金髪変態少女
午後19時になり、事務所の宅で自分の部屋に戻るとシャワーを浴びて着替えを済ませてから料理を作り始めた。普段も同じように、今回も焼きそば料理を作った。麺二袋を入れてモヤシ、キャベツ、卵を炒めてソースをかけて大皿に盛り付ければ完成だ。
「ほらよ、卵焼きそばだ」
「おぉ!! 卵焼きそばだ!!やったー!!」
アリスは喜びながらたまご!たまご!と連呼している。
どうやら、彼女は卵が好きなようだ。ゆっくりソファに座ってテレビを見ながら、アリスにご飯を食べさせた。彼女は美味しいと言ってくれたので嬉しい限りである。今日は土曜日で彼女の学校は休日だった。土曜日にとってアリスは、いつもより元気でハイテンションだった。休みがあるとこんなに子供は喜ぶものなのか。それに比べて東郷機関なんて依頼があったら休みなんてない。終われば次の日には仕事が入ることもある。ブラック企業とはまさにこういうことだ。
日曜日は基本、仕事が入らないのでゆっくりできる。だが、月曜日になると仕事が山のように入ってくる。そのため、日曜日の夜から月曜日の朝までは絶対に休んではいけない。これが東郷機関達メンバーのルールだ。ちなみに、月曜は祝日で休みになっている。
だからアリスはゆっくりと休むことができるのだ。
「空! トランプだ!!」
すると、目の前にカードが現れた。
「悪い、まだ仕事が残ってるんだ。また今度な」
そう言うとアリスはむすっとした顔になった。
「うぅ~、暇だよぉ~。なんか面白い遊びないか?」
アリスは退屈そうだ。
「そこにゲーム機があるじゃないか」
「ゲーム? あれはつまらん。飽きた」
なら、他にどんなことをすればいいのだろうか考えるが難しかった。アリスは急に背中から抱きついてきた。
「えへへっ♪ 空はあったかいなぁ。気持ちが安らいでくるよ」アリスは顔をスリスリしてくる。
確かに、アリスは温かいし体温が伝わってくる。だが、今はそんなことを気にする暇はないのだ。
抱きついてくるアリスを離そうとするが、なかなか離れない。どんだけ懐いてくるんだ、犬じゃないんだから。
まぁでも、少女の実験体を殺処分する前に救ったのは正解だったかもしれない。
そのままアリスとくっついたまま皿洗いをしてパソコンで作業をする。髪をいじられたりするけど気にしないことにした。すると、アリスが話しかけてくる。
「ねえ、空くん」
アリスの髪の色が薄っすら銀色になってきてる。
この状態になると、アリスは普段より落ち着いていて、優しい口調になる。
ちなみに銀髪の時は、少しだけ目が赤くなる。これは発達段階の3日後に来る発情期のサインで、赤い目はそれが今来たってことだ。
「お風呂入りたいなー。一緒に入ろ?」
「無理だ。一人で入れ。俺は仕事中なんだ。邪魔するなら出ていけ。お前は学生だからそういう知識はないだろうが、一応言っておく。男女が一緒に入るというのは、裸を見られるということだ。恥ずかしいものだし、もし間違いがあったら大変なことになる。だからダメだ」
アリスが頬を膨らませて不満そうに言う。
「ぶぅ! 空くんのケチ!」
「うるさい。いいから出てけ」
「じゃあ、夜になったら入ってもいいよね? 空くんと一緒に入るの楽しみにしてるね」
アリスが嬉しそうな顔で言う。
勝手に宣言をされてしまった。こいつ、本当に人の話を聞かないな。まあいいか。夜に入ってくるということは、それまでに仕事を終わらせればいいだけだ。今は夕方でもうすぐ日が暮れそうだ。つまりあと数時間で終わるわけだが、アリスのせいで集中できない。
アリスはずっと仕事の作業をしてるところを見ていた。何をしてるのか気になっているらしい。
見られるのも嫌だけどアリスは一人でマッスル体操をして筋肉を鍛えてる変人だし別に見られても平気だが、それでもやっぱり落ち着かなかった。
「今日も皆でマッスルマッスル! マッス〜ル体操〜」
後ろ見なくても分かる通りアリスが両拳で上げてるマッスルポーズである。想像しただけで今すぐ止めたいが、ここで止めたら逆に危ない気がする。
アリスの渾身のマッスルパンチが飛んでくるかもしれない。それは避けたかった。アリスのマッスル体操は終わった。アリスが笑顔で話しかけてくる。
「ねえ空、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいいかな?」
アリスが珍しく真剣な表情をしていた。何か悩みでもあるのだろうか心配だった。アリスは少し躊躇うように口を開く。
「空くんって、私のことどう思ってるの?」
アリスが顔を赤くしながら質問してきた。
「金髪変態美少女」
俺は迷わず即答した。するとアリスは怒ったような顔になり、俺の首を腕を締め上げプロレス技をかける。
「うがぁぁぁあ止めろ!!」
「空の馬鹿! 変態! エロ魔人! 女の子に対して、失礼よ!」アリスが怒って叫ぶ。
アリスは空を睨みつけている。空は彼女の視線を受けて戸惑う。
なんなんだ、この女は。いきなり怒り出して。俺は何か悪いことでもしたのか。
「てか俺は変態でもないし、エロ魔人でもない!! うがぁぁぁあ!!」
締め上げが段々と強くなり空は叫び声を上げた。
――翌朝、アリスは風呂に入り、空はアリスの背中を洗っていた。昨日は散々だった。アリスが暴れまわったせいで、家中がボロボロになり、掃除が大変だった。しかも、アリスは空が寝ようとした時に布団の中に入ってきて、抱きついてきたのだ。
おかげで、一睡もできなかった。
甘えてくるせいで嫌な予感がしたので、アリスの頭部を抑えて固定した。アリスが不満そうに頬を膨らませていたが、空は無視する。
「空〜その手退かしてよ〜」
アリスが駄々を捏ねると、空は溜息をついた。アリスは見た目は子供っぽいが、年配者だ。だから、子供扱いするのは良くないだろう。でも、アリスは外見的には12歳から14歳の間くらいに見える。だから、まだ子供なのかなと考える。
いや、やっぱり大人として扱うべきだ。それに、アリスは人前ではあまり喋らないが、二人きりになると積極的にスキンシップを求めてくるし、キスも求めてきそうになった。これは恋人同士なら普通だと思うが、アリスは異常だ。やはり、アリスは変な奴なのだ。
「駄目だ。ヤマなことしか考えてないだろ」
俺は呆れてアリスに言う。
「そんなことないよぉ。ちゃんと仕事のことも考えてるもん」
アリスが反論してくるが説得力がない。絶対嘘だろう。こいつは絶対にエロいことばかり考えているに違いない。とりあえずアリスには風呂に入ってもらった。
その間、自分は黙々と作業を続ける。
しばらくしてアリスが出てくると次、入ることになった。服を脱いで風呂場に行き、シャワーを浴び始める。そして湯船に浸かると、疲れが吹き飛んだ気がした。
「――この腕」
右手首を見ると5つの宝石の真ん中に赤い目が浮かんでいる。
これを取得するには「五大助守」が必要で、取得するには難関の試験を潜る必要がある。だが、クリアすれば、これから先どんな困難があろうとも乗り越えていけるだろう。
風呂のドアからノックの音が聞こえてくる。
もしかして!?
空は、アリスのほうを見る。
アリスは、バスタオルを巻いたまま風呂に入ってきた。空は、アリスに背を向けるように座った。アリスは空に近づき、後ろから抱きしめてきたのだ。空はアリスに話しかける。
「おい!?何やってんだ!?」
アリスは答える。
「えへへ。お背中流しましょーう」
「流さなくていい! 入ってくんなって言ってんのがわかんないのかよ! 早く出てくれ!」
空は必死になってアリスを押し出そうとするが、アリスはなかなか出ていかない。アリスは楽しそうに笑っている。
空は、アリスをなんとか押し出すと、アリスは空の前に回った。
「ねぇ! 見たい!? 私の裸を見たくない? どうせなら見せちゃおうかな?」
アリスはバスタオルを脱ぎ始めようとすると空は、アリスを止める。アリスは頬を膨らませた。空は、アリスを説得するように言う。
「服を着ろお前は!」
そして、アリスは恥ずかしがって照れたような表情を浮かべていた。
「うふふ、やっぱり空は可愛いね。そういうところが好きだよ。私は嬉しいな」
「俺は思ってない!! 早く服着ろ!!」
数時間後、アリスが服を着て、やっと落ち着いた。何故かアリスはご機嫌な様子だった。アリスは、笑顔で言う。
「ほい、今日は、オートミールと野菜スープだ」
朝食をテーブルに置くとアリスはスプーンですくったオートミールを口に入れて食べる。
すると、アリスは嬉しそうな顔になった。
「美味しい! こんなに料理が上手なんて知らなかったよ。すごいね、空は。将来はお嫁さんになれるかもね」
アリスの言葉を聞いて、空は呆れてため息をつく。
「あのな、なんで男と女が結婚したら、男が家事をすることになるんだよ。それに、俺は結婚する気なんかないし、するとしても相手が見つからん」
アリスは、首を横に振っていた。空は、頭を抱える。アリスは、微笑んで言う。
「別に、結婚しなくても一緒にいれば良いじゃん。空は、私のこと嫌いなの? 私、寂しいなー。ねぇ、好き?」
アリスはそう言って、目をうるませていた。空は目を泳ぎながら困っていると、アリスはえーんっと嘘丸見えな泣き真似をしていた。
目線をそらすと今度は上目遣いをして見つめてくる。空はまたアリスから視線をそらした。
だが、アリスは嘘泣きをやめて、笑顔になる。そして、両手を上に上げて喜んだ。
「やったぁ!! 空くんが、ついにデレてくれたよぉ!!」と、アリスは嬉しそうに叫んでいた。
「はよ食え!」
空は赤面しながら怒るように言い、アリスにパンを渡した。アリスは、ありがとうと言ってパンを受け取ると、それを口に入れる。
アリスは、パンを頬張りながら、幸せそうな表情を浮かべている。
そんなアリスを見て、この子は、いつも楽しそうだ。
本当に、羨ましいくらいに。
アリスが食べ終わると、ラジオのニュースには怪物の討伐数と戦況報告が流れていた。
「昨夜、ノヴァシティ南西部に出現した巨大生物は、現在ノヴァシティの防衛隊によって撃退されました。ノヴァシティ防衛軍は、ノヴァシティ南西部の市街地にて、巨大生物の殲滅に成功し、現在はノヴァシティ南部へ進行している巨大生物を迎撃するため移動中とのことです」
ラジオでは、アナウンサーが淡々と喋っていた。
アリスは、たまご!たまご!と叫んでいる。そう言えば、アリスは朝からずっと言っている気がする。そんなことを考えていると、アナウンサーが声のトーンを変え、咳払いをする。
「続いてのニュースです。尊一族方々が国民の笑顔を見届ける為に、ノヴァシティに訪れています。尊一族の方は、ノヴァシティの南東部ある公園に集まっており、今日の午後にはノヴァシティを出発し、ノヴァシティを離れる予定です。なお今回、来訪の目的は、尊一族がノヴァシティに残した遺産である、ある施設の調査のためと発表されています。ノヴァシティの市民の方々は、尊一族に温かい歓迎をお願いいたします」
「尊って何?」
アリスが聞いてきた。俺は答える。
「ああ、アリスは知らないのか。このノヴァシティのお偉いさんだよ」
「へぇー、そうなんだ。どんな人なんだろ? 会えるかなぁ?」
アリスは目を輝かせて言う。
アリスは可愛いなと思いつつ空は、「どうだろうな。でも、会えたらいいよな」と答えた。アリスは嬉しそうに微笑んだ。彼は立ち上がり、こっちに見つめるアリスに対して親指先を玄関前に向けた。
「アリス、行くか」
「うん!」
アリスは元気よく返事をした。
空は玄関扉を開け、外に出るとアリスと一緒に歩き出した。アリスと手を繋ぎ、二人で並んで歩く。目的地はノヴァシティの中心部でそこに大きな公園がある。空たちはその公園に向かうため車庫に自分専用の装甲車を停めてあるので、それに乗って行く。
「ドライブデートするの!」
「なんでだよ、そんなんじゃない。護衛だよ。俺はお前のボディーガードだからな。変なことを考えるのはやめてくれ」
アリスは頬を膨らませながら不満げな態度を示した。
にしてもこの世界、情勢や治安が悪いとはいえ、こんな小さい女の子一人で出歩かせるのは危ないと思うのだが。まあ、こいつは強いから大丈夫だとは思うが。
ノヴァシティ、正確には『東京州千代田区』で、全体的に独特な高層ビルが立ち並んでいる。車やバイクが走り回り、人々が行き交っている。東京都市部の道路は整備され、信号機が設置されている。街灯もあり、電灯が点いている。街のいたるところに広告が表示されている。
恐らく観光名所の為に評判を上げるために都市やインフラだけ発展したのだろう。だが、そこに住む人間たちは幸せではない。人々は不安を抱えながら暮らしている。
今、スーパーの値段が倍に増えている。卵だけではなく米もだ。そのため、市民の多くは食糧不足に悩まされていた。食料だけでなく衣服や住居など、生活に必要な物資が不足している。
電気代も節約してるのに、物価が上がっているのだから当然の結果である。
一部の裕福な家庭を除き、多くの人々は苦しんでいた。都市には失業者やホームレスが溢れかえり、治安が悪化していた。都市は犯罪組織が蔓延っており、人々は常に怯えながら暮らしていた。
原因は政府の過剰な介入による経済危機が原因である。この不況により失業者が増加し、失業率は増加の一途を辿った。また、犯罪件数も増え、治安の悪化を招いた。
その結果、人々の生活は悪化し、都市は荒廃していった。政府はこの治安の事態に対処すべく、大規模な治安維持法改正を実施し、犯罪者の取り締まりを強化した。だが、その政策はかえって逆効果となり、犯罪者の増加を招いてしまった。
また、戦争後の状況なので、人々が恐怖に怯えている。
なので、多くの人々は都市から逃げ出し、難民となっている。
他の州の都市は破壊され、多くの建物が炎上していた。復興作業にも手が回らないほどに、事態は深刻化していく。
「空! あれが公園なの!?」
アリスは指差しながら思わず声を上げた。草木が生い茂り、建物がほとんどない荒涼とした風景が広がっていたからだ。遠くには子供達が燥ぎ、その麓に広がる森から風に乗って霧が流れてくる。
「国立自然公園。ここは昔からある憩いの場所なんだ」
そう言いながら、目の前に広がる光景を見つめた。だが、今のこの景色からは、かつての賑わいは感じられない。
だが、アリスは気にしていないようだった。むしろ、嬉しそうな顔をしていた。彼女は目を輝かせ、興味津々といった様子で辺りを観察し始めた。
この都市で数少ない自然を感じられる場所がここなのだ。
空たちは、公園の中にある小さな池のほとりを歩いていく。
「はぁ~、柔らか〜い」
芝生に寝転ぶアリスが気持ちよさげに呟いた。
太陽の暖かな日差しが降り注ぎ、木々の香りが心地よい。
都会の中なのに、この場所だけはまるで別世界のような感覚に陥る。
アリスがこちらをチラリと見て微笑む。
彼女の笑顔を見て、心が温まる。
……エレメントホルダーとアヴァリスの関係は類似してるのか? もしそうだとしたらアリスは、この世界の平和を脅かす存在となるのかもしれない。だが、今はまだわからない。アリスがアヴァリスの生命体か、エレメントホルダーなのか、あるいは全く別ものなのか。だが、アリスが危険人物だとは思えなかった。もし危険人物でも、この生命体に自我があり、感情があるならそれを守るだけだ。
エージェントとして、一人の大人として……。
2035年9月9日午前11時過ぎ、東郷機関講義室で講師が授業をしていた。神薙空はノートに板書を書き写しながら、ふと窓の外を眺める。
今日は快晴で雲一つない青空が広がっている。太陽の光が降り注ぎ、草木を照らしている。風が吹き、木々が揺れ、葉っぱ同士がこすれ合う音が聞こえてくる。
空は窓から外を覗いてそんなことを考えていた。
講義室の中では、生徒達が熱心に講義を聞いており、必死に書き写している者、参考書を読んで予習をしている者など様々だ。すると、授業中にイヤー通信機が鳴った。
空は、教師に見つからないように通信機を手で耳を覆った。
そして、通信機のボタンを押した。
「こちら、神薙空です。どうしましたか?」
空が小声で話しかけると、相手は女性の声だった。
「神薙さん、任務です。これから言う場所に来てください」
空は、声の主はレナで、場所はとある繁華街の前だと分かった。空は、すぐに返事をして、その場所に向かうことにした。
学校に風邪で早退と告げ、すぐさま指定された場所に向かった。そこは、繁華街の前で、待機する組織のメンバー達がいた。空が到着した途端、一人の帽子を被った大男は空に近づき、彼に圧をかけられる。
「お前が神薙空だな。俺は、コードネーム:アスタリスク。よろしくな」
握手しようとするがじゃんけんだと勘違いし、空はチョキを出した。
「おい、てめぇ。まともに挨拶もできねぇのか? やるか?」
空は、慌てて手を引っ込めた。
「あ、いや、そういうノリかなぁと思って」
「んなわけねえだろうが!」
空はアスタリスクと名乗った男の迫力に押され、後ずさりした。
すると、男の人の叫び声が遠くから聞こえ、空とアスタリスクは振り返った。
そこには、エリザベスが立っていた。彼女はこちらに向かって走ってくると、急に空の前に立ち止まった。
しばらく沈黙が続いたが、最初に動いたのはアスタリスクの方だった。
「来たぜ!!」
彼は、二本のククリナイフを構え、少女に向かって突進していった。
しかし、少女は目を大きく見開いて満面の笑みを見せた。そして、彼女は一人で踊りながら彼の攻撃を全て避けた。
他の組織の部隊も合流すると射撃を開始した。数百の弾丸が彼女に近付くと銃剣を全て弾いて。すると、突然、少女は地面を蹴り上げ、飛び上がった。弾丸を扇状に広げて発砲すると弾丸は次々と彼らの体を貫き、倒れていった。
空は、着地した瞬間に発砲したが、避けられてしまった。
少女はまた飛び上がり、身体を回転すると銃を乱射し、敵の部隊は次々と倒れて全滅してしまった。
着地した少女は笑顔で空に手を振ると数十メートル飛び、屋上に登って去っていった。
「あぁ」
空は、去った方向を悔しながら彼女の背中を眺めることしかなかった。
通信機が鳴り、空は応答する。
「あぁ、レナ。どうした?」
「空、大丈夫? 今どこにいるの?」
空は現在地を告げた後、先程のことを話そうとしたが、言葉が出なかった。
彼女は深呼吸をしてから、「禁の室殿は知ってる?」と尋ねた。
禁の室殿は主に国家存亡の危機に瀕する組織に対して、一度の極秘裏に尊の会議が行われる場所であった。空は、そこに呼ばれたことは今まで一度もない。彼は疑問を抱きながら、その場所へと向かった。
東京都南に進み、大和市首都、作戦本部門前の目的地に着くと、そこは水色を照らすビルだった。そのビルの入口に数台の黒い高級車と護衛車両が停車する。そして、黒服の男とスーツ姿の男たちが立っていた。空は彼らに話しかけようとした。すると、男の一人が空に気づき、近づいてきた。
空は男の服装を見て、何か違和感を覚えた。彼はその正体がわからず、しばらく考え込んだ。やがて、男は空に声をかけてきた。
「君は神薙空ですな。早速、禁の客殿へ案内しましょう」と。空はその男が何者かわからないまま、ついて行った。
空はエレベーターに乗り、最上階のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まると、空は緊張していた。
エレベーターが開くと、そこには広い廊下が続いていた。廊下には絨毯が敷かれている。壁や天井は白い大理石で出来ており、その先まで敷かれた赤いカーペットは高級感がある。空は、ここが本当に尊殿の建物なのか疑った。彼は、こんな豪華な建物を見たことがなかった。
空は歩きながら周りを見渡していると、目の前の扉前に一人の女性がこちらに向かって歩いてくる。彼女は長い金髪に青い瞳をしており、白い軍帽、白い軍服を着こなしていた。身長は低く、年齢は20代前半くらいだ。空は彼女の顔に見覚えがあったが、名前が思い出せなかった。女性は空を見ると、微笑んだ。
「こんにちは、神薙空さん」
挨拶をすると空は挨拶を返す。
テーブルの端には組織のチームが座っていた。
空は彼らに近づき、席に腰を下ろした。
すると、急に全員席を立ち上がり、状況を把握してないまま慌てて席を立ち上がる。すると奥に座ろうとする女性に向かって敬礼をする。
女性は会釈して微笑むと、全員席を座る。そして、一人の男がテーブルに書類を置いた。
「まずは、これを見て下さい」
空は、何かの資料かも分からずただ、見るだけだった。
空は、それをじっくりと見つめて、少し考えてから、口を開いた。
「そうだな。まぁ、あれは、何か、別の目的があるような気がするな」
空はそう言って、目を逸らす。すると、「尊殿。これは我々の組織にとっては一縷千鈞であります。もし、これが本当ならば国家にとって重大な事態になります」と、40代ぐらいのぽっちゃり体型の髭男性が言う。すると、 空は、男性を睨みつけるように見て、 空は、女性に視線を向けると、彼女は資料を眺めていた。空は、少女の方に目を向けた。
尊殿の前に座る少女は、腕を組見ながら常に誰かを睨むように周囲を警戒していた。テーブルには反返る剣が置かれていた。
剣の鞘と持ち手は金色で数種類の宝石の装飾を付け、オーラを放つほど神秘的な物だった。
その少女は、とてもクールな容姿をしており、髪は、黒に近い薄黒髪のポニーテールだった。瞳の色は青色で、肌は透き通るような白い色をしていた。年齢は10歳前後で、背丈は150cm程しかなかった。そして、服装は、インドの衣装を着ていてまるで違う人種が紛れてる様な姿だった。
そして、突然、少女は口を開いた。
「腹減った」
と、小さく呟いた。暗号なのか、ただ単に腹減ってるのか解読できなかった。彼女が、資料を、顎を触りながらじっくりと見つめて、少し考えてから口を開いた。
「少し理解できました。つまり、ベータという怪物が魔物たちを操っている可能性が高いということですね」
しかし、質問の意味は分からず、空は黙って女性を見つめる。すると、女性は話を続けた。「そのベータという生物によって能力や技能が増幅され、また異常な力を身につけていくのだとしたら、何としてでも討伐しなければなりません。具体的には、どのように対応すればいいのですか?」
空はふふっと苦笑すると観察する。正直言ってこの話しだけでは何もわからないに等しいのだ。とはいえ、数少ない情報からなんとか話を理解する必要がある。まずは、あの男を説得する。「ベータ144という怪物の他にも、組織が我々を狙ってることを忘れてはいけません。しかし、奴らがこちらに危害を加えるような真似をしないことは、今までの行動から分かります。そこで、我々はまず旧北陸地方に向かい、そこに隠れている組織のメンバーに接触して情報収集に努めましょう」
空は彼に説明し始めた。実際のところ、かなりのリスクを伴う行為でもあるだろう。だが、それでも行わなければならないのだ。この大陸を守るために。それに、もし成功すれば大きな貢献にもなるはずだと思い直したのである。そんなことを考えながらも、男は納得する。
「ま、まぁ確かにな。だが、どうやってそいつらを探す? 手がかりがないと厳しいだろ?」彼がそう言うと、空は笑って答える。
「簡単だよ。各組織が敵対組織を捕えるまで検問を張るのがオチさ。だったら最初に調べておいた方が後腐れなくて済むでしょ」その発想は彼らしすぎて、彼は感嘆したようだ。この男はどこまでも抜け目がなく、勇敢なやつだと思ったのである。
すると、ドアを向こうから男の叫び声がする。それは、ドアを開けた瞬間、あのエリザベスと黒マスクに覆われた2メートルぐらいの高身長男性が手を振りながら一言放った。
「やぁやぁ遅れてしまいましたよ」などといって余裕ぶっている姿を見て、人々は後ずさりする。
その時、少女はトップハットを外し、笑顔になってお辞儀をした。その笑顔を見た組織3人は、驚愕の表情を浮かべ、男の方は眉間にしわを寄せて顔をしかめた。そして、後ろにいた女も同じように少女の方に、目を見開いたまま固まったのである。
ぽっちゃり男性は全身震えながら少女の方に指差して、脳の回転が追い付いていないかのように口を震えながら必死に動かす。
「あ、あの少女、アビリティーインデックス1位だな!?」
その言葉を聞いた彼女は驚愕の表情を浮かべたまま言葉を失う。他の二人はそれを聞くと、男と同じように目を見開き驚きのあまり瞳孔が大きくなっていくのを感じた。そして、目の前にいる少女という存在がいかに恐ろしいものであるかを理解したのである。
そんな4人の反応を見た少女は微笑し、ゆっくりと口を開く。「Bonjour tout le monde comment allez-vous?(皆さんこんにちは。ご機嫌はいかがですか?)」
そして、彼女の発言を聞いた4人はさらに驚きの表情を見せる。というのも、その言葉がフランス語であり、少女の口から発せられたものとは思えないほど流暢な発音だったからである。しかし、その驚きも束の間でエリザベスが3回指を鳴らすと彼らは恐怖に染まった表情で悲鳴を上げた。
「皆笑顔で元気いっぱいですね。とても素敵です」
男は少女の言動に違和感を感じ、冷や汗をかきながら必死に言葉を発する。
「あ、あの、君は一体誰なんだ?」
それは彼の心の底から出てきた疑問だった。その言葉を聞いた少女は可愛らしく首を傾げてから口を開いた。「私? 私はこのおとぎ話の世界を支配する者です」
すると4人の顔色が一変した。その反応を見てエリザベスがくすくすと笑う中、男たちの一人が叫んだ。
「ふざけんじゃねえ!!てめえのようなガキに世界が支配できる訳ねえだろ!!」
その言葉を聞いた少女は、蔑むような視線を送りながら口を開く。
「あら、失礼ですね」
するとエリザベスの瞳が赤く光り輝き、次の瞬間には4人全員の首が吹き飛んでいた。地面に転がった彼らの頭を見て、少女は不満げな表情を見せた後、ため息混じりに呟いた。警戒してた別の少女は鞘ごと持って、裏口に帰った所を空は目撃した。戦わずして逃げたのかと不思議に思った。
残りの組織の人間を一人ずつ指差して選んでた。
「どれにしようかな~? よし決めた!君にしよ~」
そして指を鳴らし、瞬間的にその男の前に移動すると、人差し指を鼻先に突きつけた。
男は悲鳴を上げて逃げようとしたが、時すでに遅しで銃剣が男を串刺しにした。結局、少女が遊び始めたのは僅か6人だけだ。そう、5人は既に死んでいるのだ。
空は尊殿を護衛するため、銃をエリザベスに向けながら裏口に逃げるように伝える。
尊殿を裏口に誘導したあと、空は銃を取り出しエリザベスと向き合った。
そして、空はエリザベスとの攻防を繰り広げた。空は銃弾を何発も撃ち込むが、エリザベスは全て剣で弾き返した。そして銃弾を弾き飛ばすと、右足から回し蹴りで顔面を狙ってきた。空は咄嵯に腕で防ぐと剣を生成しそれを使って何度も斬りつけるが、それを全て受け流された上に腹を蹴られて勢いよく飛んで行った。そこで空は初めて、エリザベスとの能力の違いに気付いた。空は立ち上がると拳銃を構え直した。すると再び踏み込まれ、剣で首を狙ってきたが、間一髪の所で躱すことができた。空は後退しながら銃弾を何発も撃ち込むが、彼女はものともせずに2丁発砲していた。2丁拳銃の扱いは非常に早く、目で追うことができなかった。なんとか躱したかに見えた空だったが、銃剣が左肩に突き刺さった。
「ぐぁっ!」
空は叫びながら至近距離で銃を撃つが、エリザベスは次々と銃弾を躱していった。距離を取ると彼女は標準を定めずに発砲すると左手を負傷した。空も反撃を試みるが、エリザベスは銃を回しながら右手と左手を交互に発砲し続き、空を圧倒した。
しかし空も負けじと応戦するが、エリザベスの早撃ちには敵わなかった。空は腹を撃たれるとそのまま倒れ込んだ。倒れながら反撃しようとしたが、視界的に無理だと判断したのか攻撃を止めた。
そして再び立とうとしたが足に力が入らず立てなかった。エリザベスはそんな空の左脇腹に銃口を突きつけると、その様子を近くで見ていた黒マスクがエリザベスに声をかけた。
「殺しはするなよ」
黒マスクが言うと、エリザベスは「Okay」と抑揚なネイティブの英語で返事をした。「あ、神薙空って呼んだっけ? 顔は覚えとくよ。君と遭遇したら、殺すから」蠹毒は笑いながらそう言うと、エリザベスと一緒に建物の奥へと消えていった。
空は、撃たれた脇腹を押さえながら立ち上がると後ろからレナとアリスの声と共に、息を切らしながら壁の側に背中をもたれかかった。そして2人は空を見上げると、空は血がにじみ出たシャツを見て、何か言いたそうにした。
「大丈夫!? すぐ応急手当しないと」
アリスはそう言うと、鞄の中からハンカチと水の入ったペットボトルを出した。
「止血しないといけませんね。ちょっとじっとしててください」空は応急手当されている間、2人を見ていた。アリスの真剣な眼差しを見て、思わず目をそらした。
「あの二人何者なんですか? 何処から来たのでしょうか?」
レナは眉をしかめながら空に聞くと、空は息を呑み、覚悟を決めたように口を開けた。「奴等はこの世界を壊そうと企む組織の一員だ。さっき襲ってきた奴の名は黒マスク野郎とエリザベス。奴は、俺と組織を殺すためにこの世界に来たらしい」空はそう言うと、2人は驚いて声を上げた。「どうして私達も?」どうやらレナは心当たりがないようだった。すると空は眉を寄せて、口を開いた。「――尊殿を暗殺。それか人質にして、組織を壊滅させようと企んでいる」そう言うと2人の表情は険しくなった。突然の事態に呆然としながら、空の話に耳を傾けていた。「その話が本当だとするならば、この二人のアビリティーインデックスはどちらも1位クラス。かなり手強い相手です」
「強いだけじゃない。あいつらのエレメントホルダーはどれも規格外だ。そして、俺は今まで奴等と戦ったことがあるが、一度も彼奴等に勝ったことがない」空の言葉に二人は驚きの声を上げた。すると空はレナの方に視線を向けると、口を開いた。「だからお願いがあるんだが、いいかな?」空は真剣な表情で言うと、レナは警戒しながら聞き返すと、空は小さく息を吐き、 すると、空は体を僅かに震わせながら、両手で自分の肩を抱き、心細そうにする。
「あの二人を国家テロ組織と認め、武力行使も厭わないと公表してほしい。そうすれば、東郷機関は優位に立ち回れる筈だ」空はそう言うと、レナは困った表情を浮かべた。「しかし、それは逆に国際問題になりますよ?」すると空は苦笑いしながら口を開いた。
「仕方ないだろ? 今の俺たちじゃ奴等には勝てないんだ」
その言葉にレナは黙り込んだ。少しの間が空くと、しばらくしてレナは真剣な表情で答えた。
「あの人達との戦闘がこれほど困難とは、私達も考えを修正しなければなりませんね」
レナはそう答えると、空は頷いて口を開く。
「そうだな。だが、俺達には時間が無い。その間にも奴等は何もしてこないという保証も無いんだ」
空はそう言うと、レナは頷く。すると、レナは何かを思いついたのか、口を開いた。
「分かりました。あなたがそう望むのなら、その様に公表します」
彼女はそう言って話を終えると、沈黙が訪れた。暫くしてから空は口を開くと、いつもの真面目な口調に戻る。
「分かった。それじゃあ、頼んだ」
そしてそう言うと、彼女と別れて事務所に帰ることにした。
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