第6話 冒険者になるそうです。

 ルナに手を引かれ家を出る。

 一体どこに連れて行こうっていうんだ。


「ルナ、どこに向かってるんだ?」

「いいから着いてきて。私と兄様が一緒に働ける場所を見つけたの」

「うん……?」


 そんなにポンポン仕事が見つかるだろうか。

 疑問に思っているとルナが不意に立ち止まる。


「ここは……」


 ルナに手を引かれてたどり着いた場所。

 それは冒険者ギルドだった。


 数多くの冒険者が集まるこの街で出来た、冒険者専用の仕事場。

 話には聞いたことがあったが、実際に来るのは初めてだ。


 中に入ると、ギロリと視線が僕らに集中する。

 いずれも強面の男たちだった。

 その迫力に、思わず一歩身を引く。


「こっちよ、来て!」


 ルナに呼ばれて受付のカウンターへ。

 さっきから「カップルかよ」「死ねよ」「ここはデートスポットじゃねぇんだぞ」とか言われてる気がするのだが聞こえないふりをする。

 受付は女性のスタッフが対応してくれた。

 メガネを掛けていて、厳しそうな雰囲気の人だった。


「私たちここで働きたいんです! 冒険者パーティーとして」

「ご登録ですね。承りました」

「パーティー? もしかしてここで依頼を受けて日銭を稼ぐっていうのか?」

「そうよ! 私たちが一緒にパーティーを組めばずっと一緒にいられる! それにお金も稼げて一石二鳥よ」

「でも……」

「お言葉ですが」


 口を挟んできたのは受付の女性だった。


「ギルドの仕事は非常に危険です。油断するとすぐに死に繋がります。もし一緒にお仕事がしたいだけなのであれば、あまりオススメはいたしません」


 すると背後のテーブルに座っていた冒険者たちも「ガハハハ」と笑い声を上げる。


「マリーの言うとおりだぞ坊主ども!」

「デート気分で仕事したいなら他を当たるんだなぁ!」

「すぐに魔物の餌になりたいなら話は別だけどよ!」


 騒ぎを見ていたギルド中の冒険者に笑われる。

 いや、これは笑われても仕方ないのかも知れない。


「ルナ、ギルドの仕事は危険だって聞くし、帰ろうか……」


 声を掛けるもルナは無反応で、スタスタと男たちに近づいていく。


「おっ? 何だ? 彼氏置いて俺たちの相手してくれんのか?」


 ルナは静かに男たちを睨みつけると、テーブルを思い切り拳打った。

 瞬間、テーブルが粉々になり男たちが壁まで弾き飛ばされる。

 木片が辺りに散らばり、先程まで嘲笑で満ちていたギルド内は一瞬で静寂に満ちた。

 マリーと呼ばれた機械のような女性すら、メガネをずらして顔を青ざめさせている。


「他に誰か文句でも?」


 ルナの言葉に全員俯いた。

 もはや誰も逆らうことは出来ない雰囲気だ。

 僕ですら。


「さっ、兄様。手続きを始めましょ」

「そうですね……」


 受付のマリーさんに手続きを進めてもらう。

 先程の騒ぎがようやく落ち着いてきた頃、入口から女性が入ってきた。


「カデリアよ。ベヒーモスの討伐報酬をいただきたいのだけれど」


 肌の黒い長い髪の女性だった。

 切れ長の目をした、凛々しい印象の人だ。

 腰に剣を二本差している。

 この人も冒険者だろうか。


 見ていると不意に目が合う。

 ついじっと見てしまった。

 軽く会釈しておく。


「ベヒーモスの討伐だってよ。さすがマスター級の冒険者だな」

「単独で打ち取るなんて不可能だろ、普通」


 他の冒険者のうわさ話が耳に入ってくる。

 昨日ルナが単独でほふっていた気がするが、やはりあれは異常な状況だったのだと改めて自覚した。


「カデリアさん、こちらが報酬です。今回も大活躍ですね」

「それがそうでもないのよ」


 カデリアと言われた女性はそっと肩を竦める。


「実はこのベヒーモス、倒したのは私じゃないの。だから本当は報酬を受け取るのも迷ったんだけど、もらえるものはもらおうかなって」

「えっ? どう言うことですか?」

「このベヒーモス――」


 気になって耳をそばだてていると、「お待たせしました」とマリーさんが戻ってくる。


「ただいまを持ってお二人のギルド登録が完了しています。これはお二人の生死の管理や等級を管理するものです」

「等級?」

「はい。ギルドでは実力に合わせて等級が存在します。等級が低い方には危険度の低い依頼を。等級が高くなればなるほど危険度は上がりますが、その分報酬も跳ね上がります」


 ギルドでは樹・銅・銀・金・プラチナ・ダイヤ・マスター・レジェンドと八等級が設けられているのだという。

 一件の討伐で数日生活出来るレベルになるにはゴールド以上のランクが必要であり、それ以下はかなり数をこなさなければ生活も厳しいらしい。

 確かに報酬の相場を確認したが、低等級の金額は仕事一つでパンが一個買えるかどうかと言うもので、かなり低賃金だった。


「等級を上げるには100件以上の適正等級の依頼をこなすか、上位の魔物を倒す実績が認められなければなりません。その二つの内どちらかをこなしていただくと、ギルドが指定する昇給試験を受けていただけます」

「等級試験の内容は?」

「基本的には一つ上の等級の依頼をこなすというものになります」

「なるほど……」

「ですが、白銀以上の等級を目指す方はあまりいません。依頼がかなり危険になってくるので。また、等級が上がると下位の依頼は受けられませんのでご注意ください」


 意外としっかりとした仕組みなんだな。

 何となく感心していると「早速依頼を受けましょ!」とルネが声を出す。


「私たちの家をもっと暮らしやすい場所にしたいもの。この仕事お願いします!」


 ルナがそう言って提出したのは、なんとも愛らしい動物の駆除依頼だった。

 ウェアラット三匹の駆除と書かれている。


「すごい可愛い動物だな……」


 僕がまじまじと依頼内容を眺めていると「魔物です」とマリーさんが言う。


「魔族国家で繁殖し、この近隣にも出現するようになりました。増える前に駆除してもらいます」

「もっとゴブリンとか、そう言うの倒すものだと思ってました」

「ゴブリンの討伐は銀等級からです。人型の魔物は低等級の方にはお任せしていません。かなり抵抗がある方が多いですから。この獣型の魔物の駆除も出来ない方は一定数います」

「そう言う人たちはどうするんですか? やっぱり辞めるんですかね?」

「掃除や、畑仕事の手伝いなんて言うのもあります。そちらを斡旋します」


 そうなったら普通の仕事に着いたほうが良いな。

 考えているとルナが僕の手を引く。


「行きましょ、兄様。私たちの冒険が始まるんだから」

「仕事だけど」


 ウェアラットがいるのは城壁の外側にある森の中らしい。

 証明としてウェアラットの角を持って帰るよう言われ、僕らはギルドを出た。

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