第132話 再度銀猫亭

 デートをした次の日、朝はリアが作ってくれた味噌汁を飲み、心も身体も温めたところで一人で王都へときていた。


 リアには「神格者になる前に会ってあげて」と言われた。リアも分かってたのだろう…俺が神格者になれば、シィやソルがリアの時と同じ様な反応を取ってしまってまともに話せなくなる事を。


 それと、リアが会ってない神格者の居るところにいつでも行ける様にと霊印を細工してくれた。俺が会ってない神格者はあと一体だけの様で、その神格者は引きこもりだから俺自身が行かないと会えないらしい。

 多分四神教で崇められてる一柱の海淵辰だと思うけど。


 て事で今居るのは銀猫亭の目の前。正直昨日の畏れられたのを見ているともうまともに会話できないのでは?と不安になるが、多分大丈夫だと思いたい。

 グダグダとしてても何にもならないのでさっさと中に入ったわけだが、店の中にはソルのおっちゃんだけだった。


「おぅ、いらっしゃい——ってゼノ、おまえさんか…今日は奥さん居ない感じか?」

「まぁ、流石にあんな感じになられちゃまともに話せないしな…今日はリアは留守番だな」


「あー…あれはすまんかった。客に対してあんな反応をしたくは無いんだが…身体が勝手の震えちまった。奥さんにはすまなかったと伝えておいてくれ」


 ソルは相当申し訳なく思っているらしい。迷惑客でもないのにまともな接客を出来なかった事を相当悔やんでる様にも見える。


「それで…シィやスゥは今日は非番なのか?」

「ん?あぁ、あの二人はウチによく泊まってくれるお客さんと買い物中だぞ。昼頃に帰ってくるんじゃねぇかな?」

「そっか…ならソルには伝えておくか」


 そうして俺が神格者…とは言えないからリアと同じ様な超常の存在になるかもしれない事を伝えておく。そしてそんな存在になってしまったら今みたいに面と向かって話せる状態になれないかもと言う事も伝えておく。


「そうか…そりゃ寂しくなるなぁ。お前さんの奥さんをみた時はな…接してはいけない、干渉してはいけない、逆らってはいけないと言うのが本能で告げるような感じだったんだ。今はシィも気を持ち直してるが…昨日はずっと震えてたんだ。もしお前さんもお前さんの奥さんみたいなオーラを出す様になれば流石にまともには会話出来ないな…オレも、シィも」

「…スゥは大丈夫なのか?」

「あぁ、この気配を読み取る体質は俺の一族が受け継いでる様なもんでな…血の繋がりが無いスゥは読み取れんだろうよ」


「にしても…改めて見るとお前さんとんでもない存在になってるな。お前さんの奥さんほどじゃないが…今までに見た事もないレベルの強者のオーラを放ってるぞ」


 ソルにとっては俺も充分に超常の存在に見えているらしい。たった数ヶ月で最上位進化種になった俺の事を…ソルはどう思ってるんだろうか。


 まぁ、そんな野暮な事は置いといてソルと雑談をする。王国でゆっくりしてた頃はこの時間も好きだった物だ…親しみやすいソルとゆっくり話せるのは中々に楽しい時間だもの。


「そういや、最近の人種差別はどうだ?見た感じはそこまで酷くはなさそうだが」

「おぅ、それがな?急の創神教の奴らが過激な行動を取る差別主義者を取り締まり出したんだよ。何を考えてるか分からんが…少なくとも俺たち獣人が生きやすくなった事には変わりねぇな」

「そりゃ良かった…」

「ん…?良かった?」

「あぁいや、気にしないでくれ」


 そっか…創神教に蔓延る大罪を処分しておいたのは無駄ではなかったのか。

 まぁ、次に腐っても俺は手を出す事は無いと思うが。差別が蔓延っても…それもまた人間が進む道なのだし。


 それと、聖女ことセナさんの頼みをふと思い出したのでソルにも提案しとく。1人を請け負うくらいなら何人請け負っても変わらんしな。


 ソルはその提案を是非ともと言う言葉と共に受けてくれた。本来なら聖銀龍様にお願いしたいんだが…とは言ったが…その聖銀龍の息子って事で許して欲しい。


 そんな感じで時間を潰し、お昼頃になったらシィとスゥが帰ってきた。

 …レティ達を連れて。


「あれ?ゼノさんじゃないですかっ!お久しぶりです」

「ん?久しぶり、レティ」


 ここで会えるとは思わなかったな…あとルミナさんや、んな警戒しなくても何もしないって。

 でも警戒する気持ちもわかる…だってここ王国の王都だし、俺が暴れれば国は終わるだろうしな。


「はいはいルミナ、警戒する気持ちも分かるけどやめときなって。どうせ私達程度じゃ止める事なんて出来ないんだから」

「………そうね、ごめんなさい」


 別に謝罪してくれなくても良いのに…どうせ暴れる気なんて無いしな。無闇に国を壊したいと思う様な暴君じゃないんだし。

 まぁ、国総出でリアを狙う様ならば崩壊させるが。


 近づいてきたシィの頭を撫でながら会話に華を咲かせる。

 ん?渡された集中錬成武器が強力すぎて返したい…?いや、そうは言われてもな…


「いや、この武器って確実に国宝級よ…それどころか国宝でも生優しいわね…正直持ってるのが怖いわ」

「そうね…私の炎で生み出した剣よりも圧倒的に性能が良いもの。この武器があったら魔法を捨てて剣士で生きれるわよ」

「そうは言われてもなぁ…」


 渡した集中錬成武器は、今や所有権が完全に渡っているかつ固定されてる感じだ。もはや俺は扱えないし返されても困る…使える人が使った方がありがたいのだ。


 ちょっと女性比率が多い空間だとは思うが…それでもこれくらいの人数で会話出来るにはやはり楽しい物だ。

 だけどもやっぱり悲しくなってくる…神格者になれば、恐らくこの輪にも入りづらくなるだろう。



 いや、ならなくても寿命で結局は………はぁ。


 ある程度雑談して、ソルが出した昼飯を食べてから王国と帝国の間にある山岳に訪れる。


 此処が俺が初めてしっかりとした自分の巣を作った場所だったな。



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