第67話 妖刀風殺 1
下呂矜持は26年も宮大工見習いを続けている、
仕事が終わると、風呂に入り飯を食って寝るだけ。
30分ほど車で走ると、小さな集落があり、農協のスーパーがあるだけ、コンビニすらない。
まったく遊ぶところが無いのだ。
パチンコしてぇ、飲みに行きたい、カラオケ、エンターテイメントのかけらも無い場所。
「 下呂! 雑な仕事しやがってぇ やりなおせ! 」
12歳も年下の宮大工に怒鳴られる、俺のほうが8年も早く親方の元で始業を始めたのに、すでに一人前の宮大工としてみとめられ、小間使いのように命令し文句まで、26年も宮大工見習い、やってられるかぁ。
酒でも飲まなければ耐えられない、しかし、酒もねぇ。
気が狂いそうになっていた。
親方や他の宮大工は仕事を終え、宿舎に引き上げた、俺だけ居残り、千木(ちぎ)と鰹木(かつおぎ)の組み合わせのやり直し、ミスをしたので、直せと命じられたのだ。
くそぉーーっ! 何度やってもうまくできねぇ。
すっかり日が落ちて暗くなってきた。
そのとき誰かに呼ばれているような気がした。
「 誰だ! 」
「 こっちゃこい、こっちゃこい、お前の望みをかなえてやろう。こっちゃこい、こっちゃこい 」
耳からじゃない、頭の中に直接声が聞こえる。
刀隠神社の宝物庫には、数々の妖刀が封印され奉納されていた。
名前からして想像できるように、いわくつきの刀を封印している神社である。
その中の一振りの封印が弱まっていた。
妖刀風殺、極端に湾曲した刀身の刀である、そのため鞘が無い、むき出しの刀身に布をまきつけお札を巻き付け封印され木箱に保管されていた。
鞘が無い分封印に弱点があったのかもしれない。
木箱をネズミがかじり穴が開き、刀身が巻かれた布もネズミがかじってほころびができていた。
「 こっちゃこい、こっちゃこい 」
意思の弱く、周りの者に追い越されいつまでも下働き、心の奥底にどす黒い物が燃えていた、下呂は言葉に誘われふらふらと、神社の宝物庫に、当然鍵がかかっていたのだが、手持ちの大工道具を使って鍵が取り憑けてある部分を壊して中に入る。
「 こっちゃこい、こっちゃこい 」
桐の箱にある封印のお札を破り、箱の蓋をあけ、妖刀風殺の柄を手に取り、刀身に巻き付いている、布をお札事はずしてしまった。
その後下呂の意識は無い。
宮大工達は神社の建物を間借りしている、ふと下呂は正気にもどった。
「 ひっ 」親方や宮大工達が血まみれで倒れていた。
「 お、おやかたぁ 」声を出し駆け寄ろうとして気づいた。
左手に血まみれの刀を握りしめていたのだ。
「 なんだぁーーーーっ! これわぁーーっ! 」
慌てて刀を放り投げようとしたが、刀を握りしめたままで、手を放す事もできない。
下呂は逃げた、なんとなくだが、憎たらしい宮大工達、俺を認めようとしない親方を刀で斬ったような気がしてならなかった。
妖刀風殺は血を求めた、人が斬りたくて斬りたくてたまらない、再び下呂の意識を乗っ取り、神社の関係者を切り殺す。
冷蔵庫に入っていた食べ物を野獣のように食い散らかし、姿を消す。
下呂は夢の中にいるようだった意識が戻ると、知らない家の食卓で飯を食っていた。
テーブルの周りには、血まみれの大人2人と幼い子供二人が倒れていた。
「 なんだぁこれわぁーーっ! 」
刀隠神社での大量斬殺事件、超犯罪課が動き出していた、持ち出された妖刀風殺、妖刀の中でも人の血を好み斬殺を繰り返す最悪の一振りである。
封印されている桐の箱にネズミがかじったような穴が、刀に巻き付けてあった布も同じように、管理がずさん、宮大工見習いの下呂氏が行方不明、妖刀風殺は彼に取り憑いた模様。
妖刀に取り憑かれた男として全国指名手配。
下呂は体が乗っ取られているときでも、意識があるようになってきた、何をしているのかわかるようになってきたのだ。
15人かぁ大学のクラブのようだ。
俺なんか高校を強制退学させられ17歳から宮大工見習い、なんて奴らだ、いらつき殺したくなってきていた。
いつの間にか罪の意識なくなり、妖刀に毒されている。
「 くふふふふ ええ女がいるじゃねぇか 」
妖刀でぶった斬った後、体の主導権が俺になれば、苦節43の童貞から抜け出せるかも
「 なぁ刀よぉ、血を吸ったら俺にも楽しませてくれないか 」
「 生きて無くて死体で十分だからよぉ 」
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