謎の少女
――ノヴァシティ西区。高層ビルが立ち並ぶ、オフィス街の一角。上を見ると前後左右、広告板だらけ。赤信号の時が人混みが多く、四方八方から人の話し声や音楽、車の騒音が聞こえる。
歩行者も若者が多いが、成人した社会人も目立つ。中にはスーツ姿のサラリーマンもいて、駅に向かう交差点を渡ろうとしている姿がある。ファッションビルの中に入れば流行を知ることもできるし最新技術で作られた家電製品などを見ることも出来る。ゲームセンターやカラオケなどの娯楽施設も充実している。
空は仕事を終えて帰りにアリスと寄り道するのだが、常に電車やタクシーを利用する生活であるため、この街でお金を使う事はあまりない。
「空! 美味しそうなクレープ屋があるよ! 行ってみよう!」アリスはそう言いながら空の手を引っ張って、その店に向かって走り出す。空は彼女に引っ張られるままについていくことになった。店に着くと、メニュー表を見てから注文して、出来上がるまで店内で待つことになった。二人は席に座ると、他愛のない話をして待ち時間を潰すことにしたようだ。しかし、空の表情はどこか憂鬱そうに見えたのだった。
あのエリザベスを一人で世界を支配したら、どんな感じなんだろうか。おとぎ話と聞いていたが、もし一人で支配して楽園のような場所だったと思ったが、あの恐怖の笑顔的に、それは違ったようだ。だが、本当にたった一人で世界を支配できるのだろうか。そもそも、どうやったらそんなことができるのか? 何か手掛かりはないだろうか。空はそう思いながら考えていたら、突然目の前にクレープが出てきて、そのクレープを食べることにした。アリスが美味しそうに食べているので、空もつられて食べ始めた。
「美味し〜い! フルーツマシマシで超最高だよ〜!」アリスはそう叫びながら、食べ続ける。
「いや、マシマシはしてない」
空は冷静に突っ込みを入れた。アリスは楽しそうに笑って、また食べ始めるのだった。
その後、洋服を買ったりゲーセンで遊んだり、アリスが行きたがっていた本屋にも寄って、謎に男性同士と戯れるの本で興奮していたのだ。そして夕方になって帰る時間になった。
空はまた手を引っ張られながら帰路につくことになるのだが、その途中で空の顔が厳しいものに変わっていた。なぜかといえば、視線を感じたからだ。
何者かに見られているような気配を感じたのだ。空は周囲に注意を向けてみたが、特に怪しい人物はいないようだったので気のせいだと思ったようだ。
だが、人の叫び声が聞こえると目の前の横の路地裏から通り魔が現れて、女子高生の横腹に包丁を突き刺して逃走したのだ。
空は即座に動いた。アリスの手を引っ張ると、女子高生のところに駆け寄って、傷の具合を確かめる。しかし、ショック死で事切れていたようだ。
空は悔やんだ表情を浮かべつつ、すぐに警察に通報した。救急車も呼んでおいたが、間に合わないだろう。
もうちょっと早くあの犯罪者が通り魔だということに気付いていれば、もっと早く対処できたかもしれない。
だが、後悔してももう遅い。
とにかく今はアリスを守ることを優先しなければならないだろう。
空は気を引き締め直して、アリスとともに現場を離れたのだった。
「空。その人アヴァリスね」と、アリスが空を見て言う。
アリスはそう言うと、ポケットから自分のスマホを取り出して、写真を撮り始める。現場の証拠写真を撮っているようだ。空はそれを見て感心する。
こんな小さな子でもしっかりしてるんだなと思ったらしい。だが、アリスが急に女子高生に頭を撫で始めたのを見て、空は動揺した。
空は慌ててアリスを止めようとする。しかし、アリスは微笑みながら首を振った。
「ううん、違うの。絶対になおして見せるから、この人に勇気をあげたいだけ。私、治せるかもしれない」とアリスが話す。
「すまないが、人間を治すのは無理だ」と、空はアリスに話す。だが、彼女は首を振って、話を続けた。
「絶対に治せるよ。私は、治すことに自信があるから」と、アリスが答える。
「でたらめ言うな」と、空はアリスに話した。アリスが、違う!っと返されて、空はなぜと言って聞く。
無言になったアリスは、空を見つめた。すると、空は、そんな真剣な目をしたら説得されるだろうがと思いながら、アリスに諦めるように言う。
「そんな錬金術、俺でもできるわけない」と、空は話す。すると、アリスは、急に大きな声で言い返してきた。
「私を嘘つきだって思うの?私のことを信用してないの?」
空が否定しようとするが、その時にパトカーのサイレンが近づいてきた。状況がややこしくなりそうだったので、アリスを引き剥がし、一般人を装う。
警察官が到着すると調査を開始せず頭を掻いてすぐに去っていった。警察官が、本当に困ったなと愚痴を言いながら女子高生の遺体に身分証と財布を回収すると急に遺体を引きずってパトカーに乘せてるのが分かる。
一般人は考えが纏まらなかったせいか、平然と歩き、その場から離れていった。
「遺体を乗せるのおかしい!なんで証拠隠滅してるの!」と、アリスは急に叫び出した。
空は、独り言だろと思ったが、自分も叫んだから人のことを言えないと思った。でも確かに遺体を乗せるのおかしい。
「行くぞ、アリス。あのパトカーを追跡しろ」空は、アリスに指示して追跡し始める。
「こっち!」
アリスの得意技、千里眼を使って、パトカーが向かっている先を突き止める。空とアリスはパトカーを追い、その先には廃ビルがあった。
空はそこで何があるかを考える。嫌な予感しかしないが、警察官たちが何をしたのかを知りたいという思いでその建物の中に足を踏み入れることにした。
そこは何の意味もない廃墟だったと感じたのはすぐだった。これはなんだ?背筋が凍りそうな寒気と威圧感を感じる。
空の本能か、それとも別の何かが警告を出していた。空は、廃ビルの入口の玄関に入る。そこには、ロープで吊られた遺体が三つあった。それを見た空は絶句した。この光景は酷すぎると感じたからだ。
「どうしたの」
アリスが近付いて遺体を見ようしたので目隠しをする。空はあまりにもトラウマを植え付けるものだと思ったからだ。
手を離し、通り過ぎるとその奥の広い部屋に入る前に武器を取り出し、構えながら静かに入室する。そこでは、20代の若い男が、下を見ながらなにかゴソゴソとしていた。
男が見ているものを角度を変えて見ると女子高生の遺体を……、
「アリス見るな」
空はアリスの目を手で覆う。
男がこちらを振り返る。目の焦点が合っていない。頭の形が腫れてるように変形しているようにも見えた。誰かが怪物に入れ替わったのか?
空は少し怖くなったが、この男は視界が悪そうな感じで通り過ぎていった。そして、手の遠近で女子高生の身体を隠し、顔を調べる。
特徴としてはターゲットが女子高生、顔は、髪はボブカットで青白く生きているような印象はない。目は閉じているが可愛らしい顔で天然っぽい。
「犯人がタイプなのはこの顔なのかな? それともこの子の体に惹かれたのか?」と考えるだけで少しゾッとした。
廃墟の外に出て今回の事件をメモ帳に記した。こういう仕事にも慣れてきたけど、後々の悲しい気持ちになることには慣れなかった。
アリスも隣で難しい顔をしていた。すると、アリスは急に気分が悪くなったようで地面に座り込んでしまった。空はアリスの背中をさすってあげながら話しかける。
「ちょっと休もうか」
こんな恐怖な場所でアリスをここに連れてくるべきじゃなかったなと後悔した。
しかし、単独行動は危険だし、何より新しい場所を探索したほうが依頼人の彼らも喜んでくれるだろうと思っての行動だったが失敗だったようだ。
こんな場所でいつ襲われるかわからない状況だから冷静に考えてやればよかった。
「ごめん」
空はそういうことしかできなかった。しばらくアリスの体調が落ち着いてきたら救急車に連絡して帰ってもらおうと思った。
まだ女子高生の脈や微かな声、呼吸が確認できるのでまだ助かる見込みはある。
そのまま徒歩で帰宅する。道中、タクシーを呼ぶと運転手が話しかけてきた。
「今日は寒いですね」
空はそうですねと返事をした。すると、車の後輪に空気が破裂した様な音がした。運転手は慌ててハンドルを切り、そのままUターンしたが、電柱にぶつかる目前で急停止した。空は何が起こったのか把握する間も無くドアをこじ開け外に出た。すると、後ろからハイヒールを鳴らす音が聞こえてきた。エリザベスだ。銃を構え、後ろを振り向く。そこには予想通りエリザベスがいた。
「また会ったね。私のペットにならない?」
エリザベスは笑顔だった。空は後退りしながら答える。「お断りします」
空は手を震わせながら引き金を引いた。銃口から煙とが出ると、エリザベスはジャンプして避け、空に向かってくる。空も距離を取りつつ、銃を連射する。
しかし、エリザベスに当たる気配はなかった。空は焦りながら引き金を引くが弾切れだった。
その隙に敵は間合いを詰めて銃剣で切りかかってくる。ギリギリのところで避けて腰にあった銃を取り出し、敵の脇腹に向けて撃ったが当たった手応えはない。
撃たれた地点に目を向けるとそこには誰もいなかったからだ。
「上か?いや、違う!後ろか!?」
後ろを振り向くとエリザベスは空の顔面に目掛けて蹴る時、アリスが間に割って入り彼を守った。アリスの反撃に、空気をも切り裂く高速の蹴りを繰り出すが、エリザベスは身を翻し、これを回避。
距離を詰めて余裕の微笑みをした後、顔を90傾けて、笑い声を混ぜる様に喋る。
「つれないなぁ!」
空は怯えながら距離を取る。エリザベスが二人に銃口を向けようとするが、急に手を下ろした。
それが何を意味しているのか空は分からなかったが、アリスは意味を理解していた様だった。すると、エリザベスは距離を離れた。
「少し交渉の時間が欲しいんだ。いいかな?」
エリザベスは両手を広げたまま、笑顔で語り掛ける。空は警戒しながら話す。
「交渉とは? 具体的には何を話そうと言うんだ?」
エリザベスは笑顔のまま答える。
「大したことじゃないよ。貴方達は確か〜生活費に困ってるんでしょ? それなら私が助けてあげるよ。学費と住居、それと日用品も提供してあげる。悪くない条件だと思うけど、どうする?」
エリザベスが提案してきた内容に、空は驚愕の表情を浮かべる。確かに彼女は明らかに自分たちにはできないような力を扱っていたが、まさか金で雇うよりも、手を組む方が何倍も良いとは思いもしなかったのだ。
だが、肝心のアリスはなぜか浮かない顔をしていた。彼女は何か裏があるように感じているのだろう。空とアリスが迷っていると、エリザベスは言葉を続ける。
「どうする? 話乗ると今から生活費支給するけどどう?」
空は意を決して答える時、アリスが空を庇うかのように前に出た。そして、口を開く。
「黙って聞いていれば、ふざけた話をほざいちゃって! 金なら一応有るけど、アンタからは特に貰う義理は無いわね!」
そう言い放ったアリスは、エリザベスに対して強い敵意を向ける。そして、そのまま空の方を向いた。
「ねえ、ソイツきっと何かを企んでる。その証拠に魔法をチラつかせて私たちに圧力かけてるでしょ?」確かに彼女の言う事は正論だ。
だが、今のこの状況だと流石に言い過ぎだと感じた空は彼女を止めるが、時すでに遅しだと言わんばかりにエリザベスが後退りをする。
「仲間にならないんだね、残念。将来的に雑草を刈り取ることにならなきゃいいけど」
そう言って、エリザベスは道路から去っていった。その際、空中に魔法陣が出現するのを見た空は目を疑った。それは明らかに魔法にしか見えないもので、映画で見たような色の光を発していたからだ。空は急いで彼女に駆け寄るも、そこにはもう彼女の姿は無かった。
翌日、朝食は大皿に塩コショウを振った焼きそば一人前だけだった。アリスは朝から元気がない様子だ。だが、それも無理はないと思った空は優しく声を掛けることにした。
「無理するなよ」
アリスが朝食を食べ終えると、早速アリスは学校に行く準備を始めた。空はアリスを説得して装甲車で学校を送り迎えしてもらうことで、二重の安全を確保できるのだという。
だが、今日もまた朝食が一食分しかないとなると話は別だ。仕方なく、アリスは1日2食生活をすることが決定されてしまい、彼女はため息をついた。
空は申し訳ない気持ちになるも、今更どうにもならない。今日の昼食代は、アリスが帰りに買ってきてくれることになった。
空としては、せめて昼食くらい食べて欲しいと思っているのだが、エリザベスに襲われたことにより、アリスはすっかり怯えてしまっていて、夜も眠れていないらしいのだ。
講師の授業を聞いても彼は上の空だった。先生からは、時折鋭い視線が投げかけられるが、空は気にしていないふりをしていた。
昼になると、アリスからメッセージが届いた。アリスからのメールは珍しく、まだ携帯を持って電話の使い方すら知らないアリスが、どうにかしてメールを送ってきているのがわかった。
内容はこのような形で書かれていた。
【先生から学校のお金のこと聞かれた。でも、もうお金がなくて払えないよって言ったら、先生からもう明日から学校来なくていいよって言われた。どうしよう、お金ないけど。どうしたらいいかな?】
アリスからのメールの内容は、彼女が今日学校で言われたことであった。空は、それを聞いて少し不安になり、アリスにメッセージを返すことにした。
【分かった】
スマホの上に机を置いて授業を聞く、授業料をどうにか払えるには焼きそばを抜いて道に生えてる山菜で節約するしかない、転売されてる野菜や米を買うしかないと伝えた。
もしそれでも足りない場合は、ホームレスになるか学校を辞めて自分でなんとかするしかない。
講師の授業を終えると事務所に戻り、学費のため、化物退治の仕事を手伝い始めた。
だが、その翌日、事態はさらに悪化する。アリスの学校が終わる時間なのに事務所に現れなかった。
空は、アリスに連絡を送ったが、メールの返事は帰ってこなかった。
空は慌てて自分の電話番号に電話をかけた。だが、電話口から聞こえてきたのは、音声ガイダンスだけであった。
通話が切れた後、空は不安になり奥の席で作業する上司のレナに聞いてみる。
「レナ、アリスを知らないか?」
レナも同じ考えで、何か事故と事件に巻き込まれたのかもしれないと言っていた。
でも、考えてばかりいても仕方がないのでその後、空とレナは会社を後にしてアリスを探すことになった。
自宅にも戻ってみたがやっぱりいなかった。最後に探しに行ったのは、光に照らされた廃墟の教会だった。教会のドアをノックしてみるとドアから現れたのは、小柄な痩せた白く流れるような短い髪の少女で、目には闇に閉ざされた光も無い瞳。
そして車椅子に乗ってた。空が挨拶すると、少女はニコッと笑ってくれた。空は質問をしてみることにした。
「久しぶり輪上ユキ、小学校以来だな。アリスをご存知か?」
そう言うと、空はスマホから写真を見せた。
ユキはしばらく黙っていたが、何かを思い出したのか口を開いた。
「ああ、アリスってあの女の子?」
ユキが答えると、空はほっとした顔になった。すると彼女は言葉を続けた。
「今居ないですよ。もし来たら伝えておきます、どこに行ったのかは分からないけど」
それを聞いた空はガッカリした。やはり、市民の手伝いは当たり外れがある、3千万人の人口に集中してるノヴァシティの市民じゃあ協力は難しい。
「ここに居ても怪物に襲われるだけなので、この中なら安全です」
ユキがそういうと、空はお礼を行って中に入ると、奥には十字架、そこには目の前まで椅子が並べられていた。空は椅子に腰を下ろすと、ゆっくりと腰掛けた。
すると、隣にいたレナも自己紹介を始めた。レナも自己紹介を終えると、空はは考え込んでしまった。空が黙っていると、レナはそっと声をかけた。
すると、空は考えるのをやめてユキの方を向いた。
「本当にアリスが居ないのか?何かあったのか?」と聞くと、ユキは首を横に振り否定した。
「そうか……まいったな調査が進まない」と空が言い、席を立ち上がるとドアの方に向かう。目撃情報が薄いため、行動しない事には進まない。
「何でアリスさんにこだわるの?」
ユキの発言に足が止まり、思わず聞き返した。
「あいつは俺の大切な仲間なんだ。放っておいたらまずいだろ?」
そう言うと、ユキは眉を傾げて空を見つめる。
「この世界でアリスさんみたいな人は沢山いるよ。空くんが探す必要なんてないと思う」と、ユキは言うが空は、はぁ?っとなり、思わず声を張り上げる。空は驚きユキを凝視したが、ユキの方は冷静だった。
「だって、アリスさんは見た目が子供だけど大人でしょ?だから、自分の事は自分でやってくれると思うの。それなのに、空は何で彼女にこだわるの?」
その疑問に、空は苛立った。
「お前はどうなんだ? 自分の事を自分で出来ないのなら、それは大人とは言えないだろ」と言うと、ユキは言い返そうとしたが、何も言えなくなった。
しかし、ユキと見つめ合っても空は平然とした表情で返す。
「悪いが、お前の挑発に乗るつもりはないからな。人の事をあれこれ言う前に、自分がどうなのかを考えたらどうだ?」
空は冷たい声で言う。レナも空の発言に同意のようで、特に反対しなかった。
でもまだユキは不満そうな様子だった。
「でもゲノム編集をした少女達は皆さん、年齢が10歳ぐらいで成長が止まっています。平均は10年です。それ以上保有期間を超すと増殖や繁殖など、本来の人間としての生き方を放棄してしまい、最終的に重要な遺伝子情報が破綻し、やがて死に至る。なので高性能のゲノム少女、アウレリアは、擬似的なクローンと言えるかもしれません。コストが高いですが、保有期間は30年と最長になっています」
その発言にアリスの調査を諦めさせるようにしか聞こえず、空は再びユキを睨んだ。だが、ユキは平然としている。それどころか、少し嬉しそうな顔さえしていた。
空は苛立ち、椅子を叩く。
「お前には分からねぇと思うが、アリスは元々殺処分対象だったんだ。欠陥だらけの廃棄処分になる予定だったのを、俺がコネで頭を弄らせて半人半獣として特別保護したんだ。それが、たった一度失敗しただけで、廃棄処分になるのはおかしいだろ?」
空が怒鳴るように言うと、ユキは首を傾げながら言う。「私は、別に構いませんけど」
その言葉を聞いて、空はユキに近付くと、彼女を引っ叩いた。
パン!乾いた音が室内に響く。叩かれたユキは呆然としながらその場に立っていた。しばらくして、空は我に返ると、慌てて謝った。「悪い」そう言うと、空の額に汗が滲み始める。レナも状況が分からず空に声をかけようとする。
「えちょ!? え!? 神薙くん!? 何をしてるの!?」
あまりの理解できない行動にレナが動揺しながら空を見つめた。
ユキの頬は赤く腫れ上がっていたが、ユキが涙を堪えてた。それを冷やそうと、レナは自分のハンカチで彼女の頰を優しく押えた。空は震えている様子で、呆然としていた。
すると、レナは空の目をまっすぐ見つめながら言う。「アリスを助けたい気持ちは分かるけど、少し冷静になって。彼女だって、自分の人生を犠牲にしてまで貴方に尽くそうとしているのよ」
その発言に、言い訳をする。
「その言葉がその子の口から出てくると、腹が立って」
「神薙くん!! いい加減にしなさい!!」
怒鳴るレナの声。その声に空は自分が冷静でないことに気付く。
空は気分が落ち着かないまま教会の外に出て行った。
レナはユキに優しく微笑んだ。
アリスについて話す前に叩く姿にレナは意図不明だった。
彼女が不平不満を言うのは理解できるが、まさか叩くとは思いもしなかった。
ショックのあまり唖然としていたらユキは、「レナさん怖がらせてごめんなさい」っと慰めてくれたので少しだけ気持ちが和らいだ。
「あの人は真面目で努力家なんだけど、急に熱くなると目の前のことしか見えなくなっちゃうみたいなの」
レナさんがそう言うとユキは首を振を横に振って、そして口を開いた。
「大丈夫です。真面目に努力できる人間は才能がある。そんな人が今目の前に現れて、しかも敵になってしまったことは少し寂しいですが、仕方ありません。それに、私はアリスさんを見捨てたわけではありませんよ。もし、彼女を救い出す手立てがあるのならどんなことだってしてやります。その気持ちだけは分かってほしいです」
ユキは淡々と言う。だが、その言葉の節々から彼女の優しさが滲み出ていた。
「ありがとう、ユキさん」
レナが微笑むと、ユキも笑顔になった。すると、レナは端の方に指をさした。
そこには、横で寝転がるアリスがいた。レナは驚くと、アリスに駆け寄った。そして、その顔をじっと見つめながら口を開いた。
「寒そうしにてた所を私が引き取りました」
ユキは、アリスの頰を優しく撫でると、彼女の顔が綻んだ。
「お疲れのようですね。よほど、体力を使ったのでしょう」
ユキはそう言うと、アリスを抱き上げて自分の膝に乗せた。そして、そのまま抱きしめると、彼女の髪を撫でた。
すると、アリスの表情が柔らかくなり少し顔を赤らめながら目を閉じていた。その様子はまるで赤ん坊のようで愛おしかった。
しばらく時間が経つと、膝の上で寝息を立てて眠っていた。そんな彼女を見て微笑んだ後、ユキはレナに顔を向けた。
「レナさん。私がアリスを助けたことを、空さんには内密にお願いします」
レナは頷いた。そして、ユキは自分の頰を撫でながら続ける。
「まぁ、彼も信頼のおける方ですから大丈夫ですが」
彼女はフフッと笑うと、レナは少し安心できたように頷いた。だが、そう簡単に終わる訳でもなかった。
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