第10話

 子どもたちを保護してから一晩が経った。昨晩はマイベッドが使えず、朝の寝覚めもあまり良くないが気にしない。


 私は起きて生活服に着替えると、すぐ子どもたちが寝ているベッドに向かう。

 会ったばかりの見知らぬ人間とは近くで寝たくないだろうから、私は別の部屋で寝た。


「起きてるかな・・・・・・」


 昨晩と同じく、なるべく音を立てないようにそろそろと部屋を覗く。

 昨日も半日は確実に寝ていたから、起きていても不思議ではなかったが。


「・・・・・・寝てるわね」


 眠り過ぎるのも身体に悪いと聞いたことがあるけど。まだ眠り足りないのだろうか?

 

 前世では自分に子供なんていなかったから、そこのところの知識が皆無である。もちろん、自分がこの子たちくらいの年齢だった頃の記憶など消え失せた。


「うーん・・・・・・まあ、起こすかぁ」


 と言って、まず私は窓に手をかけた。

 部屋がこんなにも暗いから目を覚まさないだけかもしれない。朝日を浴びれば八人中、二人くらいは起きてくれるだろう。

 その後は物理的に起こす。


 ガラガラガラと引戸を両端にスライドさせて、外側のガラス窓を開ける。

 外は晴れて、どこかの木に止まっている小鳥のさえずりが聞こえてくる。庭の植物も朝日を浴びて元気そうだ。


 私は家の改築工事の終盤に、個人的に彩りが欲しくなってチューリップっぽい花を植えた。見た目が似ていたので買ってしまったが、この花は今が最盛期みたいだ。


 ―――ああ、やっぱりこの景色はいい。前世のアパートでは、絶対に見られなかった景色だ。

 転生して良かったと思える数少ない理由の一つでもある。森の奥にある家の良いところはこの別荘感がたまらない。あと三十分はこのままでいられる。


 と、思考が止まりかけ。


「・・・・・・ふう」


 私は息を吐いた。

 よし、頭を切り替えよう。


 朝起きるたびにこの景色を見るのもいい加減慣れていきたいところだ。毎日思考が止まり、今世ではこれだけでかなりの時間を浪費している。

 今はこの景色に見惚れる時間ではない。


 視界を家の中に戻す。

 さて、どのくらい起きたかな?


 するとベッドに寝ていた八人中、一人がモゾモゾと動き出した。他の子たちは微動だにしない。予想よりも起きなかった。


 ―――仕方ないか。


 今日は休みで働きに街に行くこともない。子どもたちが起きたらやりたい事があったのだが、もう少し寝かせてからでも、時間は余るだろう。


 一人だけ起きた子どもは目を瞬かせながら、あくびをした。小さい体で毛布からするりと抜けると私の前におずおずと歩いてくる。

 やけに綺麗な顔立ちだ。これなら奴隷商でも重宝される。取り返しがつかないくらいまで酷い扱いは受けなかったはずだ。


 優しく頭を撫でてやってから、


「ここに奴隷商人はいないから安心して。私と、他の子が起きるまであっちで待ってましょう」


 と手招きする。


 その一時間後に、ようやく全員が起きた。

 






 


 

 

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