第9話 ドラゴン討伐に行くそうです。
次の日。
僕らは家を出てギルドでカデリアさんと合流することにした。
「うう、遅いわね……。まだ来ないのかしら」
「まだここに来て5秒しか経ってないよ、ルナ」
「兄様、本当にあの人に鍛えてもらう必要があるの? 兄様だったら私が鍛えてあげるのに」
「ルナだと僕のことをまともに指導できないだろ?」
「うぅ……出来るもん」
「例えばどうやって?」
「まず兄様には服を脱いでもらうの。そして私が乳首にむしゃぶりつく。兄様はその刺激に耐えながら剣を振るうの。良いアイデアでしょ?」
「今の話一旦忘れようか」
我が妹ながらどんどんクリーチャーになってきている気がする。
実家という足かせが無くなった今、彼女を止める人間はいない。
僕はそっとため息を吐いた。
「あのカデリアさん、ギルドでもかなりの実力者みたいだし、色々学べることが多いと思うんだ。他の人と一緒にいるのに不安もあると思うけど、この街に来て最初に親切にしてくれた人だし、この縁は大切にしたい」
「兄様がそう言うなら良いけど……もしあの人が兄様を狙ってるなら、私、容赦出来ないかも知れない」
「心配しなくても大丈夫だよ。僕が一番大切にしているのは、ルナだからね」
「兄様……頭撫でて撫でて」
「仕方ないな。よしししししわしゃしゃしゃしゃしゃ」
「うにゃにゃうにゃうにゃにゃにゃ」
「あの、ギルド前で変なことしないでくれない?」
僕がルナを揉みくちゃにしていると、呆れた顔のカデリアさんが立っていた。
彼女はクイとギルドの中を顎で指す。
「入りましょ」
ギルドにあるボードを僕たちは眺める。
学校の黒板ほどの大きさがあるこの巨大なボードには、等級ごとに多数の仕事の依頼が貼られている。
王都ではあまり分からなかったが、辺境にあるこのブリンデルでは魔物の被害が大きいらしい。
この国は王都を中心に国の敷地が塀で囲まれている。
だが正確には、外の敷地も一部国の領土なのだ。
守りが浅い土地では、近年魔物の被害が多く出ていると聞いたことがある。
治安も悪化しているため、盗賊などの被害もあるらしい。
諸外国からやってくるキャラバンなども傭兵を雇いたがっているため、そうした仕事がこのギルドに回されるのだ。
最下級の
中には屋敷の掃除や畑仕事の手伝いなどもあり、あまり質が良い仕事とは言えない。
雑用として扱われることが殆どらしい。
僕が何気なくボードを眺めていると、カデリアさんはマスター等級の仕事を一つ掴んできた。
「今日はこの仕事を受けるわ」
彼女が持っている用紙には『レッドドラゴン討伐』と書かれている。
「ドラゴンって書かれてますけど」
「ドラゴンって書いてあるもの」
「ドラゴンは上位種でしょ? 僕たちは最弱の冒険者ですよ? 危険です」
「大丈夫よ。今回は小型のドラゴンだし、二人にはあくまでサポーターとして私の討伐に参加してもらうから。私、こう見えてもドラゴンなら何度も単独討伐をしているの。それも大型のやつをね。私とドラゴンの戦いを見て、魔物討伐の学びにしてちょうだい。いきなり剣技を教えるより、まずは基礎知識をつけてもらうわ」
「それはありがたいですけど……。カデリアさんは良くても、ギルドが認めないでしょう」
「どうかしらね」
カデリアさんはニンマリと笑みを浮かべると、受付にいるマリーさんと何やら話していた。
マリーさんは酷く驚いた顔をした後、こちらをチラチラ見ている。
一体何ごとだろう。
僕はルナと顔を見合わせる。
ルナもよく分かっていないようだった。
やがて一通り話を終えると、カデリアさんは戻ってきた。
「認められたわ。私のサポーターとして二人には参加してもらうからって言っておいた。報酬もちゃんと分けるつもりだから、二人にとっても悪くない話のはずよ」
「はぁ……?」
なんだか腑に落ちないが、確かに彼女の言う通り悪い話ではないように思える。
不穏な気配を感じながらも、僕たちはカデリアさんに従うことにした。
街の市場で一通り必要なものを揃え、僕たちは件のドラゴンが出たという洞窟へと向かう。
街から数時間ほど歩いた場所にあるらしい。
今回はドラゴンはその程度の距離であれば簡単に飛行できてしまう。
馬なども有していない僕たちは徒歩で向かうことになった。
「にしてもあなた達、本当に何も持っていなかったのね」
歩きながらカデリアさんが呆れた顔をする。
「武器は小型のナイフのみ。それでいきなりギルドに登録して仕事を受けてるんだもの。死んでてもおかしくなかったわよ」
「こっちも色々事情があって」
「私と兄様のことに口出ししないでください」
ルナが不機嫌そうにカデリアさんを睨む。
しかしカデリアさんは動じず、そっと肩をすくめた。
「あなたのお兄さんが怪我したのだって、その準備不足のせいかもしれないのよ?」
ウッとルナが口を閉ざす。
カデリアさんは続けた。
「昨日はゴブリンだったから、不意をつかれても軽傷だった。でもあれがもし凶悪な魔物だったら? 致命傷になっていてもおかしくないかもしれない。準備をしておけば、そう言うときの応急処置も出来るし、ダメージも軽減出来るの。あなたの適当な判断がお兄さんを危険に晒していたかもしれないのよ?」
「うぅ……ごめんなさい」
シュン、とルナはうなだれる。
「ルナ、あなたは強いかも知れない。でもその調子じゃ、きっとすぐに死んでしまう。お兄さんが。だから鍛える必要がある。お兄さんを」
枕詞のように挟まれる罵倒に心が削れる。
「ところで、昨日の戦いは見事だったわね。ルナはどうしてそんなに強くなったのかしら? 特別な修行でもしてたの?」
「それはたぶん、僕のスキルのせいです」
「どう言うこと?」
カデリアさんが首を傾げたその時。
大きな咆哮がどこからか聞こえてきた。
それは、ドラゴンの鳴き声だった。
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