第2話

 私は一度死んでしまった。なんて無様で滑稽な死に方なんだと笑ってやりたい。

 やりたいと思ったゲームをやる。それだけのために必死に我慢して我慢して、我慢した先に死が待っていたのだ。


 時すでに遅し、誰が最初に私の遺体を発見してくれるのやら。

 自分の無様な死因を考えるとまた滑稽で、後悔を含んだ笑いが飛び出しそうになる。


 ―――こんなことなら徹夜なんてするんじゃなかった。


 どこからかそんな声が聞こえた。

 「私」はむず痒い違和感を覚える。


 誰の声・・・・・・? いや、正真正銘私の声だ。

 あれ・・・・・・?


 軽い違和感は混乱した私の頭に一挙に押し寄せてくる。

 「私」は一瞬、他人の声を自分のものだと錯覚していた。彼女は「私」ではない、赤の他人だ。


 ―――なら私は・・・・・・いや、今の「私」は一体誰・・・・・・?


「―――パレント・アシュリーラ。今日この瞬間を以て君との婚約を破棄する!」


 深い迷走の穴に入りかけたところで激烈な声が入った。


 ん? パレント・アシュリーラって誰のこと?


 私は死んでから一生開けることはないと思っていた目を開けた。ていうかなんで目を開けられるのかもわからない、私は死んだはずなのだから。


 パッと世界が広がる。「私」が私ならそこはなんの面白みもない、いたって普通のアパートの一室だっただろう。だが目を開けた時、入ってきた景色はそれとは正反対のものだった。


 「前世」で借りていた部屋より何百倍も広く、天井が高い舞踏会場に息が詰まるくらいの「私」と王太子、ヒロインを取り囲む貴族たちがいた。

 眩しいくらいの光とともに目の前に並んだ景色は私の理解が追いつくまで猶予を与えてくれない。


 いくつか思い出したことがある。まず私は前世であるゲームをプレイしようとして死んだ、そしてその後そのゲームの中の悪役令嬢に転生した。

 「私」は悪役令嬢パレント・アシュリーラだ。


 もう一つは、今私は断罪イベントの真っ最中ということ。

 学園の卒業イベント・・・・・・その最終イベントまでに王太子とヒロインは中を深め合い、やがて恋仲になっていく。


 私は転生してから、ゲームを買う前に下調べをしておいた情報を元になんとか断罪イベントを拒否ろうと頑張ってきた。

 具体的にはヒロインと関わるのは避けて、いじめに当たるようなことはしなかった。なんなら王太子と会うのも極力避けた。


 しかし、ゲームの強制力には逆らえず結局この有り様である。


 そしてここから本当に意味不明な現象が起きまくった。


 ヒロインが学園内で怪我やいじめにあった瞬間、なぜか関係ない私がその現場にワープさせられ、いかにも私がやったみたいにさせられたのだ。

 ―――絶対システム自我持ってるだろ。


 まぁそんなことはさておき、すべて思い出してしまった以上この状況から脱する方法を考えなければ。


 そう考えながらパレントは口を開いた。

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