SS 天使の日【天使と悪魔とは】

「なぁ、リア」

「……ん?」

「そう言えばこの世界で天使とか悪魔って居ないけど、存在してるのか?」

「存在はしてる……でも常世には居ない」

「となると黄泉に居るのか」


 リアを膝の上に乗せ、抱きしめ頭を撫でていながらふと思った事を聞いてみた。

 この世界、大罪とか美徳とかのスキルがあるのに悪魔や天使を見かけないのを結構不思議に思ってたのだ。


「……一応、常世でも会う手段はある」

「へぇ、悪魔召喚とか?」

「ん。でも召喚すれば大体国が滅ぶ」

「なら強さで言うと上位進化種並みか」

「……個体によっては最上位進化種にも届くかも」

「……気になるな」

「んー……呼び出してみる?」

「そうだな、気になるし呼び出してみるか」


 て事でリアがパパッとスキルを使って空中に魔法陣が浮かび上がる。

 一応根源種だからなんとなく内容は理解出来るんだけど……俺にはまだ魔法陣を扱える気がしない。魔法陣を作るのちょっと苦手なんだよなぁ。


「ん、出来た」

「なら召喚してみるか。……今回は悪魔か?」

「そう。来る悪魔はランダム……血の気が多い奴も出てくる」

「まぁ、そのくらいならなんとかなるだろ。開始してくれるか?」

「ん、了解」


 リアが手をかざすと、魔法陣が輝き始め……そして魔法陣の上に人形のシルエットが浮かび上がった。


「へぇ、これが悪m——」


 唐突に人型のシルエットからボワっとここら一帯全てを包み込もうとする霧が放出された。

 ……なんだこいつ。


 霧を全て抑え込み、悪魔に向かって崩壊の力をぶつけて壁に抑えつける。


「なっ⁉︎ 放せ! 私を誰だと……! 怠惰を司るベルフェゴール様だぞ……!」


「……ベル、毎回言ってる。喧嘩を売るなら相手を確認して」

「怠惰……ねぇ」


 リアが忠告してるのを他所に、俺は怠惰の霧を展開する。

 根源種となった俺の霧はまるでホワイトアウト現象のように前が見えない程の濃霧……多分大罪抵抗がない奴が一息でも吸えば永眠出来るだろう。


「ヒッ! なに、この濃度……! 私知らないわよっ! なんで私より強い怠惰の力を——」


「……パパ、誰コイツ」

「ん? あぁ、こいつは怠惰を司る悪魔……らしいぞ、シア。ベルフェゴールだっけか?」

「……へぇ、怠惰……ん」


 シアもこれまた濃密な怠惰の霧を身体から出した。アイデンティティの危機だとでも思ったのだろうか? 大丈夫だぞシア。少なくともこのベルフェゴールとか言う悪魔の霧は滅茶苦茶薄かったし。


「……ゼノ、シア、もうやめてあげて。ベルが気絶してる」

「ん? あっ、ほんとだ。気絶してやがる」

「……分かった」


 俺とシアの霧が晴れると、床で顔面蒼白になりながら気絶している女性が目に入った。

 髪色は怠惰の霧と同色の水色。服装は胸元がガッツリ開かれたドレスであり、欲情的な姿をしている……と思う。


 あとついでにクマ耳が生えてる。獣人かな?


 でも気絶しちゃったかぁ……起きるのに時間掛かりそうか?


「……命令【起きて、ベルフェゴール】」

「——っ! はい! ただいま起きましたっ! いかがなさいましたかシオン様っ!」

「……今の私はエルシオン。間違えないで」

「ヒッ……! すみません……」


「これが悪魔……なのか? リア」

「ん。怠惰の悪魔、ベルフェゴール……ベルって呼んでる」

「へぇ〜。怠惰の悪魔かぁ……よろしくな、ベルフェゴール」

「……あの、エルシオン様。こちらの方はどなたでしょうか?」

「私の番」


「えぇっ⁉︎ エルシオン様にツガイ⁉︎ あの永劫ボッチなエルシオン様に——」

『————!!!』


 音も無く家の壁と共にベルフェゴールが吹き飛んだ。

 そしてすぐ修復される家の壁……ベルフェゴールは居なくなったらしい。


 ちょっと視線を下に下げると、リアが先程までベルフェゴールが居た場所に向かって手をかざしていた。


「……リア?」

「ん、大丈夫。悪魔は常世で死んでも黄泉で生き返る。本当に殺すなら黄泉で殺してる」

「あっ、そう……」


 さも平然としているリアを見て特に何か言うことが出来なかった。

 ……だって、なんか言ったら俺にもあの無音攻撃飛んできそうだもん。


 そっとリアを抱き締める力を強めて、愛を込めて撫でておく。

 よしよーし、1人じゃないよ〜……


「ん、心配しなくて良い。悪魔が生意気なのは今に始まった事じゃない」


 そう言ってリアはまた魔法陣を生み出した。

 これは……天使かな?


「ん、天使は割と真面目。ただ、問題が……」


 リアが魔法陣を発動させる前に魔法陣が輝き出し、これまた人影が現れて、その人影が突撃してきて——!


「会いたかったですシオン様〜っ!」


 ……視界が白一色に染まった。

 上質な布の感触と豊満な胸の感触が顔面を襲いながらも非常に冷静に思う事がある。


 ……天使も悪魔も特殊な登場の仕方をしないとダメなのか?


「ん? あれ……? えっ! 男性の方⁉︎ わーっ! すみませんっ! ついシオン様かと思いまして抱きついてしまいました」

「あぁ、うん……」

「ガブリエル……今の私はエルシオン。他の天使にも伝えといて」

「あっ!シオ——んんっ、エルシオン様! 了解しましたっ! それよりも……そちらの男性と女性の方は?」

「ん、私のツガイと娘」


 どうやらこの天使はガブリエルと言うらしい。

 輝いて見える金色の髪に、非常に上質そうな真っ白な布で出来た服。

 頭の上に浮かぶ天使の輪っかと、真っ白な翼を持っていて正に天使って感じの見た目をしている。

 目だけで言うなら包容力溢れるおっとり系天使のお姉さんである。


「ほぅほぅ、エルシオン様の夫ですか……むむむ———なんとっ! 断罪と贖罪の根源種ですか! これはこれは……私は口を挟むことは出来ませんね。

 多分今後会う事もあるでしょう……これからよろしくお願いしますね! ゼノ様!


 それでこちらが娘さんのシ、ア……様…………きゃ〜っ! エルシオン様に似て非常に可愛いですっ! エルシオン様っ! シア様を貰ってもよろしいでしょうか?」

「……シアが良いって言うなら」


「どうでしょうかシア様! 私と一緒に黄泉の世界に行きませんか? 最上級のおもてなしをしますよ!」

「い……や……助けて、パパ……」


 普段は眠たげな表情で固定されているシアが珍しく表情を変えている。

 うん、分かるぞ……嫌とは言えない雰囲気持ってるもん、ガブリエルさん。


 あっ、シアが霧になって逃げた。

 ガブリエルさんが「あぁ、シア様ぁ〜……」って言いながら霧に向かって手を伸ばしている。めっちゃ残念そう。


「んんっ、それで……えっと、エルシオン様。どの様な御用件で天使を呼ばれたのです?」

「ん、ゼノの紹介。あとゼノが天使と悪魔について気になってたから」

「なるほど! となるともう悪魔は呼んだのですか?」

「ん、ベルが来た」

「あぁ、あの生意気女ですか……此処に居ないのを見るにまた生意気言ったんですか、アイツは」


 リアとガブリエルさんが雑談し始めた。にしてもほんとにガブリエルさんは天使って見た目をしている。

 王道も王道の天使だ、ちょっと神聖さすら感じる。


 ……そういや天使が仕える神って神格者なのか?


『ん、天使も悪魔も一応私と世界の理に仕えてる。立場的には神格者と一緒。

 神格者が常世を維持してる様に、天使と悪魔は黄泉を維持してる』


 そうリアからテレパシーが送られてきた。

 成程ねぇ、つまり天使と悪魔と神格者は同僚なのか。知らなかった。


『ん、ゼノは根源種。立場で言うなら上司』


 だ、そうだ。

 今度黄泉の世界に案内してもらうのも面白そうだな。


「さてと、私も一応仕事がありますのでここいらで……エルシオン様、ゼノ様。今後とも御幸せに」


 そう言ってガブリエルさんは光り輝いて消えていった。


「んー……他の天使か悪魔、呼ぶ?」

「いやー……それは別にいいかな」

「そう? 分かった」


 リアを抱きしめ直し、頭を撫でる。

 やはり幼い姿のリアだとこうやって愛せるから良いねぇ。


「〜♪」


 うん、やっぱ天使とか悪魔よりもリアの方が圧倒的に可愛いなぁ。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 はいこんばんわぁ、冰鴉です。


 いやぁ、私自身あんまり天使や悪魔に詳しくなくてですね。

 特に天使についてはググっても曖昧でしたので解像度がかなり低いです。


 そう言えばこのSSを書いてて気付いたんですけど、淵根夫妻とその娘であるシア……この龍達、元は怠惰の龍なんですよねぇ。


 まぁ、リアはあくまで没設定なんですけどね。元々は怠惰の権能を持った太古から生きる霊神龍として出すつもりでした。


 ゼノもリアもシアも怠惰の龍……やはり作者自身が怠惰ですからこうなったんですかね……?


 まぁ、そんな事も思いながらも締めに入らせていただきましょう。


 どうでしたか? 天使と悪魔のSSは。

 大罪と美徳を出しておきながら天使と悪魔が居ないのはおかしいなと思って書いた訳ですが気に入ってくれると幸いです。


 それと是非是非、最近更新している姫竜——【転生先はどうやら姫様のペット(召喚獣)の竜らしい】の方も見てくれると有難いです!


 育りゅう最終盤に出てきたレリアとリファルが主人公のお話ですので是非読んでくださいね〜


 それではまた次のSSでお会い致しましょうっ!


 ばいの〜

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