第3話

「 すまないが君との婚約は破棄させてもらう」


 誰もが羨む王太子からの拒絶を表す言葉。


 その言葉に私は何も感じなかった。

 悲しい、悔しい、嫌だのと心のなかで悪役令嬢パレント・アシュリーラの感情が浮かぶのかとも考えたが、見当違いだったみたいだ。

 パレントはにっこりとあくまでも友好的に返した。


「えぇ。分かりました・・・・・・」


 ヒロインのユリ・レンドシスを抱く王太子は断罪イベントがややあっさり過ぎたせいか食い気味でお決まりの台詞を言った。


「な、ならば、今まで君がしてきたユリに対する不当な扱いは認めるのだな?」

「いえ」

「なっ・・・・・・なんだと!?」


 「なんだと!?」じゃないんだよねぇ。

 声には出さず内心で呟いた。

 私は生まれてこの方イジメというイジメをやった覚えがない。

 それはもちろんパレントに転生してからも変わらない。何が原因かと言うと、ゲームのシステムが全て悪いのだ。

 彼らには私がヒロインをイジメているように見せている。


 と、そう彼らに説明しても無意味なのは目に見えているので不可侵の話題としておくが。

 パレントはできるだけ性悪に見せるように続けた。


「だって、覚えがないんですもの」


 ―――これは本当の事。


 だが、ここで敢えて私の評価を落とすように振る舞うことで即刻国外追放の道に外れてくれるはずだ。

 パレントの思惑通り王太子は正義感あふれる顔で宣告した。


「パレント・アシュリーラ。やはり君の爵位は剥奪し国外追放とする!」


 こうすることである流れになる・・・・・・。


「せいぜいユリに対する不当な扱いを反省し、辺境の地で一人その腐った心を清めてくるがいい!」


 その言葉を待ってた!


 悪役令嬢のラストストーリーが死刑から国外追放に切り替わり確定するという流れだ。というかそう確定させた。


 いくら一回死んでるとはいえ、もう一度死刑なんか宣告されたら冗談抜きで発狂してしまう。なのでこれが今の最善である。

 とはいえ、最後まで悪役令嬢の演技は貫き通す。


「・・・・・・わかりました。ユリ様今までの不敬、本当に申し訳ございませんでした。これからは大人しく辺境の地で暮らしていきたいと思います」

「そんな! パレント様は何もしていないわ!」


 さすがは自分でドジを踏みまくっていたご本人様。実際すべて彼女のドジなのだ。私はそこにワープさせられて居合わせただけなのも分かっているだろう。

 現場を目撃していない王太子が勝手に決めつけているせいでヒロインは言い出せないままだ。


 そこも可愛いんだけどね。不可侵と割り切っていたのについ優しくしてしまった時もあった。


 ―――って違うんだよ!


 断罪イベントも済んだところで早く退散しなければ。一旦落ち着いて。


「皆様ご迷惑をお掛けしました。では、ごきげんよう」


 履きなれなれない高めのヒールを引きずってパレントは早々に断罪イベント会場を離れた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る