第13話

 私は今日もゲームの世界で目を覚ます。

 

「・・・・・・んっ、もう朝・・・・・・」


 前世で平凡な大学生だった私は、一度死に、ゲームの世界に悪役令嬢として転生した。

 その後断罪イベントから逃れられなかった私は追放され、ここ辺境の地で暮らすことになった。

 初めて来た時、この家は目も背けたくなるくらいのボロ屋敷だったが、必死の改築の成果もあり今やかけがえのないマイホームとなっている。


 気持ちよくベッドから起き上がったパレントは鶯色のカーテンを開けて、朝日を浴びる。


「ん~~。今日も気持ちいい朝・・・・・・!」


 前世では生活習慣を良くしようなどという意識は全く無かった。そのため、必要とあらば徹夜は日常茶飯事で、朝日を浴びる回数も少なかったのだが。

 この家に来てからは仕事があるということもあり、朝きっちりと起きるようになった。前世と比べればかなり生活習慣は改善されたと思う。


 それに、生活習慣が直った理由は他にももう一つある。

 パレントは完全自分用の部屋から出て、賑やかな声が聞こえるリビングへと向かった。


「―――おはよう。みんな」

「「「「あっ、姉ちゃん! おはよー!」」」」

「「おはようございます、パレント姉さん」」

「「お姉ちゃん。おはよう」」


 パレントがリビングへ顔を出すと、先に家事やら食事やらをしていた子どもたちが一斉に彼女の方を向いた。


 これが生活習慣を直そうと思ったもう一つの理由だ。

 十年前、奴隷商から逃げてきた子どもたちを保護し、一緒に暮らすことになった。

 あんなに小さかった子たちは、十年で二倍くらい背が伸び、前世でたとえると中学生くらいにまで大きくなった。


 家族が増えたことで、さすがに私だけ昼まで寝ているわけには行かなくなったということだ。


「それにしても、みんな起きるの早いわね・・・・・・」


 と椅子に腰掛けながらパレントが呟くと。兄妹の中でも特に元気な男の子が言った。


「姉ちゃんが遅いんだよ」

「いや。普通よ、普通」

「なら・・・・・・年を取ったからってことか?」

「は?」

「あっ、やべ」


 パレントが鬼の形相になると、少年は「ごめんなさい」とすぐさま謝罪する。


 まったく、子どもはいつの間にか要らぬことまで覚えてしまう。私はこれでもまだ二十代の若者だ。


「はいはい。姉さんたちは喧嘩しない」


 庭で洗濯物を干し終わった少女が仲介に入る。この子は人格がよくできた子だ。


「それよりも、今日は特別な日なんだから」


 特別な日。

 世間一般には何の変哲もない休日のはずだが、彼女らにとっては特別な日らしい。


「今日なんかあったっけ?」

「げっ、姉ちゃん忘れてんの!?」

「ふふっ、まあなにも伝えてないもの。あんたが教えれば」


 どうやら今日が特別な日というのは、兄妹の周知事のようだ。私にも教えてくれればいいのに。


「で、何なの?」

「フッフッフ、心して聴きな。今日はだな、俺達と姉ちゃんが出会ってからちょうど十年の日だ!」

「・・・・・・あっ、なるほど」

「だから、お祝いしようぜ!」


 十年・・・・・・、私はそれほど重要視していなかったけど、子どもたちにとっては祝うべき日なのか。正直とても嬉しい。


「・・・・・・そっか。ありがとう。じゃあお祝いしよっか」

「ああ! 今日は遊びまくれるぜー!」


 と、叫び上がって庭で水やりをする兄妹のもとへ駆け寄っていった。

 

「アイツ・・・・・・」


 ―――「遊びまくれる」が本音でしょ!


 と思わずツッコみたくなるが、たまにはこんな日もあっていいだろう。


 それより十年経ったことに自分で驚いている。体感はまだ三年しか経ってないように思えるのだ。

 この十年でしたこと、と思い返せば・・・・・・デルナーさんの宿で働いたり、子どもたちと木彫りを作って街で売ったり。休日は畑や庭で作業して、時には森の中をみんなで歩き回った。


 体感よりも現実の時間の方が早いということは、それらが楽しかったのだろう。私が思っていたよりもここでの生活は価値あるものだった。


「・・・・・・」


 ―――けど、「アレ」がそろそろかもしれない。


 ここまでパレント・アシュリーラとして幸福な人生を送ってきて、私には恐れるべきものが一つ残っていた。


 「ゲームの仕様」が、まだ適応されている可能性だ。私は本来のパレントとは大きく違った結末を過ごしているはず、だが追放十年目にして「ゲームの仕様」が発動する可能性は高い。

 

 なぜなら五年目、家を改築して死亡フラグを完全に折ったと過信していた私は、見事に死にかけた。

 朝いつものように街へ出ようとした時、普段出ないはずの朝の森に凶暴な熊が現れたのだ。街近くまで逃げて、なんとか衛兵に助けられたが、あの日だけ不自然な不幸が舞い降りた。


 五年刻みとすれば、十年目でいつまた不幸が舞い降りるか分からない。

 とりあえずそれが今日でないことを願うが。というかあれは単なる不幸であってほしい。もしかしたら私の考えすぎの可能性もある。


「・・・・・・何にせよ、まだ注意は怠れないわね―――って、え?」


 最悪の不幸を考えながらパレントが椅子から立ち上がろうとした瞬間。


 ―――バタンッとパレントは床に倒れた。



――――――――――――――――――


前置きがそろそろ終わります。

子どもたちの名前は2章でまとめて出てきます。



 

 


 

 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る