19話

チュンチュンチュン―

小鳥のさえずりで目が覚めた。

重たい瞼を開け、ぼんやりとした視界で外を見る。

…人の行き来が多い。そして朝から賑わっている。

王都に来たんだなと実感する。


「あら起きた?調子はどう?」

「…おはようございます、師匠。調子はまぁまぁですね」

「そう、ならよかった。ご飯できてるわよ」

「ありがとうございます」


僕の師匠、エルレイト・アズリームさんは普通に家事をこなす。

掃除、洗濯、料理etc…魔法で全部出来そうだが本人曰く、「何でもできるようにしとけば女子力が上がるってもん。私が嫁になっても相手を後悔させない為よ」とのこと。がしかし。相手はいない。独身。

下へ降りると食卓の上にはサラダとトーストにミルクが置いてあった。


「お弁当もあるからね、これも持っていくのよ」

「ありがとうございます」


朝ご飯を頬張り支度をする。

この日のために買ってもらった、新品の服を着る。

これでも一応貴族だし身だしなみを整えておいて損はないだろう。

筆記用具…は用意されてるみたいだけど念のため。

魔法に関してはどうしよう。杖を持っていないと流石に怪しまれるだろうか。

頭を悩ませているとそれを見かけた師匠が何かを察して小ぶりな杖を持ってきた。


「…アル君。はい、これ。私がまだ見習いだったときに使ってた杖。おさがりで悪いんだけど…魔法が使えなくても杖は持ってないとね」

「師匠……ありがとうございます!」


ありがたく杖を受け取った。なんていい師匠を持ったのだろう。


『杖なんて私の刀を持っていけばいいじゃろうに』

『さすがにそれは出来ないよ…ちらっと聞いた話、剣術の授業が一応あるみたいだからその時にかな…』

『むぅ…』


あとは弁当箱をカバンに入れて、準備オッケー。

ここから学校までは徒歩で15分ほどの場所にある。

そろそろ家を出ても問題ないだろう。


「じゃあ師匠、僕頑張ってきます」

「うん…気を付けてね。頑張って」

「いってきます」

「いってらっしゃい」


こんな会話をしていると、本当に師匠が家族のように思える。

歳の離れた姉…のような感覚だろうか。

ちょっと不思議に思える人だ。


―――――――――


エルレイト・アズリームは昨日から考え事をしている。

弟子に取っている少年、アルライト=ノクオーツ君のことに関してだ。

伯爵に依頼されたときは驚いたけど、内容を聞いて若干うんざりしたのが最初の頃だ。

あの子は実に不思議だ。この世界は魔法が大半を占めている。

そんな世界で魔法が使えないだなんて…私には想像がつかない。

きっと絶望しているだろう。今頃生きているかすら怪しいかもしれない。

なのにあの子は常に前向きだ。正直羨ましいし、たまに助けられることもある。


そして何より昨日の出来事。

私が今一番引っかかっていることだ。

魔法が通らない、得体の知れないオオカミに私はやられていたはず。

目が覚めたときにメリアとアル君には私が倒した、と強引に言われたが倒したかやられたかなんて自分が一番わかってる。

なのに助かっている。

通りすがりの凄腕に助けられたのだろうか。

でもそんな凄い人なら私の探知魔法にかかる。


私は誰に助けられたの?


さっき、直感でアル君に杖を渡さないといけないと思った。

どうして…?

アル君、君が私を助けたの?

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