第4話

 月が輝き、無数の星が煌めく美しい夜空。この空を前世では上京したきり見たことがなかった。

 舞踏会場を出たパレントは思った。


 ―――あぁ、やっぱりここは・・・・・・。


 ゲームの世界なのだと。

 商店がきれいに並んだ市街他は明るい街灯で照らされ、大勢の民で賑わっている。


 ここもゲームを下調べしているときに一瞬だけ見たことがある。

 この煌めく市街地を背景に王太子がヒロインに愛の告白をする。当然、悪役令嬢への断罪が無事終了したあとの山場のイベントとして。

 今自分が見ている景色はグラフィックが綺麗という理由では片付けられないくらいにリアルだ。


「・・・・・・本当にゲームの中に転生しちゃったのかぁ」


 無事断罪イベントを終え、前世の記憶も、今世の記憶もすべて思い出した。私は国外追放で本来のゲームのクリア後設定とはかけ離れた生活を送るだろう。

 私はヒロインが王太子とくっついたその後の悪役令嬢の結末はほとんど知らない。

 でも一番最悪なことだけは調べている内に勝手に目に入ってしまった。


 [悪役令嬢パレント・アシュリーラは追放後、辺境の地で若くして静かに息絶える]


 いや辺境の地でなにがあったんだ。というか私にこれから何が起こるんだ?


 パレントは病弱ではないし、辺境の地とはいえこれから住む場所も外的危険はない土地のはずなのだ。

 「若くして」が尋常じゃないくらい不吉すぎる。

 

 そんな感じで色々突っ込みたい点は大量にあるが、今はいち早く実家に帰りたい。ゲームの世界でも私にとっては大切な第二の生みの親が待っているのだから。


 私は侯爵邸に戻って真っ先に両親に謝った。私の家はそれなりに高位だが、貴族社会で王太子にフラレたなどという評判が広まれば、その家は一生その汚名と付き合って行かなければならない。

 国外追放にもなり、責任を取って家とは縁を切ることも話した。


 ゲーム設定としては両親はパレントのことを軽蔑していた。だがそれもあくまでパレントの性格が破綻していた場合のみ。

 私は転生してからなんとか断罪イベントを逃れようと大人しく、慎ましく生きてきた。そのおかげで両親からは絶対の信頼を寄せられていたのだ。

 結果的に私が辺境の地で暮らすとなることを酷く心配してくれた。でもその判定を覆すことはできない、王命に逆らうのは汚名を着るよりも大事だからだ。


 そうして私は悪役令嬢として無事追放され一人で辺境の地に送られた。

 私の短い悪役令嬢人生に幕が下り、ただのパレントとしての「短い」人生が始まった。



 








 



 

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