第10話 どうやら失敗したようです。
大きなドラゴンの鳴き声に思わず全員が目を向ける。
空の彼方をドラゴンが飛んでいた。
どこかへ向かっている。
「カデリアさん! あれがドラゴンじゃないですか!?」
「兄様、私怖い!」
「想定よりも大きいわね……」
少なく見ても大の大人十人分はありそうな巨大なドラゴンだった。
ドラゴンは大きな鳴き声を上げると、森の奥へと飛んでいく。
「追いかけましょう! あっちが巣穴なのよ!」
ドラゴンが飛んでいった後を追うと、やがてすぐに巣と思しき洞窟が見えた。
森の奥に山があり、その一画が洞穴になっているのだ。
それもかなり大きなものだった。
確かにここならドラゴンも入れそうだ。
「こんなところに穴があるなんて」
「想定よりも街に近いわね。今まで飛んできていないのが不思議なくらい」
スゥッとカデリアさんは深呼吸する。
「いい二人共、こうした大型の魔物を相手する時は、しっかりと相手の様子を観察してチャンスを伺うの。いきなり飛び込んで行ったりしちゃダメよ」
「なるほど」
カデリアさんが言った直後、ルナの方をチラリと見る。
視線を感じたルナは少し不快そうに「何ですか」と言った。
「いや、ちょっと嫌な予感がして。勝手に飛び込もうとしてないかなって……」
「な……! そんなことしません!」
ルナがムッとした顔をする。
カデリアさんが慌てて両手を上げた。
「ごめんなさい、バカにするつもりはなかったの。ただ、無茶はしないでほしいなと思って」
「無茶なんてしません。今日の私たちはあなたの補助です。それに――」
ルナはチラリとこちらをみる。
「……兄様に危害が及ぶようなこと、したくないですから」
「ルナ、ありがとう。僕を気遣ってくれたんだね」
「キャッ、兄様……」
「あのー、イチャつくのやめてもらっていい?」
ふぅ、とカデリアさんは一息つく。
「とにかく、ドラゴンが眠るのを待ちましょう。きっとさっきのは餌を取りに行った帰りのはず。だとすれば、餌を食べた後に眠るかもしれないわ。寝静まったところを剣で一突きにする」
「えー! 卑怯!」
「それが一番安全な戦い方なのよ!」
カデリアさんに言われたことを僕がメモっていると、カデリアさんはその様子を静かに眺めていた。
「妹さんはお転婆みたいだけど、お兄さんの方はずいぶん真面目なのね」
「そうですか?」
「冒険者でわざわざメモを取るような殊勝な人、そういないもの」
「そう言うものですかね」
何となく前世の会社員時代の記憶がまだ残っているから習慣づいているのかもしれない。
僕が首を捻っていると、カデリアさんはふっと笑みを浮かべた。
「あなた、頑張れば伸びるかもね。地道に努力できる人は伸びるから」
「だといいですね。頑張ります」
二人してはにかんでいると、ヌッと視界にルナが割って入ってきた。
「はい、この話ここで終了です。これ以上兄様と見つめ合うの禁止」
「あら、あなた妬いてるの?」
「妬くとかっていう低次元なものと一緒にしないでください。私と兄様は一蓮托生、運命で結ばれた存在ですから。もはや肉体が重なり融合された
「それどうなんだ……」
思わず呆れてため息が漏れる。
すると不意に洞窟の奥から深い吐息のような音が聞こえてきた。
カデリアさんが「来たわね」と立ち上がる。
「予想以上に早かったわね。ドラゴンが眠ったのよ。もう少し待機して中に入りましょう」
僕はルナと顔を見合わせて、そっと頷いた。
一気に緊張が走る。
数分ほど経ってドラゴンが起きる気配がないため、僕らは洞窟の中へと足を踏み込んだ。
物音を立てないように慎重に進んでいく。
ドラゴンは果たして洞窟の奥で眠っていた。
大きな空間があり、その中心で獣のように頭を降ろして眠っている。
この状態なら、喉に剣を突き立てるのは難しくなさそうだ。
いつもならルナが突進していてもおかしくない状況だが、散々カデリアさんが警告したのが効いているらしい。
ルナも真剣な表情をしていた。
僕に万一のことがあってはならないと思ってくれているのかもしれない。
「私がドラゴンの懐に入るから。二人は安全な場所で見ていてちょうだい」
「わかりました」
ソロリソロリとカデリアさんがドラゴンに近づいていく。
ドラゴンに近づくカデリアさんの表情は真剣そのものだ。
僕らも思わず固唾を呑む。
もうすぐでドラゴンの喉元に手が届くと言う時。
不意にカタリと音が鳴り響いた。
カデリアさんの踏み出した足が、小さな石に当たったのだ。
ドラゴンが目を覚ました。
「しまった!」
彼女が叫ぶのとほぼ同時に、ドラゴンの鋭い尻尾が辺りを薙ぎ払う。
ドラゴンの尻尾を真正面から打ち付けられたカデリアさんは吹き飛ばされ、やがて倒れ込んだ。
「カデリアさん!」
「あ、兄様! 危ないわ!」
慌てて僕は岩場から姿を出し、近くに倒れ込んだカデリアさんへと駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「うう……油断したわ」
よかった、何とか意識はあるみたいだ。
安心したのもつかの間、大きな唸り声が頭上から聞こえて、僕はヒュッと息を飲んだ。
起き上がったドラゴンが、こちらを睨んでいた。
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