第14話

 ゲームの仕様とはこうも辛いものなのか。

 『あっち』では何気なく通り過ぎていた事が今は一番辛い。

 でも辛いことは決して表に出せない。

 なぜなら私は一人ではなくなってしまったからだ。


 十年前に拾った子どもたちが私を心配そうな目で見ている。

 私が倒れたとき、庭にいた子もすぐに駆け寄ってくれたことが本当に嬉しかった。

 それにデルナーさんにも感謝と共にこのことを伝えなければいけない。

 もちろん、このまま諦めて死ぬつもりはないが、もし死んでしまったら伝えることは叶わなくなってしまう。


 ―――だから今は辛いことは表に出さない。表面だけでも気丈に振る舞う。


 ゲームの中のパレントならこんな感情生まれなかっただろう。この家もただのボロ屋で、孤独に死んでいくはずだった。

 私は死にたくない。

 私を新たに受け入れてくれたこの世界を離れたくない。


 しかし、それは叶わないかもしれない。

 倒れた時はまだなんともなかったのだが、今は全身が謎の痛みに襲われており、頭もガンガンと大鎚で打たれているかのように痛い。

 それに身体が熱い。業火で焼かれているようだ。心臓もそれにつられて鼓動を早めている。激しい動悸も入り混じり、もう何がなんだか分からない。


「はっ、はぁ、はぁ・・・・・・」


 身体の痛みを和らげるように私は呼吸をする。

 気休めにもならないが、こうでもしていないと泣き出してしまう。

 子どもたちの目の前でそんな醜態は晒したくない。


「・・・・・・姉さん、大丈夫?」


 私の手を握りながら子どもたちはみんな、目に涙を浮かべていた。

 私は、心もとない返事をする。


「・・・・・・だい、じょう・・・・・・ぶ」

「・・・・・・っ。どう見ても大丈夫じゃないだろ!」

「そうだよ。姉さん、どうして、こんな・・・・・・」

「お姉ちゃん・・・・・・。死なないで・・・・・・」

「ばかっ。今・・・・・・そんなこと言うなよ」


 子どもたちの不安気な声がよく聞こえてくる。

 ―――ついこの間まではまったく喋ってくれなかったのに。

 もっとこの子たちの声を聞きたい。

 この子たちと過ごしていたい。


「・・・・・・でも、それは無理、なのかな」

「無理? 無理って何のことですか。姉さん」

「もう、一緒に・・・・・・過ごせ、ない」

「そんなことっ、言わないでください!」


 また一人、溜まっていた大粒の涙が垂れる。

 そんなに涙を見せないで欲しい。私は流せないのだから。

 もっと笑顔で・・・・・・。


「―――ゔっ!!! ・・・・・・はっ、はっ」


 倒れてから初めて、一番の激痛が走る。

 心臓は杭が打ち込まれたように突き刺す痛みが襲った。

 ・・・・・・もう痛みも感じなくなってきた。ただ熱い。熱くて、眠い。

 いや、意識が・・・・・・遠のいているのか。


 ―――なら、早く、言わないと。早く、はやく。


「・・・・・・みんな。ありがとう」


 そして、私は、この世界で初めて愛した子どもたちに別れを告げた。


 

 




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