第3話 転生

「 猟(りょう)、猟、猟 」誰かが俺を呼んでいる、体をゆすられている。


 誰? この人、何処かで見た事があるような、


「 大丈夫なの、わかる、ベランダでつまずいて、落下防止の鉄柵に頭をぶつけて、気絶したのよ、凄い音がしたわ、丸一日寝ていたのよ 」


 頭が覚醒してくる、ママ?

「 きゃーーっ! 」


 俺は、お袋を押し倒し、胸に顔を押し付け、大号泣、泣き喚いた、幼児化したのかも。

 8歳の時死に別れてから時間が停まっていたのかも、27年も心にいた人が目の前に、涙腺が崩壊しまくってどうにもならないというか、引っ付いて離れなくなってしまった。


 頬っぺたとか、腕とか、腰、足にも、湿布など、お袋の悲鳴で、駆けつけた看護師さん、警備員、近くにいた人が、美女に襲い掛かった変態を撃退すべき立ちまわった結果である。


 お袋は、救急車を呼んで病院に俺を搬送、どうやら病室で寝ていたようだ、


「 息子です! 変態じゃありません 」


 お袋の必死の説得により、開放され、もともとレントゲンなど何処にも異常が無いのに、寝ていただけというのもあり、殆んど無理やり退院させられた、病院関係者は28人も怪我をしたとかいう話だ。


 頭の中は混乱の極み、死んだはず、いや間違いない、農薬飲んだ記憶がある、タクシー横のシートに座っているのは、8歳のとき魔薬常習犯に殺されたはずのお袋。


 俺の記憶にある家、お袋が台所にたっている、テーブルにならんだ手料理、ハンバーグと肉じゃがが並んでいる、ご飯をよそおってくれている、口に入れる、湧き上がる感激、再び涙腺大崩壊。


 俺を風呂に入れ、抱きしめて一緒に寝てくれたようだ。


 ようやく、正常というか、35歳、自称殺し屋、悲願を達成して死んだはずの、自分が戻ってきた。


 これは、別世界というのか、平行世界とでもいうのか、麻薬常習犯に命を奪われなかった、別の世界に魂だけが、移動してきたのだろうか、ベランダでコケて落下防止の鉄柵に頭を打ったらしい、別世界の俺だとしてもそれはないだろう。


 お袋の抱き枕から脱出し、部屋をウロウロ、俺の部屋なのか、勉強机の上に筒がある、中学の卒業証書が入っていた、高校入学前?


 俺のベッドで眠っているお袋、 顔が沸騰してきた、平行世界転生、初日にして、35歳の精神年齢、沈着冷静な殺し屋であるはずが、8歳の子供に幼児化、母親に抱き付き大号泣をかまし、引っ付いて離れなくなり、お風呂に入れてもらい、体も洗ってもらい、服も、着せてもらい、ご飯も食べさせてもらい、一緒に寝てもらった。


 幾ら何でも、終わった気がする、穴があったらどんな小さな穴だって入る自信がある、お袋が起きたら、どんな顔したら良いのか。


 いきなり、破綻しているじゃないか。


 お袋の寝顔ガン見、やっぱ美人である。

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