第7話 私とパーティを組んでくれませんか。
私はカデリア。
ギルドではマスター等級に位置する冒険者だ。
こう見えて割と名前は知られている。
自分でいうのは何だがかなりの実力者だと思う。
「それじゃあカデリアさん、こちらがベヒーモス討伐の報酬です」
「どうも」
ギルドのカウンターにて。
あまり釈然としない形でベヒーモス討伐の報酬を受け取る。
以前村で見かけた、魔物の中でも上位種にあたるベヒーモス。
結局このベヒーモスを討伐したであろう人物を見つけ出すことは出来なかった。
一撃で仕留めていることからも、おそらくは単独での討伐のはず。
もらった報酬が入った袋を眺めていると、何やら横のカウンターが騒がしかった。
受付のマリーに後輩のディナが話しかけている。
二人とも私とは顔見知りだ。
「マリーさん……」
「どうしたの?」
「さっきの冒険者の二人、もしかして初心者の方ですか?」
「そうよ」
言われた瞬間、ディナの顔が曇る。
「実はあのウェアラットの森、ゴブリンの巣が出来てたらしくてかなり危ないってさっき情報が入って……」
「えっ?」
「ゴールド等級の依頼を掛けてるんですけど、大丈夫でしょうか……」
「そんな……」
「どうかしたの?」
気になって声を掛けると二人がすがるような顔で私を見ていた。
「カデリアさん。実はさっき依頼を受けていただいた冒険者二人が、ゴブリンの巣がある森に入ってしまうみたいで」
「ゴブリンの生息数は?」
「正確な数は……。でも数十以上はいると思います」
「それは大変ね……」
下位の魔物と侮られるゴブリンだが、群れるとこれがなかなか厄介だ。
舐めてかかって犠牲に遭った冒険者が何人もいることを私は知っている。
少なくとも、今日冒険者登録をしたような新米には相手できない。
「大変ね。私が追いかけるわ」
「いいんですか?」
「報酬を弾んでくれるならね。本来なら金等級の依頼だろうけど、特例で受けてもいいでしょ?」
「助かります。よろしくお願いします」
私は二人に見送られ、ギルドを出た。
こうしてギルドに貸しをしておくのは悪いことではない。
それに多数のゴブリンも、私であれば問題なく処分できるだろう。
ゴブリンが大量発生しているという森へ向かう。
近くに畑がある場所だが、割と奥深くまで森が続く場所だ。
ウェアラットが出現するのは森の手前だが、見つけられずに奥まで進むと危険だろう。
案の定、そこに新米冒険者らしき人物の姿はない。
私は森の奥へと進んだ。
森の途中で、樹に血液が付着していることに気がついた。
よく見たら近くの枝が折れたり、交戦した形跡がある。
襲われたのかもしれない。
「急がないとね……」
すると森の奥から人の声が聞こえた。
声が荒い。
戦っているのだ。
私は急いで森を進み。
唖然とした。
「このクソ魔物! 私の兄様に何怪我させてるのよ!」
「ルナぁ! もうやめてあげてよぉ!」
「離して兄様! コイツ、私の兄様の顔に傷を! 傷をぉぉぉぉ!!」
可憐な美少女がゴブリンをボコボコにしている。
夢でもみているのかと思った。
あんな可憐そうな女の子が?
しかも徒手空拳で?
そんな冒険者を見るのは初めてだ。
そもそも装備すらまともに整ってないように見えるし。
ちょっとお買い物出て来ます、みたいな。
何かの間違いだと思いたい。
すると彼女の背後から別のゴブリンが姿を表した。
仲間がやられているのをみて激昂している。
二人がそれに気づいている様子はない。
「危ない――」
私が掛けよろうとしたその時。
背後から飛びかかったゴブリンをヒョイと回避した少女が、すれ違いざまにゴブリンの顔面に掌底を叩きつけた。
吹き飛んだゴブリンが仲間を巻き添えにして樹に叩きつけられている。
「はぁっ!?」
思わず驚きで声を上げた。
その間も二人を囲んだゴブリンが次々に襲いかかっては少女に返り討ちにされていた。
十匹のゴブリンが一斉に飛びかかるも、少女の旋風脚で薙ぎ払われている。
「もぉ! じゃま! 気持ち悪い!」
少女は叫ぶと向かってくる50匹はいるであろうゴブリンの軍勢に飛び込んでいく。
拳でゴブリンの顔を潰し、蹴りでゴブリンを吹き飛ばす。
残像で手足が100本近く見える。
目に見えぬ速度で確実にゴブリンを仕留めていた。
鬼神のごとき戦いぶりだ。
「しゅごい……」
あまりの迫力に私は呟いた。
「もう、ちょっとウサギを狩りにきただけなのに最悪だわ!」
数分後、ゴブリンの軍勢をさせた少女がプリプリ怒っているのをみて私はハッとして立ち上がる。
「ちょっと待って! あなたたち!」
去ろうとする二人に駆け寄った。
私が近づくと先ほどの少女がジト目でこちらを見てくる。
「何ですか、あなた」
「私はカデリア。ギルドから依頼を受けた冒険者よ。ここら辺でゴブリンが巣を作ったって聞いて来たの」
「ゴブリンって、ひょっとしてさっき倒した魔物のことかな?」
青年の方が首を傾げる。
顔を少し怪我していた。
ゴブリンにやられたのかもしれない。
私は頷いた。
「まさにその通りよ」
「ゴブリン退治は上級の冒険者の仕事だと聞いてたのですが……」
「そう。だから私が派遣されたってわけ。あなた、怪我してるのね。見せてみて」
私がそっと青年の顔に触れると、少女が目玉飛び出そうなほど目を見開いていた。
「テガ! ニイサマのホホにテガ!」
「私、こう見えてもスキルで治療魔法を持っているの」
私がそっと念じるとほのかな輝きが満ち溢れ、青年の少し赤くなった頬をあるべき形へと戻していく。
「もう大丈夫。軽症で良かったわね」
「あ、ありがとうございます」
私が大人の女性らしい笑みを浮かべると、照れた青年が顔を赤くした。
利発そうな顔立ちのなかなか可愛らしい子じゃない。
そう思っているとひょいと青年が少女を抱えた。
「どうもありがとうございましたぁ。じゃあ私たち急ぐんでぇ!」
「ちょっと待って!」
「まだ何か用なんですか……?」
おかしい。
助けたはずなのに何だか敵対視されている気がする。
しかしここは引くわけにはいかない。
私はそっと先ほどの少女に目を向ける。
「あなた、お名前は?」
「えっ……何でですか」
「あなた、私とパーティを組む気はない? あなたの強さ、本物だった。私とあなたならレジェンド級の冒険者になることも夢じゃないはずよ」
マスター級冒険者の私からの誘いである。
一気に等級を上げるチャンスでもあるし、これほど美味しい話はないはずだ。
しかし少女は顔をしかめた。
「嫌です……。兄様の近くに他の女がいるのが」
「えっ?」
「行きましょう兄様。報酬をもらうわよ」
「ちょっとルナ! 抱えないで! 大丈夫だから! ルナぁ!?」
ルナと呼ばれた少女は青年をスタスタと歩いて行ってしまった。
断られると思っていなかった私は呆然と二人を見送り、森に取り残される。
大量のゴブリンの死体と共に。
「まさか断られるだなんて……」
ワナワナと手が震える。
悔しさかと思ったが違う。
私は感動していた。
まさかあれほどの武の境地に立つ人間がいるとは。
「確かルナとか言ったわね。あの子、本物だわ」
私は確信していた。
あの子と組めば天下を取れる!
「待ってなさいよ、ルナ。必ず私の相棒になってもらうわよぉ! ホホホ、ホホホホホ!」
ゴブリンの死体が散らかる最中、私の笑い声だけがどこまでも響いた。
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