第9話

 目を閉じれば聞こえてくる。

 奴隷商に攫われた僕たちは、毎日商品として扱われた。自分たちは良い値が付くといつも商人は下卑た事を言っていた。


『大人しく檻に入れ!』


 ―――やめて


『言うことを聞かないと、これで仕置きだ』


 ―――やめて やめて


『お前らは我が商会の中でも一番の上玉なんだ。いずれ高値で売れる』


 ―――やめて やめて やめて やめて!


 下卑た商人の元には下卑た買い手しか集まらない。いずれ自分たちも他の「商品」と同じように売られる。

 僕たちは商人が他の「商品」を売り付けている隙にこっそりと逃亡した。


 誰も寄り付かない裏路地で数日過ごし、ときにはゴミ漁りをして貴重な食料を八人で分け合った。お互い生まれながらの兄妹だ。一人でも見捨てることは出来ない。

 裏路地で過ごすのにもやがて限界が来た。奴隷商人の目がある内にその街から、その国から出なければまた「商品」になってしまう。


 奴隷商人がいる国から逃げるため、普通の商品に紛れ、別の国へ渡った。

 でも誰も助けてくれなかった。自分たちを見る目は変わらない。数日に一度しか食べれない、身を清めることもできない、みすぼらしい外見では誰も手を差し伸べてくれなかった。


 もう街には行きたくない。

 兄妹全員で話し合って森に入った。もういっそ森で自由に生きてやろうと思った。


 だが現実はそう甘くない。

 舗装されていない森の中は危険でいっぱいだった。夜になると獣が目を覚ます。やつらにとって自分たちは格好の餌だ。

 森でも安心して暮らすことはできなかった。


 お腹が空いた。もう歩けない。


 ―――そんな時僕たちは森の中に建つ一軒の家を見つけた。


 けれど、すでに死に際。最後の助けを求める前に僕たちは倒れた。

 



 次に目を開けたのは温かい部屋の中だった。

 家・・・・・・?の主はどうやら女の人のようだ。台所の方で料理を作っている。


 あの人は良い人? 悪い人?

 

 それもすぐ分かった。

 彼女は自分たちが起きたことに気づくと、八人分の小皿に料理を盛って僕たち兄妹の前に置いて聞いてきた。


「あなたたち食べられる?」


 女の人が聞くと兄妹はビクッと身を震わせた。

 このあとこの人に何をされるかわからない。その恐怖が消えなかったからだ。


 兄妹が怯えるのを見て、彼女は何やらポツポツと呟いた。


「あ、そうか、まだ私は誘拐犯扱いか。・・・・・・ていうかほんとに訴えられないよね? でもでもこんなに酷い状態なんだから何も言えないわよね」


 そして自分で自分の言葉に頭を抱える謎の行動もはさみながら僕たちに言った。


「と、とりあえず。それ食べられるんだったら食べて、今日は寝なさい。私はあっちで食べるから、食べ終わったら呼んで!」


 疲れた様子で明かりの点いた部屋に彼女は行ってしまった。

 しばらく僕たちは兄妹で目を見合わせていたが、

総意で出された料理を食べることにした。


 久しぶりに食べたご飯は温かく、とても美味しかった。奴隷商に攫われてから数ヶ月得られなかった幸せがたしかにそこにあった。



 

 










 

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