第6話
―――カリ カリ カリ
「・・・・・・もうちょっと耳に丸みをもたせたほうがいいかなぁ」
―――カリ カリ カリ
ある日の朝。
街の宿屋に働きに出るまでまだ時間があるので私は木の置物と玩具作りに励んでいた。
今の私には宿で働いて稼ぐ金ともうひとつ、これらを街で売って得ている金がある。
いろんな動物や物をモデルにこうして木を彫るのが私の前世からの趣味だった。転生してからずっと悪役令嬢をしていたことで趣味を楽しむ余裕もなかったが、追放されてからは時間が有り余るくらいできた。
そこでただ家に置いておくのは忍びないし、そのうち家の中が埋まってしまう可能性も危惧して街で売ろうと思い立ったのだ。
街で売ろうと考えていたとき試作品をデルナーさんに見せてみた事もあったのだが、それをきっかけに宿にもいくつか置いて欲しいと頼まれてしまった。
大層気に入ってくれたようだったので良かったけど。
売る用の商品とデルナーさんに頼まれた分の両方を製作していたら、自分の分のうさぎを作ることをすっかり忘れて―――
『・・・・・・そうだ! 私のうさちゃん作ってないじゃない!』
と昨夜ようやく思い出したのだ。
そんな経緯で今は前世でも特に気に入っていた「うさちゃん」二世を作っている。
大まかな形は整えられたから、あとは細かい部分を拘っていく。まるまるとした体を崩さないように慎重に削っていくのがポイントだ。
どこかでミスすると全体の可愛さが薄れていってしまう。前世で作った一世と同等のクオリティーを再現できるかはここに掛かっている。
―――カリ カリ カリ カリ
デコボコしたいびつな背中をキレイに削る。いかに滑らかな曲面が作れるかが完成度を高めるのだ。
―――カリ カリ カリ
森を形作る木々の間をすり抜けた朝日が、チラチラとリビングを照らす。
パレントは黙々と手を動かし続けた。
最高の環境での作業は自分の意志以外では止められない。この「うさちゃん」はきっと前世よりももっと、それ以上の完成品になるだろう。
ニヤケ面が止まらなくなってきたところでパレントはふと時計を確認し、目を大きく見開いた。
「あっ、まずい! もう出なきゃじゃん!」
いつの間にか時間が過ぎていた事に気づき、急いでキッチンから今日の分のお昼を取り出してから玄関の扉を開ける。
いつもなら何も無いはずの扉先に今日はとびきり素敵な出会いが待っていた。
そこにはボロボロになった大量の子どもが身を寄せ合って寝ている光景があった。全員六歳か七歳くらいの大きさである。
「・・・・・・なにコレ」
これがやがて大人になる八人の子どもたちとの初めての出会いだった。
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