第6話 室矢家が動いた結果

 バンッ!


 屋上に続くドアが蹴り開けられ、数人の刑事がセミオートマチックと一緒にこちらを見た。


「警察だ!」

「ゆっくりと、武器を捨てろ!」


 その後ろから機動隊員が現れて、逃げ道を塞ぐ。


 包囲したまま、咲良さくらマルグリットを追い詰めようと――


が欲しければ、よそで適当に捕まえなさい」

「ふざけるな! ネット!」


 現場の指揮官らしき男が叫べば、射出式のネットガンを構えていた隊員が動く。


 けれど、狙いを定める前に、彼女の姿が消えていった。


「見えないだけだ! 撃て!!」

「ハッ!」


 グレネードランチャーを半分にしたような筒から、ネットが飛び出した。

 対異能者で、ミサイルほどではないが避けにくい弾速。


 それは空中で広がりつつ、対象となった人物に覆いかぶさり、動きを封じるのだ。


 直接の綱引きでは身体強化ができる異能者に負けるため、トリモチのように粘着質のネットで手足を動けなくする。


 しかし、その蜘蛛クモの巣は、虚しく屋上のコンクリに落ちた。


 指揮官は舌打ちした後に、すぐ命じる。


「サーマル! 特ケにも、応援要請!」


「ハッ!」

「至急、至急! ――の駅前、ビル屋上にて、異能者のテロリストと遭遇――」


 それぞれに動き出すも、熱源を見ている機動隊員は困惑した。


「屋上に、不審な熱源を見られず!」

「特ケの到着まで、15分!」


 大半の機動隊員、警官は、見えない敵に怯えつつも、下へ降りられる出口の前に壁を作っている。


「念のため、このまま前進しろ! お前たちは、そのままだ」


 半包囲のまま、ゆっくりと歩く。


 それ以上は進めない場所まで歩き、誰もいないことを確認した。


 面倒になり、床の下へ落ちるようにワープした彼女が、ここで見つかるはずもない。



 ◇



 与党のパーティーで、テログループと武器を持ち込ませた外務大臣は、この上なく焦った表情のまま、スーツ姿の男に囲まれていた。


 場所は、左右の建物に押し潰されそうな路地裏。


 彼らは足早に移動しており、その中心にいる構図だ。


「大丈夫かね? 私にはもう――」

「ご安心ください! 我々が、責任をもって護衛いたします」


 リーダーらしき男が返答をしたものの、その目は冷たい。


 肝心のパーティー襲撃による要人暗殺や捕獲が失敗して、目の前の外務大臣を消すかどうかで迷っているからだ。


 閣僚には、警視庁のSP(セキュリティ・ポリス)がつく。

 けれど、彼らにそういった雰囲気はなく、それでいて荒事に慣れた感じ。


 リーダーは、再び口を開いた。


「これだけの騒ぎでは、大使館へ逃げ込むのは危険です! 沿岸で船を奪って、そのまま沖合いで乗り換えましょう」


「わ、分かった! よろしく頼む」


 外務大臣は、もはや任せるだけ。


 クシャクシャになったハンカチで汗をふく姿に、どこかの特殊部隊らしき男は一瞥いちべつをくれたのみ。


 とにかく、全員が乗れる車と、できればおとりも――


「外務大臣? そこにいるのですか!?」


 誰何すいかの声で、SPに成りすましている特殊部隊は、全員が銃のグリップに手を伸ばした。


 立ったままで縮こまる外務大臣に対し、リーダーが堂々と応じる。


「警視庁の警備部です! たった今、そこで外務大臣を見つけて、保護しました。あなたは?」


 相手は20歳ぐらいの男で、私服だ。


 と思ったら、姿が消える。


 警戒していた特殊部隊は、ホルスターから銃を抜いた。


「Watch out!(警戒しろ!)」


 外務大臣を中心に、全方位を見る。


 守られている外務大臣の足首2つが、何者かの両手でつかまれた。


「なっ!?」


 驚きの声を上げる間もなく、水面から落ちたように消える外務大臣。


 その尋常ならぬ叫びで、警護している男たちが振り返れば――


 さっきの若い男が立っていた。

 両手でハンドガンを持ち、両脇を締めたままの構え。


 パンッ! と発砲しつつも、そのリコイルを活かして、反対側の相手も撃つ。


 パパパンッ! と銃声が重なり、ドサリと倒れる男たち。


 あり得ない位置からの攻撃で、まったく反応できず。


 トドメで頭に一発ずつ撃ち込まれ、どこかの特殊部隊は全滅した。


 ホルスターに拳銃を収めた室矢むろや重遠しげとおは、さっきの外務大臣のように地面から落ちる。


 銃声を聞いた警察が駆けつけた時には、国籍不明の死体が見つかっただけ……。



 ◇



『発見された外務大臣は「騒ぎになった責任と体調不良で、公務の継続を断念したい」と申し出て、総理による解任となり――』


 義理の父親である桔梗ききょう巌夫いわおを通して、捕まえた外務大臣を引き渡した。


 久々の室矢家による出動だったが――


「美少女アンドロイドに熱を入れて、そこに付け込まれたと……」


 咲良マルグリットが、呆れたように突っ込む。


「仮にも、一国の大臣がね? 重遠は……心配いらないか! 合法ロリ枠だけで二桁なのだし」


「俺も、好きでこうなったわけじゃない! うららは大丈夫か?」


 天ヶ瀬あまがせ麗は、疲れた様子だが、笑顔を作った。


「はい! メグさんに助けてもらいましたけど……」


「キャリアが違うわよ! 初陣で私より上手くやれるようなら、逆に自信をなくすわ」


 マルグリットのフォローで、この大事件は終わった。


 少なくとも、ウチでは……。


「そうだ! 私が撃破したほうのMA(マニューバ・アーマー)だけど、明夜音あやねから連絡があって」


 ――どうやら、地球上にない技術らしいわよ?


 その言葉は、新たなステージの幕開けだった。


 理解したのは、かなり後だったが……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る