第8話

 夕方になり街道沿いの平野は橙の夕日で染まっていた。仕事を終えたパレントは森へと続く野道を歩く。

 私の家は森のかなり奥の方にある。

 あまり帰りが遅くなりすぎると影が落ちた森は昼間よりも危険度が増す。暗い夜道が木々でさらに暗くなり、夜行性の獣が活発になるのだ。

 

 私が森の中の一軒家から街に働きに出ていることを知っているデルナーさんは、私を少し早めに上がらせてくれる。

 本当に感謝しか無いが、今日は特別いつもより早く帰りたいところだ。


 今朝突然の出来事だったとはいえ、私は傷ついた子どもたちをただベッドに寝かせるだけで街に出ていってしまった。その罪悪感が今になってでてきたのだ。


 ―――うん・・・・・・早く帰ろう。




 夕日が落ちぬ間に森に入り、家に帰ってきたパレントはまず子どもたちの様子を確認しに行った。

 子どもたちを寝かせたのは私がいつも使っているベッドだ。ベッドがあるその部屋は自分の寝室でもある。

 良心の範囲内で私は子どもたちを保護したが、その子らは奴隷だ。場合によっては身分相応の行動に出ているかもしれない。


 「・・・・・・荒らされていないといいんだけど」


 パレント恐る恐る壁際から顔を出すように部屋をのぞき込む。まずベッドにいるのかどうか―――


 しかし、そこには可愛い子どもの寝顔が集まっていた。すぅすぅと熟睡している模様、なんだか拍子抜けだ。

 いや、これでいいんだけど。


 朝私が寝かせてからベッドの皺は何一つ変化していない。どうやらこの子たちは朝からこの瞬間までずっと寝たままだったようだ。よほど疲れていたのだろう。

 

 お気に入りの部屋が荒らされていなくて私はほっとした。

 外からの月明かりを遮るため引戸を引いて窓を閉める。

 代わりに家の明かりを点ける。それぞれ子どもの顔をじっと見つめ・・・・・・パレントは、自身の中で僅かな違和感が生まれたことに気づいた。


 ―――この子たちの顔、どこかで見たような・・・・・・。


 だが思い出せない。

 なぜだか頭に引っかかる。違和感がある。

 

「うーん、うーん。んー、何だっけなぁ」


 喉まで出かかっているとはまさにこのことだ。思い出そうとしても、思い出せない。

 あとちょっとなんだけどなぁ・・・・・・。


 パレントは十分ほど脳内と格闘してみた。

 が、やはり思い出せない。ものすごく気持ち悪い気分になってしまった。


 ―――仕方ない。

 パレントは諦めて夕食を作ることにした。寝ている子どもたちの分も必要だろうと考えたからだ。

 私はもどかしいままに部屋の明かりを消し、キッチンの方へ移動した。





 






 

 

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