第154話 寿命
そしてそれから数十年間、俺たちは銀猫亭のソルとシィとスゥと過ごした。
リアに付き合って貰うのは申し訳ないとは思うが…突き放しても付いてくるのがリアだ。と言うか今の俺のステータスだとリアの身体から出してくれないのだ。
さて、俺が約束した…いや、請け負ったのは知り合いの人種族達の弔いだ。
元々は大罪教の教皇であるセナさんが「私が死ぬ時、この魂を貴方に捧げたいのですが」と言う発言によるものだ。
まぁ、つまりはセナさんの魂を食って欲しいという事だ。リアが言うには聖女の魂が消滅しても別に問題ないと言う事だが、正直知人を食うと言うのは心理的に厳しいから弔うと言う事で手を打った。
そしてそれをソルのおっちゃんに弔いの提案をしたら驚かれながらも承諾してくれた。
ソルのおっちゃんが言うには「神様に弔われるだなんて俺はとんでもねぇ幸運者だなぁ」だとか。
そんなこともあって、今はとある小国…ソルの実家がある獣人の国にてベットで横になっているソルと対面している。そのベットの側には美人に成長したシィとスゥが居る。
ソルの老化によって銀猫亭を畳んでからは、この二人は冒険者になって大活躍してるらしい。ランクはA寄りのB、二人きりでパーティを組んで活動してるにしては非常に優秀な子達だ。冒険者の師匠はリアである。
リアの身体を俺に作り変えてもらい、身体の制御権を譲ってもらう。ステータス上はリアではあるが、見た目も動かしてる魂も完全に俺である。
「…なぁ、ゼノよ。死に際に言うのもなんだが…シィを貰ってはくれねぇか?どうも浮いた話が一つもない娘が心配でなぁ」
「難しい事を言ってくるれるなぁ、ソル。わかってるだろ?俺には奥さんがいるってことを」
「獣人の国じゃあ一夫多妻なんて物があるんでな。まぁ、娘を貰ってくれってのは無理な事は分かってる…だが、出来れば気にかけてやって欲しい。
俺が死んだら…シィにはスゥぐらいしか親しい人が居なくなるんでな」
側にいるシィの瞳に涙が溜まっている。ソルの言葉を聞いてソルの寿命が近い事を実感してしまってるのだろう。
(…リア、受けてもいいか?)
『ん、どうせやる事もないからゼノに任せる。私はゼノに付き合うから』
「…わかった。シィとスゥは寿命で一生を終えるように見守っといてやる。安心してくれ」
「そりゃあ良かった…冒険者は危ない事が多いからな。いつも俺より早く死んじまうんじゃってヒヤヒヤしてたもんだ」
「…ほら、もう最期が近いんだ。シィとスゥと沢山話し合っててくれ」
俺と話して最期を迎えるなんてして欲しくない。特段深い関わりをしてきたシィとスゥと悔いなく話し切って欲しい。
(………これが寿命、か)
『…分かりやすい、生命の終点。私達神格者は肉体的には寿命を迎えないけど、その代わりに精神の摩耗が寿命になる。
………何事にも、死は訪れる。ゼノ、死ぬ時は一緒だよ?』
…なんとも重たく受け止めれる言葉な事で。だが、勿論そのつもりだ。リアが死ぬなら俺も一緒に死んでやろう…心中上等、一緒の墓に入ってやる。
『……私が死ぬと、世界が滅びるけど』
…わぁお。世界そのものが俺らの棺桶って事ね?
「…ゼノ、どうやらもう近い様だ。俺の死後も…シィとスゥを頼むよ」
そんな言葉と共に、ソルはゆっくりと目を瞑る。
シィとスゥがソルの両手を握りながら涙を流してる所で…俺は冷静に身体から抜けて出てきた魂を優しく掴み、その魂の未練値を抜き取る。
…弔いをしたのに、アンデッドになられるのは嫌だからな。
そして一部借りたリアの力でソルの魂に
じきに輪廻の輪に戻り…新たな生命に宿り、来世を謳歌するであろう。
ソルよ…来世までの間、安らかに眠る様に………
それからは獣人式の葬儀が行われ、俺が司祭の代わりを担当した。
それらもつつがなく終わり、俺はソルの弔いを終えた。
………これが、寿命か…
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シィとスゥはしばらくの間冒険者活動を休止するらしく、危険な事はそうそう起こらないだろう。
身体の制御権をリアに返し、想いに耽る。
…寿命。どんな生物にも必ず訪れ、生者との決定的な別れとなる事だ。
………俺の寿命は、とんでもなく長い。肉体的な死が無いのだから当然ではある。だからこそ、俺は知り合いの死を何度も見る事になるだろう…そして、その度に悲しみを覚えるわけだ。
「…私達神格者は、誰よりも寿命が長い。それを分かってるからこそ、神格者は親しい存在を出来るだけ作らないようにしてる。
どれだけ長命であっても…必ず死は訪れる。
………寿命の違いは、残酷」
ほんとに、そう思う。シィを貰ってくれないか?と言う問いに俺はリアが居るからと答えたが…他にも寿命が違い過ぎるからと言う理由も存在する。
もし…シィを愛してしまう段階になってしまったら、シィの死を見届けた後にどれほどの年数悲しみ続けるか分からないのだ。
………聖国に、向かおうか。
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