大和市白池区 耕平

誰かに肩を優しく叩かれる、ユキかははっきりと答えれないがアリスよりも力んでない感覚だった。


横に寝転がる体を起こすとそこにはアリスが楽しそうな表情で


立っていた。いつの間に熟睡してたみたいだ。隣にいるユキも幸せそうな表情で寝転がり熟睡してるみたいだったから空は声をかけることなく静かに席を立ちアリスと一緒に部屋を出た。今日は尊殿が一対一で対話したいとのことで空とアリスは車に乗って尊殿のいる場所まで移動していた。


そして、車の中で空はアリスに今日やることについて話しておくことにした。


「アリス、今日は尊殿と一対一で話すことになるから必ず手出ししないでね」そう声をかけるとアリスは首を傾げて不思議そうな表情を浮かべて空の顔を覗き込んで来た。空はそんなアリスに対してはっきりと口にする。「えー、空に何かあったら困るじゃない。私、もっと空の力になりたいもん」頬を膨らませながらアリスは不満そうにしながらも渋々頷いてくれた。空はそんなアリスの頭を優しく撫でてやると気持ちよさそうな表情で目を細めていく。「ありがとう。でも、まだアリスの力が必要になる時じゃないから我慢してね」そう言うとアリスは目を輝かせながら意気揚々に頷く。「分かった! その代わりちゃんと私に頼ってね! 私が絶対に空をサポートしてあげるから!」その勢いに押されながら空は苦笑いを浮かべる。車はやがて尊殿が泊まっているの前に止まった。空とアリスは車を降りて皇居の中に入る。すると、そこには尊殿が待っていた。車から降りるアリスの姿を見た尊殿は複雑そうな表情をするもすぐに気を取り直すかのように手を差し出してきた。空はその手を取って握手を交わす。それから空たちは中に案内された。客室に入ると尊殿が普段使っているであろう机の上には高級そうなグラスが二つ置かれていた。それから空たちはソファーに向かい合うようにして腰を下ろす。少しの間、沈黙の時間が流れるも尊殿はどこか落ち着きのない様子で辺りを見渡したりしていた。そんな尊殿に対して空は口を開く。「それで今日の要件はなんでしょうか」空の問いかけに尊殿は一瞬驚きの表情を浮かべるもすぐにいつもの表情に戻した。それから一つ咳払いをすると空の目を見つめて来た。


「マスコミには報道されてませんけど、大和市海ほたる区で少数のベータ144が暴走して、耕平に向かって進行する予定らしいです」尊殿の話を聞いた瞬間、空の心臓が大きく跳ね上がった。それはアリスも同じだったようで動揺を隠しきれない様子だった。空はすぐに冷静さを取り戻し、尊殿に問いかける。「それで、空に何をしろと?」すると尊殿は空の目を見ながらはっきりとした口調で答えた。


「耕平を救ってほしい」空は思わず息を飲む。まさか、こんな形で尊殿から頼まれるとは思ってもみなかったからだ。しかし、尊殿の真剣な表情を見ていると冗談で言っているわけではなさそうだ。空は覚悟を決めて尊殿に返事をした。すると、空の言葉を聞いた尊殿は安堵したかのように胸を撫で下ろす。それから空たちは今後のことについて話し合うことになった。「神薙空さん。もしこの国が崩壊の道へ進んだ時、貴方はどうする?」突然、尊殿からの質問に空は思わず考え込む。だが、いくら考えても答えが出ることはなかった。何故なら、空にとってこの質問は難解で、答えが論理的に導き出せないからだ。答えが限られ過ぎていて、もし答えるとすると尊殿を失望させてしまうかもしれないと思ったからだ。何も、これは自分への行動に限った質問ではない。国、世界への問いかけでもあるのだ。空一人でどうこうできる問題ではないことも理解しているつもりだ。だからこそ空は答えを出すことができないでいた。それでも何とか答えを見つけ出そうと必死に思考を巡らせていると、尊殿は再び空に問いかけてきた。「貴方はこの国を救いたいですか?」空はその問いかけに即答することができなかった。すると、空の隣に座っているアリスが口を開いた。「私は、絶対に空を救いたいです!」その言葉を聞いた空は思わずアリスの方を見た。すると、そこには真剣な眼差しで空を見つめる少女の姿があった。救出という回答は空にとって意外だったが、同時に嬉しくもあった。なぜなら、アリスの言葉は空に対する信頼と愛情を感じさせるものだったからだ。改めて尊殿の方を向くと少し困惑している様子が見て取れた。しかし、すぐにいつもの笑顔に戻ると口を開く。


「そうですか、とても人思いな回答ですね」尊殿が放った言葉はどうも残念な気持ちが込められていたような気がした。どうしても本当に放ってほしかった言葉が尊殿にはわかっていたようだ。尊殿は再び空に目を向けてくると、少し間を置いてから話しかけてきた。「では神薙空さん、どうかベータ144の侵入を阻止してください」尊殿の頼みに空は一瞬言葉を失うも、すぐに返事を返す。「わかりました。全力を尽くします」空の返事を聞いた尊殿は満足そうに頷いた後、部屋から出て行った。それからしばらく沈黙が続いたが、やがてアリスが口を開く。「空、なんか変なこと言ったかな? なんかあの人嫌な顔をしてたけど」空は少し考え込んだ後に答える。「いや、寧ろ、アリスの答えが意外だったんじゃないか?」空の言葉を聞いたアリスは首を傾げていた。確かに、空に対する愛情と信頼を感じられたが、国を救うという回答ではなかったからだ。だが、そのことは敢えて口にしなかった。何故なら、空自身まだ国を救うという答えを出せずにいたからだ。それでもアリスが人を救うという答えを出してくれたことに、空は心から感謝した。それから空たちは懐かしき耕平に向かうため車で30分走り続けた。高速道路で横断する外の景色はマンションや住宅街、畑が


広がっており、まるで田舎と国道に並ぶ店の街並みを思わせるような雰囲気だった。空は運転をしながら周囲の様子を窺っていた。すると景色が変わり、先程の街並みが瞬時に荒れた大地へと変貌した。耕平に近づくにつれ、段々と景色は寂れたものへと変化していく。まるでゴーストタウンのように閑散としており、人の気配が全く感じられない不気味な光景だった。そんな中、ようやく耕平の村に到着した空たちは車から降りて辺りを見回す。小鳥や車の音は全く聞こえず、風に揺られた草木のざわめきだけが耳に入ってくる。村の家屋や田畑は荒れ果てており、荒廃していた。その先の橋を渡れば飲食店や公共交通機関がある。しかし、橋の前にはバリケードが築かれており、その区域には自衛隊が駐留していた。しかし、ただの自衛隊員たちではなく装甲車とヘリ、M4A1とRPG-7を持った重武装の部隊だった。空たちはバリケードの前に到着すると、自衛隊員が空たちに声をかけてきた。「君たちは何者だ? ここは関係者以外立入禁止だぞ」空はその部隊の隊長らしき人物に声をかける。「すみません、ここは耕平ですか?」空の声を聞いた隊長はこちらに振り向くと驚いた表情を浮かべた。しかし、すぐに平静を取り戻して答える。


「そうだが、君たちは何者なんだ?」服にも伝わる筋肉質と厳つい顔に反して声は20代前半のお兄さんのような声だった。空はその隊長に事情を説明した。「環境省 未確認生命体対策部隊 東郷機関の緊急員 神薙です。尊殿から連絡を受け、ここにやってきました」空がそう言うと、隊長は真剣な表情になり敬礼をしながら返事をした。「失礼しました。尊殿から連絡は受けております。どうぞ、こちらにお入りください」隊長の案内でバリケードの内側に入ろうとすると、後ろからアリスが声をかけてきた。「空!? 私は!?私も緊急員だけど!?」アリスの言葉を聞いた空は微笑みながら答える。「どうやら連れだと思われてるみたいだ」空はアリスの方を見て手を差し出す。すると、アリスは笑顔で握り返すと空の手を握ったままついてきた。立ち止まってすぐ一つ一つ建物の傷跡がないか確認した。これは主に狩猟ハンターがよくやる行為で、傷や足跡、血痕などから獲物の行動パターンや縄張りを把握するためだ。傷の状態が良ければ数時間前、傷の乾燥や不純物があれば数日前に襲われたと考えられる。空は確認を終えると隊長に声をかけた。「ここら辺で人を襲った動物はいませんでしたか?」隊長は空の質問に対して真剣に答えてくれた。「いえ、ここ最近大きな動物の足跡や痕跡などは発見されておりません」隊長はそう答えた後、空たちは先に話したいことを隊長に質問する。「一ついいか?昔、病院や飲食店とか公共交通機関が栄えてた耕平で何故こんなに荒れた? いったい何があったんだ?」空の質問に対して、隊長は少し驚いた表情を浮かべながらも答えてくれた。「それが15年前、我々は当時新米隊員だった頃でしたが、ある日突然正体不明の怪物が現れたのです。その生物はヒト型をしていますが姿は様々で様々な種類が確認されています。この生物たちの目的は分からないままですが、人間を襲う習性があるようです。我々は街を守るために出動したのですが、奴らの戦闘力は非常に高く、我々の装備では太刀打ちできませんでした。その結果、耕平は壊滅的な被害を受けてしまい、同期だった仲間も何人も失い、何もかも残るようなことは無くなりました」


「それで今、このゴーストタウンで警備をしていると?」隊長は俯きながらこの怪物の脅威を語り始めた。話を聞いて怪物というとすぐにベータ144のせいだと理解したら怪物の戦闘力が凄まじく、隊員の装備では太刀打ちできなかったと聞かされて空は一瞬沈黙する。今まで任務や怪物の種類を処理したのにここに来て初めてのタイプだ。アリスと隊長は空の様子が少しおかしかったのか心配そうに声をかけてきた。「空?大丈夫?」空は2人の顔を見て笑顔を作って答える。「ああ、大丈夫だ」ここで怖気づいてしまうと国家や国民の存亡の危機に置かれてしまう。勿論尊殿のために最善を尽くすよう、再び前を向き耕平の商店街を見て歩き出した。




――東京都大和市耕平2丁目のショッピングモール。ショッピングモールすぐ隣にはバスターミナルや海流線を繋ぐ駅が立つ。駅の上にはショッピングモールの看板が立ち、その裏には駐車場がある。今日は火曜日の現在時刻午後15時だが、買い物客は一人か二人ぐらいだ。ほとんどが年配や30代の女性を見かけ、唯一男性を見たのはは40代の筋肉のハリが凄いガタイのいい男性数名だけ。


耕平の商店街内は一部シャッターが閉まり、人通りもほぼない。一階のフードコートはかつての賑やかさは嘘のように閑散としていた。建物の壁や柱には罅や凹みがあり、床のタイルも剥がれ落ちていた。そして天井の一部からは今にも落石が落ちてきそうな天井だ。この状態だと電気は使えそうにない。隣の食料品店では照明は消えてるが、商品を照らす灯りと冷蔵の冷気が感じられた。だが商品は殆ど残っておらず、肉と弁当コーナーの棚も空だ。モンスターに荒らされた形跡はないが、15年も経つと流石に食品の痛みや腐敗は避けられない。店内を徘徊している四足歩行の野良犬が全部で4体ぐらい、それと遠吠えが聞こえた。近くにモンスターの気配は無いが、ここだといつ襲われるか分からない。


空はアリスにM1911を渡しながら、二階のコーナーに向かおうと提案しようとする。だが先にアリスは咄嗟に二階へ駆け上る。空は少し驚いたが、すぐにアリスの後を追いかける。


二階のフロアはゲームセンターや本屋、CDショップなどの娯楽品があるエリアだ。そのエリアだけモンスターの荒らされた形跡が殆どなく、ゲームセンターのガラスは割れているが、中のゲーム機やコインゲームは荒らされた形跡はない。経年劣化による破損だろうと考えられた。本屋も本が散乱しているだけで、特に荒らされた形跡はない。CDショップも同様だ。あくまで調査のためだ、一階はやらずすぐに二階へ上がって辺りを見渡す。すると近くからガシャンとガラスが割れた音と同時に下の階から男女の悲鳴が聞こえた。すぐにモール入り口に向かって走る。階段とは逆の方向から現れた若い男性3人、20代半ばの男性、30代男性。そのうちのリーダー格であろう20代男性の罵声が聞こえる。空はイヤホンに耳を当てながら無線で、「緊急を要する」と本部に連絡し、1階にいる若い男3人と合流を果たせた。下では既に【お客様】が暴れ回っている。両手に金棒、バットを持ち、その巨体から血の道着を着た筋骨隆々の大男だ。おそらく鬼神の類か?顔半分くらい巨大な黒い目や口を持った真っ白のマスクを着用し、多量の血を流したデニムを纏い、背中には刺々しい虎柄模様にかなりの血を浴びた白いTシャツを着ていた。30代男性は同じ服装で金属製の包丁も所持している。空とアリスが速攻で事態の重大性に気づくとすぐに交戦を開始。3人の元へ向かう。ここで見逃したら確実に大変な事になるので、最悪の排除を第三希望する。


数名の民間人が血を流し止血してたが、命に別状はない様子なので3人の逮捕を最優先する。


空はアサルトライフルを両手に持ちながら、男性に向かって歩きながら威嚇射撃。だが奴は怯えるどころか不気味な笑いを浮かべたまま突進してくる。いやむしろ怒らせてしまったようだ。吼え声を上げながら金棒を振り上げて振り払ってくる、身長180超える巨体に似合わない凄まじい威力と豪速の攻撃だが、空はその動きを瞬時に見てバックステップで回避する。地面に激突した金棒はそのまま数センチまでめり込み、床が割れた。異常だ、薬をやってるようにしか思えないが。もしや空手か何かの心得があるタイプかもしれない。だがその隙を逃さない、奴の懐に潜り込み腹部に銃尾を入れると、奴は足が崩れた。更に膝蹴りを奴の腹に食い込むと5メートル程飛ばして、ガラス窓に激突した。モンスターで培った身体能力舐めんなよと言いたいところ。即座に3人を押さえつけ、手錠を掛ける。駆けつけた数人の警察官に後のことは任せて、今はアリスとの調査継続が先だ。救急車の音がモール中からするし、他に救急を要する者達がいるかもしれないからまだ気を休めることはできない。にしても奴が威嚇射撃でも抵抗する素振りを全く見せなかったのが気がかりだ。


アリスと2人でモール内を捜索し、1階、2階のエリアは荒らされた様子はなく、他の場所も特に変わった様子はなかったのでフードコートの椅子に腰掛けて作戦会議を始める。


「さっきの3人、人間じゃないよね?」


「そうだな、装備からして麻薬組織などの物でもなさそうだしな。ただのチンピラか薬をキメた奴かといったところかな」最も当たりたくなかったが、可能性が非常に高い。アリスが何度も首を動かして納得した表情だった。


「つまり、荒くれ者ってことだね」


空は少し考えて答える。それは職を失った以上、現実でもそうなるってことは空は理解してる。元々2021年の総理大臣が決めた金のバラマキが原因だが、それをやっていた奴らは未だに余生を過ごしていると聞くが、他人の税金使って何年も生活してるんだぞと。僅かで数年寿命を伸ばしたところで国が持つはずがないので今のうちに早めに解散した方が良いと思える程だな。4年間でGDPを下げるような損失なんてとんでもない。何かの冗談かと思った。国の為に働いてる公務員たちの士気を下げるような真似をする政治家共を少々不平不満を零した。他の奴等も同じで、事実辛酸を舐めた人間は多く存在するし。国のせいにするのは個人的にはお門違い、政治家は全て無策という現実が悪いと思う。故に何のための税金かとは思うが、年頃の子供がそれと比較対照にして国から搾取してる事自体まともじゃないだろと思う。世界の為だと思って子供の為に批判を制止する連中も同罪だと思わないのかと思う。とにかく10年前に起きたことで2035年の現在はその蜂起を阻止するべく自衛隊が警察組織化して入国者のチェックをしたりして負担軽減のためを一層考えている。正直言って今ほどの安全の保証がある国なんて現代の世界には存在しないと空は断言する。本当の自由は誰にも縛られないし、自ら選んだことだけ。


「てか、ここいい場所だね。外に出れば駅がすぐ目の前だし、歩いてすぐいけるね」


辺りを見回しながら耕平の魅力をアリスが語る。確かにここならアリス達の生活も不自由はしないし、アリスと一緒に居れると高速も公共交通機関も使えるからここら辺が一番無難な区域になるかもしれないな。


「そうだな、元々15年前の景色は空の心を癒す為だったし、ここで時間費やせるからな。ゆっくりするのに良い場所のはずなんだが・・・」


「空の子供の頃ってどんな性格だった?教えてほしいなー」


その発言に少し空は考えてから言葉を紡ごうとしたが、諦めた。何せ子供の頃、散々な人生だったのだろうかと振り返って嫌々だった。なので話したくない。だがアリスはそんな空の様子を察したのか、それともただの興味本位なのか、しばらくして彼女は別の話題を切り出した。


「まぁ、いいよ。無理に話さなくてもいいわ。でも、もし何か話したくなったら私がここにいるから」


彼女の優しい言葉に、空は微笑んだ。そう、彼女がここにいてくれることが、何よりも心強かった。


その後、空たちはモール内をさらに探索し、他の生存者や敵の気配は見当たらなかった。しかし、この状況がいつまで続くのか、そして皆がどうなっているのか、まだ分からないことが多かった。


「ここは一旦拠点として使うことにしよう。外の情報を仕入れつつ、必要な物資を集めるのも良いだろう」空はアリスに提案した。


彼女も同意し、空たちはモール内の一室を仮の拠点として使うことにした。必要な物資は一通り、1週間分の買い物コーナー、二階には洋服と本屋、まだ電気が駆動してるゲーム機一台。そして軽食を提供する出店が集まった一つのモールである。


外を出れば思い出させるような静かな小雨、壁に腰掛けて灰色に覆われた雲を眺めれば未来を憂う。数か月の任務だ、成功すればこの景色で語るのも最初で最後だし、また来ても同じことをするかどうかは未来予知をしても分からないし、希望があるのならここで引っ越すのもありだ。


そして肝心の風呂を思い出すと、このモール近くに銭湯なんてない。ましてや無償でシャワーを借してくださいとか、そんなサービスはここにはない。なので匂いと汚れを拭きとるために、ウェットティッシュが必須だ。


店に戻り、アリスにこのモールの二階にある洋服屋と本屋で服や本を買いに行くように頼んだ。空もついでに何か買ってくることにしよう。


「肉は品切れ、野菜は傷みあり……っと、昼は塩焼きそばだな。アリス、今日はレトルト生活かもしれない」


「えー!?味気無さは嫌いだよー!」


アリスは頬を膨らませて不満を露にする。


「あーあ、空ってさ、顔は可愛いのに性格があれだからモテないんだよねー」


アリスが文句たらして悪口を言ってくる。こいつに言われると無性に腹が立つ。


「欠点があってすまんな、変態金髪少女」と空は言い返す。するとアリスが煽り返してきて、「ムキーッ!」と言って空に襲いかかってきた。


買い物を終えて二階から一階に降りてくると、ムラトが既に腕を組みながら見つめていた。どうやら空らが出かけるときに後をついてきたらしい。


「お、おうムラト。来てたんだ」空はいきなり現れたムラトに声をかける。ムラトは頷き、そして口を開いた。


「単刀直入に聞くけど、雇う必要あった?護身術できる奴が私たちなら三人、いざとなったら殺し合いになるのに、雇う身はそれに協力しないなんて。もしかして朝日にも嫌なことでもあって悲観してるだけか?」ふむ、流石アビリティーインデックス2位。勘が鋭いというか観察力が並じゃない。大した奴だ。空は口を開こうとした瞬間、ムラトは空より先に口を開いた。「まぁ、人間なんてそんなもんだよね。感情を持つ生き物だからこそ、理屈とか力の前に折れてしまうこともあるさ。それは別に間違ってはいないと私は思うよ。大人って心深いからね」空はこいつの性格の良さに少し感心した。見た目は子供なのに、心は大人なんだなぁという認識を得ることができた。一理ある。確かに自分勝手な行動だし、周りに流されるがままにしていた。でももっとちゃんと考えて行動すべきだったな。空は少し反省すると同時にムラトに謝罪した。


「すまんな、ムラト」と空は言ったが、ムラトは気にするなとばかりに頭を横に振った。


「あれ、もしかして怒ってないか?拗ねてるとかそういうのとか」


と空は聞くと、ムラトは目を合わせながら人を見下すような目つきで答えた。


「いや?怒ってないよ?むしろいつでも一生待ちますよ。依頼を解約するまではね」とムラトは言う。子供に見下された気分になるが、不思議と嫌ではないというかむしろ清々しい気持ちになった。まぁ、こんぐらい言ってもらった方がやる気上がるし頑張ろうと思う気にもなるだろう。しかし、少し気になることがある。何故ムラトはアビリティーインデックス2位に上り詰めることができたのか。アビリティーインデックスは、その年に最も優秀な人材を選抜して組織がランク付けをするシステムだ。1位から10位まではアビリティーインデックスの上位に名を連ねる。しかし、1位から10位までの能力はアウレリアを占めており、中位以下の連中の能力の平均値を上回っている。そこから考えれば、ムラトの能力をそこまで上げることはほぼ不可能だ。何故ならアウレリアのほとんどは人間じゃない。遺伝子から生み出したアビリティーインデックスは、人間の能力値を遥かに超えた能力を持つ者しか上位に名を連ねることができない。つまり、アウレリアは人間でもアビリティーの数値が高いため、ムラトがアウレリアに勝てるはずがないのだ。例えばアビリティーインデックス1位のエリザベスは一人で、東郷機関の4個班を全滅させるほどの強さだと言われている。その1個班は50人分で、1人でゲノム少女3万以上を相手に出来るらしい。そんな奴に勝てるわけが無いのだ。だが、ムラトはアビリティーインデックス2位に上り詰めた。もしアウレリアなら空たちの部隊を全滅させてもおかしくないはずだ。にも関わらず、出会って一回もアウレリアと戦った履歴のある奴らは誰一人いない。奴らなら空の仲間たちを壊滅できたはずなのにだ。不審に思って仕方が無い。そこで空は一つムラトに質問をしてみたんだ。「なぁムラト。一度だけ、アウレリアと対決したことはあるか?」そう空は聞いてやった。だが、ムラトはこう答えた。


「いいえ。一度もありませんよ。中立派なので」もちろんその言葉を鵜呑みにしたわけじゃない。そこからまた質問を続けた。質問内容は以下の通りだ。「アビリティーインデックスの1位を羨ましいと思わないのか?」


この質問に対してムラトはこう答えたのだ。「別に、なんとも思いませんけど」この言葉も鵜呑みにしたわけじゃない。確かめる必要があったからだ。


そこで空は最後の質問としてこう質問した。「エリザベスが羨ましいと思わないのか?」この質問に対してムラトはこう答えた。「あーエリザベスですね。強いですよねあの速いエイムと身体能力、全部羨ましいと思いますよ」その時に空は確信した。ムラトのアビリティーは2位じゃなく、本当の1位はムラトだと。今は腕を組んで依頼が来るのをただ待つことしかできない。 しかし、いざ能力が解放されると、ムラトの能力はチート級以上、一人で国家を壊滅できるほどの力を持っていた。そんなムラトに勝てる奴なんているはずがないのだ。なので、今のうちに攻撃対象にするか、それともエレメントホルダーを封印して生かしておくべきか空は迷っていた。


すると、突然ムラトがこんなことを言い出したのだ。それはあまりにも衝撃的な言葉だった。


「南の方向からベータ144が接近してるけどどうしますか?命令しないのですか?」


そのベータと言葉を聞いた瞬間に空は体が勝手に動いていたのだ。そして、窓の外を見てみるとそこには巨大な怪物がこちらに向かってきていた。その怪物は全長10mほどあり、その体は黒と紫が混ざったような色をしている。そして、背中の翼はコウモリのような形をしており、顔の部分は牛の顔になっているのだ。


空はすぐにムラトに命令を出そうとしたが、「空!仕事だよ!」アリスの合図を聞いた瞬間に空はムラトに命令を出すのをやめた。


「了解!アリス!」フードコート裏出入口に走り、雨の中急いで現場に向かおうとしたが、怪物の数は数体ではなかったのだ。空が外に出ると、そこには数十体の怪物が空を待っていたかのように立っていたのだ。空はすぐに銃を構えて戦闘態勢に入ったが、その瞬間に怪物たちは一斉に襲いかかってきたのだ。


突然空の目の前に牛の怪物が現れ、空に噛みつこうとしてきたのだ。空はすぐに回避行動を取りながら攻撃をかわそうとしたが、その怪物は空に向かって突進してきたので空はそのまま吹き飛ばされてしまった。すると今度はコウモリの怪物が空から急降下して襲いかかってきたのだ。咄嗟に銃を構え、照準を合わせる暇もなく、撃ちまくろうとしたが、コウモリの怪物は空の銃を爪で弾き飛ばし、そのまま空の体に噛みつこうとしてきた。空はすぐに回避行動を取りながら攻撃をかわそうとしたが、その怪物は翼を広げて飛び回り、空の死角から攻撃を仕掛けてきたのだ。まず空中戦は苦手で、銃で偏差を当てるには慣れと技術が必要だ。それにこの高さじゃあ真上から撃っても、回避できるスピードで羽根が動くため当たらないだろう。空はすぐに銃を構えて攻撃しようとした瞬間だった。戦闘中、無線から誰かが連絡してきたのだ。最初はレナかと、勘違いしていたのだが、声を聴いてみると違う人物だった。元気ない苛ついた女声のトーンは、『作戦長』の声だったのだ。「はい、こちら緊急員の神薙です」


それを聞いただけで、苛つきが増してきた。しかし、こんな状況でもめげずに空は答え続けたのであった。「こんな虫に殺されるような状況に要件は何ですか?」「一時撤退して陸底駐屯地に来てくれ」「了解」空は即答してすぐに無線を切った。そして、そのまま地面に向かって落下していき、地面に着地したと同時に走り出した。


しかしその時だった。突然空の目の前に巨大な蜘蛛の怪物が現れ、空に糸を吐きつけて拘束してきたのだ。空は必死に抵抗したが、糸が強力すぎて身動きが取れず、そのまま地面に倒れ込んでしまった。ナイフで糸を切ろうとしたその時、蜘蛛の怪物は空に向かって鋭い爪を振り下ろしてきたのだ。空はすぐに回避行動を取りながら攻撃をかわそうとしたが、その怪物は巨大な体を利用して空に覆いかぶさってきたのだ。「話せ!くそ!」空は必死に抵抗したが、怪物の体重が重すぎて身動きが取れず、そのまま地面に押し潰されてしまったのだ。食われる。そう思った瞬間だった。突然、空の目の前にヘリが止まり、一斉にガトリングが唸るように薬莢を吐き捨てると巨大な怪物を真っ二つに裂いてしまったのだ。木々を折ったり、硝子を粉々にしたりと非常な暴れ具合な殺戮兵器みたいだった。その代わり、大量に襲ってきた怪物を


一掃できたのであった。その間に高度を低くすると隊員の一人がロープを下ろしてくれたので、空はそれを掴んでヘリに乗り移った。そしてそのまま陸底駐屯地に飛んでいったのだった。

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