第12話 

「はわぁ~~~」


 パレントは息をするような声で目を輝かせた。

 前世も含めて、こんな声を出したのはじつに五回もないだろう。

 

 けれど私が出してしまった理由は、目の前に立っている子どもたちだ。

 先刻お風呂に入れる名目で髪や身体に付いた汚れを落とした。すると、バサついた髪でよく見えなかった顔がしっかり見えるようになり・・・・・・。


 お風呂上がり、ピカピカにしたら全員が可愛すぎた。今まで奴隷だったから子どもにしてはまだ痩せ型だが、これから十分に栄養を取ればもっと可愛くなるだろう。


 最悪な状態でも可愛かったのに、これ以上整えていくともっと可愛くなってしまう。

 あくまでも推測に留めておいたが、本当にこの子たちは奴隷商で一番高値が付いたのではないか。そしたら尚更いい買い手が付く確率は低い。

 今になって、逃げ出してくれて良かったと思ってしまう。


 ―――ていうかピカピカにするのすごい気持ちいい!


 転生してきてようやく原石を磨く人の気持ちが分かった。これはたしかに磨きたくなってしまう。


 と、パレントが快感に浸っていると、子どもたちは各々で服を選んで着始めていた。全部私のお古なのでどちらかと言うと女物の方が多い。


 ・・・・・・まあ、この子たちくらいの齢なら男が女物を着てもまだマシだろう。

 それに風呂上がりは何が何でも身体が冷えないようにしなければならない。これで逆に体調が悪くなったら本末転倒である。


 痩せている子どもたちには私のお古は少し大きかったかもしれない。これから元の体型を取り戻していくにしても、新しい子供服は必要そうだ。


 だが服を買うのは後日にするとしよう。

 まずは彼らの身上を聞くのが最優先だ。

 

 可愛い小人たちの着衣作業が完了したところで、パレントたちはリビングに移動する。

 私は適当な椅子に全員を座らせて何処から来て、何処に家族がいるのかを、個々で訊くことにした。


 中でも最も喋ってくれたのは、今日の朝も誰よりも早く起きてきた子だ。

 黒の中に微かに深緑が混じったような、不思議な髪で、この子は割と肝が据わっているのかも。


 訊いていくと、分かったことと分からなかったことがあった。


 まず分かったことは、この子たちはやっぱり奴隷商から逃げてきた子だということ。ただ、この子たちは生まれながらの奴隷ではなく、奴隷商に攫われて奴隷になってしまったらしい。

 そして、なんと彼らは全員兄妹の関係だった。

 八人も子どもがいるとは、元の家ではかなりの大家族だったと見受けられる。

 だが、分からなかったことはその次で、こんなにも特徴的な子どもなのに、肝心の元の家がまったく分からなかったのだ。


 何度も訊いても、子どもたちは首をふるふると横に振るだけで分からない。

 

 ―――忘れているんだから仕方ないけど、肝心なのはそれなんだよなあ。


 と、思いつつも家がどこなのかパレントに分かるはずもなく、唸った。

 探すにしても、元の家族から私が誘拐犯と捉えられ兼ねないし、そもそもこの子たちはかなりの距離を逃げてきたようだった。大陸単位で離れているとかなり難アリだ。


「それに、奴隷商にじゃなくて私に報復の矛先が向いたらどうすんのよ・・・・・・」


 そうなったら相手違いにもほどがある。

 私は平穏に暮らしていきたいのに。

 かと言って彼らを外に放り出すわけにもいかない。


「・・・・・・」


 パレントは腕を組んで、しばらく考えた。

 ―――そして、打開策を一つ思いついた。


「あなたたち、しばらくこの家で住みなさい。それで、自分たちで生きられるようになったら、自分たちで家族の元に戻りなさい」


 こうして十年間に及ぶ、パレントと子どもたちの生活が始まった。

 しかし、これはパレント・アシュリーラの最後の十年間の始まりでもあった。

 



 




 




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