第157話 最後の冒険

「…レティ。存分に、満足するまで暴れてくれ。タンクは俺がする」

「ふふっ、安心感が凄いタンクですね!」


 俺はサイクロプスの目の前に堂々と歩いて行き、わざとサイクロプスに視認される。

 ちなみに怠惰の権能で気配を薄くしてる。これをしないと神格者のオーラに当てられて最上位進化種でも逃げていくからな。


 サイクロプスは手に持ったそこら辺の木の幹よりも太い棍棒を振り上げ、俺に叩きつけてくる。

 それを受け止め、がっしりと指を食い込ませて棍棒を持ち上げられないようにする。


 棍棒を持ち上げられず、アタフタとしているサイクロプス目掛けて周囲の木々が伸びて絡みつき、サイクロプスの動きを阻害すると、そこに無数の水の槍が飛んでいく。

 …レティの魔法だ。


 だが、サイクロプスとてSランク魔物。その程度で沈む訳がなく、植物の拘束から力任せで脱出し、レティの方向に向かって走っていく。

 …棍棒を持ち上げるのは諦めたか。


 棍棒をそこら辺にポイ捨てして、俺の横を通り過ぎようとしたサイクロプスの足指をつかむ。

 強烈な力で足が抑えられた事により、サイクロプスは派手に転んで、顔面から地面に激突した。


 そんなサイクロプスにレティは容赦せず、龍を模した様な水属性魔法をサイクロプスの頭に当てて、そのまま水属性魔法を凍らせる。

 …レティの冒険者としての二つ名は水竜の巫女。

 その名に恥じない威力ではあると思うが…サイクロプスを倒すには一手足りない感じだ。


 森の方からレティが少し肩で息をしながら、こちらに歩いてきた。若い頃はなんともないが…老いが来ると魔法を使うのにも体力が減るのだ。


「はぁ…はぁ……ふぅ。駄目ですね…やっぱり相当衰えてます。今の私じゃトドメをさせそうにないです」

「…そりゃ残念だな。レティ、自分の手でトドメを刺したいか?」

「そりゃあ、人生最後の依頼ですからね…私の手で終わらせたいですよ」

「…なら任せろ」


 レティの背中に触れ、レティに微量の魔力を流すのと攻防変換を施す。これで魔力は回復し、火力も上がるはずだ。


「…っ!あの、ゼノさん?一体何をしたんですか」

「なに、ちょっとステータスを弄っただけだよ。これで確実にサイクロプスは倒せるはず」

「いや…明らかに私の全盛期よりも凄い火力が出せそうなんですが」


 そんな事を言いながらも、しっかりと魔法を展開している。やっぱり自分の手で終わらせたい気持ちがあるらしい。


「…行きます」


 そしてレティの足元から水が現れ、その水が渦巻きながら竜を形取っていき、生まれた水竜がサイクエプスの心臓を貫いていく。

 …うん、良い火力だ。


「………はぁっ!…はぁ………すみません、ゼノさん。肩を貸してくれますか」


 …老体には魔法の連続行使は厳しいらしい。かなり息も絶え絶えになっている。

 サイクロプスは絶命してる…だが、依頼はまだ終わっていない。


「ほら、依頼完了の報告をするまでが依頼だ。もう少し耐えてくれ」

「えぇ…ふぅ。わかってます。ただ…動くのがキツイかもです」

「…おぶって行くぞ」


 レティの返事を待たずにレティをおんぶして、サイクロプスをスキルで収納して歩き出す。

 …レティは、満足しただろうか。


「…ゼノさん、付き合ってくれてありがとうございます。老いのせいで私1人じゃ依頼に行けそうもなくて…最後に冒険が出来て嬉しかったです」


(…まるでここで死に絶えるみたいに言わないで欲しいな)


『世界の理に申請、【因果変革】の使用許可を。

 使用用途はエルフ族、「レティシア」の寿命を数刻程度伸ばす事』


「私…子供の頃から冒険者に憧れてたんですよ。世界を飛び回って、色んな文化に触れて…時には強敵に立ち向かって…」


【…確認しました。淵源種の同意の元、スキル:因果変革の使用許可がでました】


「色んな人との出会いがありましたけど、やっぱり1番強烈だったのはゼノさんでしたよ…」


『因果変革…使用』


「ほんと…最後に冒険が出来て良かったぁ。これでこそ私って感じです」


「…なら、冒険者として依頼を最後まで成し遂げようか」


「……えぇ、そうですねっ!」


 ゆっくりと…レティの身体を出来るだけ刺激しないようにしながらセレスの街に向かって歩いてくる。

 段々とレティの息が落ち着いていくのを感じながら。

 …段々とレティの息が浅くなっていくのを感じながら。


 そして、セレスの街に着き、冒険者ギルドの中へと入る。


「依頼…達成っ、しました……」

「これ、討伐証明部位です」

「はい、サイクロプスの討伐ですね…流石は水竜の巫女ですね。

 ところで…巫女様の様子がおかしいですが、何処か怪我でも…?」

「いや、どうやら眠たいらしくてな…もう宿屋に帰るつもりだ」

「そうでしたか…では、こちらが討伐報酬です。依頼達成です、お疲れ様でした!」

「ありがとう…それじゃあレティ。行こうか」

「……は、ぃ…」


 セレスの街を出て、少し離れた所の草原にレティを寝かせる。

 …まるで最初に会った時と立場が逆転してる様だ。


「………ゼノ、さん…これか…らの、人生…も……楽し、んで……くださ、いね…」

「……あぁ」

「………楽しい…人生だったなぁ…」


 ゆっくりと眼を瞑るレティ。そして暫くして、レティの身体から魂が出てくる…

 その魂に触れて、未練値を………抜く必要はないらしい。


「……未練無く逝けた様で何よりだよ」


 呪いまじないはリアの力であって、俺自身は使えないため吉星による幸運の祝福をかけて魂を手放す。そしてその場でしゃがみ、手を合わせて黙祷をする。


 さてと、レティの墓も作らないとな。


 翼だけを生やして、レティの遺体を抱えながらエルフの国へと飛んでいく。



 ………楽しかったな、レティとの冒険は。

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