下がりつつも――』


 すり鉢の底のような壇上だんじょうで、講義をする男。


 ここは、大学の講義室の1つ。


 ヨレヨレの私服で板書きを写しつつ、講師の発言も注釈とする学生。

 かと思えば、ひそひそと私語をする奴らも。


 無言でソシャゲの日課をやっている奴は、それよりマシだ。

 

 昼夜逆転か、バイトや部活で忙しいのか、テキストを広げられる長机に突っ伏したまま寝ている奴も……。


『今日は、ここまで! 次回までに――』


 ガタガタガタ


「あー、終わった!」

「メシ、行かね?」


 大学と高校の大きな違いは、その自由度の高さだ。


 スタートダッシュを間違えたら、サ終が発表されたソシャゲを延々とプレイするような羽目に陥る。

 合格できそうな大学を受けるため、尚更。


 東京は、人が倒れていても、関わりたくないとスルーするほどの無関心ぶりだ。

 一人暮らしによる自由を味わい、講義に出ないままの引き篭もりが、珍しくない。


 今では、SNSで高校の同窓生が集まり、入学式にはもうグループが固まっているという、ギャグのような状態も……。


 高校で陰キャだった俺は――


室矢むろやさま!」


 男子の声で、俺は座ったまま、振り向いた。


 そこには、同じ講義を受けていた1人。


 長机に、スッと差し出されるノートなど。


「今回の分です! 課題については――」


 一通りの説明を聞いたあとに、そいつの学籍と名前を確認して、スマホを操作。


「いつも、ありがとうございます」


「いえ! では、失礼いたします」


 バッと頭を下げた男子は、キビキビと退室。


 周りの唖然とした様子を見ながら、ふと思う。


 俺の知っているキャンパスライフと違うなあ?



 ――食堂


 1人でカウンター席に座り、黙々と食べる。


 カレーだ。

 揚げ物をのせた、カロリーモンスター。

 野菜サラダを免罪符に……。


 ドレッシングをかけると、さらに高カロリーっていう。

 


 広大な敷地に、見渡す限りの大学生たち。


 オシャレな陽キャから骨董品のような陰キャまで、より取り見取り!


 ここは、明示めいじ法律大学のキャンパスだ。


 明大めいだいは、郊外を含めて、4つぐらい。

 数ある私立の中でも、トップクラスだ。


 東京の中心で、これほどの敷地と建物。


 薬品や機材を使わない文系は、都心部。

 理工学部は、郊外のキャンパス。


 では、俺は明大生か?


 いいや、違う。


 室矢クァトル大学だ!


 …………


 これには、深い事情がある。


 四大流派をまとめたせいで、一般の大学に通ったらマズいし。

 Fランだった日には、異能者そのものが馬鹿にされる。


 かといって、浪人や高卒でも、同じ話だ。


 正妻の南乃みなみの詩央里しおりと話し合い、他のハーレムメンバーの意見も聞いて――


 四大流派がどこも納得するように、進学したのだ。


 魔法師マギクスが通っている東京魔法大学は、真牙しんが流の管轄。

 そこには、入れない。


 されど、わずか数年でキャンパスや学校法人を作れず。

 非能力者との確執もあって、有名大学に頼めない。


 明大のキャンパスで講義を受けつつ、東魔とうまが実務をすることに落ち着いたのだ。


 室矢クァトル大学については、実績のある私立大学との連携、という名目で、ゴリ押し。

 札束でぶん殴りつつ、圧力をかけたそうな……。


 このまま卒業すれば、『室矢クァトル大学』という学歴だ。

 

 さっきノートをくれた男子は、悠月ゆづき家によるサポート。


 非能力者とマギクスのどちらかは不明だが、俺が単位を落とさないよう、あるいは、護衛をするための学生ってわけ!


重遠しげとお? いったい、誰に説明しているのですか?」


 そちらを見れば、悠月家のお嬢さま。

 悠月明夜音あやねだ。


 高級ブランドを自然に着こなしている女子大生で、俺の妻の1人。


 彼女の幼馴染で、護衛を兼ねている鳴宮なるみや日和ひよりも、会釈。


 そちらにジェスチャーで返している間に、明夜音は両手に持っているトレイを置き、隣に着席した。

 日和も、それにならう。


 明夜音は、野菜サラダをつつきだす。


「警戒したら、どうですか?」


 大勢が行き来する場所では、毒殺か、ヤクを混ぜられる恐れがある。


 非難がましい声と視線が、そう告げていた。


「これでも、ランダムに動いているんだぞ? 未来予知もあるし……」


 息を吐いた明夜音は、室矢家のデータリンクに切り替えて、密談。


『メグとうららが対応したMAですが、スペックだけではなく、設計思想から全く違いました。平たく言えば、ロボットアニメですね? 座って操縦するコクピットブロックがあって』


『警察や防衛軍、その他には?』


『ウチで確保した1機のみ……。家紋のようなマークがあり、調査中です』


 悠月家が、すぐに分からない。


 となれば、よっぽどマイナーか――


『別の世界にある帝国……のような組織かと。分かり次第、お知らせします』


 明夜音の返答に、俺は息を吐いた。

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