第144話 罪をその魂で償え

【任務内容の変更を通達。排除対象の中に存在する邪龍の魂(仮名称)を消滅させよ。また、他二つの魂の排除と排除対象の身体の破壊は禁止とする】


(無茶を言うなぁ…初仕事にしては考慮する事が多い気がする)


 つまりはこの少女の身体的な死と魂二つを殺す事は駄目であり、三つ目の魂…邪龍の魂のみを破壊せよと言う事だ。

 …それ、極太超高電圧高威力の雷に撃たれた奴に要求するものじゃないと思うがなぁ。


「なんで死なないの。死んでよ………死んでッ!」


 少女は振るった氷の剣が首に当たり、俺は吹き飛んで行く。あぁ、別にダメージはない…ただ動けないだけだ。


 そう、今の俺は攻撃力が0である。一切その場から動けないサンドバック状態だ。結界みたいな物で両手両足と首を固定され、何度も何度も氷の剣を叩きつけられてるけど無傷だ。


(うーん…どうしようかな。さっきみたいに抑えつけようにもまた雷落とされるだけだろうし。そうなったら今と同じ状況になるだけだろうし)


 あの雷は雷属性の魔法だ…だからこそ霊体化しようともモロにダメージをくらうから防御力自体を底上げしてダメージ軽減をして、後は体魔変換で無限の魔力を体力に変換して耐えてたわけだ。正直言ってあの雷が対処がめんどくさすぎるのだ。


 …本当にどうしよう?


「死ね…死ネっ!」


 …この子ずっと死ねって言いながら氷の剣を叩きつけてくるんだけど。よくもまぁずっと剣を叩き続けることが出来るの物だ…いつかは倒せると思っているのだろうか?


 そんな少女の胸元…魂達がいる場所をじっと視る。相変わらず少女の味方をしている魂と邪龍の魂は拮抗状態である。せめて味方の方の魂が優勢であれば戦闘意欲も少なくなってステータスも下がるだろうに。


「まっ、これも経験か」


 罪域化を発動させ、大罪の権能を最大限扱える様にしてから傲慢による瞬間移動で拘束から脱する。

 そして俺は即席でとある集中錬成武器を作る。


 …よく死神とかが持つであろう、おどろおどろしく真っ黒な大鎌。形が出来上がった大鎌に傲慢の権能と強欲の権能、暴食の権能を付与して更に霊力行使と魂制御のスキルの付与する。そして最後に霊体化を付与し…大鎌自体が半透明の霊体武器と化する。


 そして出来上がった大鎌は正に魂を刈り取る鎌だ。

 本来は魂を刈り取り、刈り取った魂を捕食する為の武器ではあるがそれは魂制御で捕食せずに済む。


 そんな武器を構えて少女を見据えると、瞬間移動した俺を見つけた少女が再度魔法の嵐をぶつけてくる。

 それらの魔法を避けながら俺は接近する。気分は弾幕ゲームだ。


 そして接近した所で俺は大鎌での魂を刈り取る。

 ………これで良し。即座に少女の身体を崩壊の力で遠くへと吹き飛ばし、俺の内側へと意識を向ける。


(そう警戒するな。別にお前らに敵対するつもりはないんだよ)

『………お前がレリアに敵対しない理由がどこにある。第一レリアの身体に攻撃しただろうが』

(そりゃ仕事ってもんだ。それにお前も分かるだろ?さっきまでお前が抵抗してた奴が良くない奴だって。俺はそいつを消滅させるのが仕事なんだよ)

『…つまり、レリアの身体を殺すのか?』

(それは禁止されてんだよ。俺がやらないといけない事はお前ら二人の魂と少女の身体の保護。そしてあの邪龍の魂の消滅だ)

『………そうか』

(お前はその少女の思考汚染でも取り除いとけ)

『どうすれば良いか分からないんだが?』

(なら何もしないでおけ…あとでなんとかする)


 さてと…若干のステータスアップを感じながらもとりあえず魂自体の保護は出来た。もうこの鎌は要らないな。


 この方法で良い事は、まず魂を保護できる事。これで任務の魂の排除の禁止を守れるわけだ。

 次に敵が弱体化すること。この二人の魂も合わせてのステータスが先ほどの少女の力だった為、その魂をこちらが持てばその分のステータスはこちらに移る。


 そして最後に…少女の身体が死なない程度なら遠慮が必要ないと言う事だ。


「凶星っ!」


 ゆらゆらと起き上がる少女…いや、邪龍に凶星を降らせる。そして直撃…と同時に地面が陥没する。クレーターの出来上がりだ。


 …だが中央の少女の身体はボロボロになりながらも立っている。そりゃそうだ、だってさっきまでの少女のステータスの大部分は邪龍が持ってた物なのだから。


「アハッ!アハハハハハハッ!バカだねぇ神さんヨォ…わざわざこの身体を渡してくれちゃってサァ。この身体はよく馴染む…前の私の身体よりも馴染む。今なら神殺しさえ出来そうなほどにナァっ!」


 随分と威勢よく突っ込んでくる邪龍の頭を掴み、地面へと叩きつける。魂を取り込んで分かったことなのだが、あの結界の様な物と雷の力は少女の物だ。

 …つまりは今のコイツは純粋なステータスしか誇れるものが無い。


 そして、たかが最上位種より少し上程度の存在が神格者のステータスに勝てるわけが無い。

 たとえ身体が馴染んだとしても。


 めり込んだ邪龍をそのまま抑え込み、霊化断罪炎で少女に身体を燃やす。少女の身体を燃やすとは言ったがそれは身体が燃えるわけでは無い…霊化してるから魂が燃えるのだ。


「ガアアァァァァアアアっ!熱い!アヅイィ!」


 身体に火傷後が一切付いてないにも関わらず、邪龍は焼ける痛みに悶えている。自慢のステータスも霊化の前では型無しだ…何せ霊化は防御力無視なのだから。


「フザ…ケルナァッ!クソ神ガァ!」


 そう言葉を吐いてこちらへ【傲慢の権能】と【嫉妬の権能】と【憤怒の権能】を合わせた技を繰り出す邪龍。

 そうか…お前は大罪に犯された龍なんだな。


 ………その技を、掌で受け止める。


 技を受け止めた俺をみて邪龍は邪悪な顔をする。おそらく大罪の効果が反映されると思っているのだろう。………だが俺は【断罪ノ処刑龍】だ。


 少しでも意趣返しと行こうか。少女の力を借りて少女の身体を結界で包んで動けなくする。その身で体験してわかったが、この結界は恐らく俺が防御力の大半を犠牲にして攻撃力特化にしないと破壊できない結界だ。そんな結界が勿論邪龍に破れるはずもなく。


「クッソ…うごかネェっ!何をしたクソ神っ!」

「さぁ?今から消滅するお前に言っても無駄だろ」

「ウルセェ!殺してやる…神なんか殺シテやるっ!」


「…それが遺言か」


 霊化贖罪氷を掌に生成し、圧縮していく。此奴は名前の通り、邪落化種族であり…尚且つとんでもなく罪の蓄積がある。

 そんな奴の魂に直接防御力無視の霊化攻撃…しかも贖罪の攻撃を喰らえば消滅は確実だろう。


「………無垢な少女の身体に憑依して操ろうとした罪、その魂で償え」


 邪龍の魂に向けて霊化贖罪氷を打ち込む。少女の身体をすり抜けて邪龍の魂に直撃し…その魂が脆く崩れ去った。


 …そして魂が抜けて仮死状態となった少女の身体が此方へと倒れてくるのだった。

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