第11話

 子どもたちを一晩寝かせて私は分かったことがある。それは―――


「汚い!!!!!」


 昨日から予想できたことではあるが、私の白いベッドが茶色く泥だらけになってしまったのだ。(これが結構大事)

 原因は子どもたち。身体には痛ましい傷もあるが、それよりも泥や汚れがついている。昨日は突然のことでまったく考慮していなかった。


 シーツは洗い直しに、ついでに子どもたちもお風呂に入れなければいけない。不衛生な身体のまま私の家にいられても困る。

 私は子どもたちが食事している間に、湯をためていた。

 

 前世とは違い、自動でお湯を作ってくれるわけではないのだ。シャワーならまだしも、この家の風呂は入りたいと思った時に入ることが出来ない。

 月一回の楽しみである湯船に浸かれる機会をこんな形で使ってしまうのは少々癪だが、家中汚されるのに比べたらなんてことは無い。


 一生懸命にパンを口に含む子どもたちに、パレントは言った。


「ねぇ。あなたたち、お風呂に入りましょう」

「「「「「「・・・・・・?」」」」」」

「「・・・・・・!」」


 子どもたちは一斉に手を止め、無言で反応した。

 さっき起きてから、誰も逃げようとはしていないので一先ず信用してくれているのだろうが。相変わらずこの子たちは私に声を聞かせてくれない。

 一日知り合った仲だし、まだ完全に信用したわけではないということだ。少しずつ慣れていってくれればそれでいい。


 そして子どもたちの反応は、ある意味見事に分かれた。

 八人中、六人の子たちは首をかしげ、何のことか、という感じ。この六人は全員男の子だった。

 残りの二人はパアっと破壊力抜群の笑顔で、こくこく頷いた。この二人は女の子だ。やっぱり女子はこういうことに敏感な生き物なんだなぁ、と思ってしまう。

 喜びようから見ても、奴隷になってからも身体の汚れを落とせないことを相当我慢して生きてきたのだろう。

 男と女の見事な分かれようにパレントは苦笑して言う。


「じゃあ、食べ終わった人からお風呂に来なさい」


 すると。またしても女子二人は早くお風呂に入りたいのか、料理を口に運ぶスピードを上げた。

 子どもって、こんなにも分かりやすい生き物だったけ?

 

 この勢いなら着替えも必要そうだ。

 今この子たちが着ている服は雑巾にも見紛うくらいの汚い布切れで、私も前世でチラッと見た記憶がある。

 この世界の奴隷は等しくこんな貧相な格好だった。見た目が酷ければその人間は奴隷とすぐわかり、基本的に誰も助けてくれない。この世界の「奴隷」という身分はその人間の格好や仕草から奴隷だということが推測できてしまう、枷である。


 だからこの子たちも身なりさえ整えれば、「奴隷」なんかではなくなる。


「さあ、あなたたちの『汚れ』を完全に落としてしまいましょう」

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