第99話一方その頃【神話の龍】
銀色に輝いて見えるほどの白い鱗と外殻を持ち、圧倒的な存在感を誇り、全ての生物の頂点…いや生物という枠を超えていると本能で分からされる…そんな生物が、今目の前にいる。
銀色に輝いて見えるほどに黒い鱗と外殻を持つ罪銀龍とはまるで対を成すような見た目…だけれど、その存在の前では罪銀龍ですらちっぽけに見える。
—————聖銀龍。
遥か昔…それこそ神話の頃から存在したと伝えられ、今もなお生き続けている正に生きる神。その圧倒的な存在を前にした私は一切動けなくなっていた。聖職者たちは自然に…そうするのが当たり前かの様に跪いてる。
罪銀龍ですら、神には及ばない…そう強く思わせる。罪銀龍を見た時、敵対してはいけない。死んでしまう…そう思ったが、聖銀龍を見た時は全身がひれ伏せと命令されてるかのように感じる。敵対なんて考えすら消去する様な…
これが、神…生きる伝説。いかに人間がちっぽけな存在かが思い知らされる。世界を支配するとかほざいてた何処ぞの第二皇子に見せたいくらいだ…
聖銀龍の存在に一瞬萎縮した罪銀龍だが、怒りの感情が強くて即座に聖銀龍に攻撃を仕掛ける。
前脚による切り付け…私はあれを耐えるだけでも精一杯。だが聖銀龍はスッと避けると、罪銀龍の首を噛んで離す事なく振り回し、遠くへと放り投げる。
そして地面へと不時着した罪銀龍を抑えつけるかのように聖銀龍は飛びかかるが…
『ダガアァァン』
そんな爆音の様な打撃音によって聖銀龍が若干仰け反る。…すごい、神と言われている聖銀龍に対抗をした。その抵抗の証だろうか、黒い鱗と、青い氷のような破片がこちらにパラパラと飛んできた。
この抵抗には流石に聖銀龍も驚いたらしく、しばらく動きを止めた…その間に罪銀龍は体制を立て直し、聖銀龍を睨み付ける。
これから第二ラウンド…と思った瞬間、急激に周りの温度が低くなっていく。即座に気付いたルミナが降りてきて、蒼炎魔法を展開するが気温の低下は止まらない。
急いで聖職者たちを集めた聖女が結界を貼り、その中で再度蒼炎魔法を展開する事でようやく気温の低下が抑えられた…ルミナの蒼炎ですら温まらないだなんて思わなかった。
抵抗を受けたからか、聖銀龍の雰囲気が変わる…けど、なんとなく親が子を叱るかのような雰囲気を感じる。何故かは分からない。
そして雰囲気が変わると同時に辺り一体の何かが変わった気がした。こう…神聖と言うか、聖域みたいな感じで…踏み込んではいけない領域のようにも感じる。
…それと忍耐の権能の扱いやすさと能力の強さが上がった気がする。今なら罪銀龍の攻撃を一発程度は耐えれるかもしれない。
そんな事を考えてる間に目の前の戦闘は激化していた。聖銀龍の背後に急に現れた罪銀龍が噛みつこうと聖銀龍に迫るが、そこに来るのを知ってたかのように動き、聖銀龍が罪銀龍を尻尾で叩いて罪銀龍を吹き飛ばす。
すぐに体制を立て直した罪銀龍が今度は氷の魔法や、炎の魔法を使って遠距離戦をするが…氷の魔法以外を綺麗に避けて肉薄し、罪銀龍を地面にめり込ませる。
圧倒的な実力差、もはや罪銀龍に未来はないと思っていたのだが…
「聖銀龍様は罪銀龍にトドメを刺すつもりはないらしいですね」
「確かに…過去の文献的にも聖銀龍様の強さってこんな物じゃないでしょうし」
なんとかこの状況に慣れてきたため、セナさんと会話を交わす。…セナさんも感じてたらしく、聖銀龍がトドメを刺す気がないのが伺える。
罪銀龍は悪しき存在ではない…?そんな考えが脳裏によぎるが、帝国を滅ぼされた事があるから到底信じれない。まぁ、そんな事を考えるよりも今はこの目の前のとんでもなく希少な光景を拝んでいよう…そう思うのだった。
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フィリア・スノウライトside
(驚いた…まさか少しだけでも神格者に抵抗できるだけの力があっただなんて)
それも、神格者の中でも戦闘に特化した私に抵抗したのだ。本当にとんでもない成長速度としか言えない。
押さえつけているゼノを見る。ゼノの赤く…怒りに染まった目が私を睨みつけている。まったく、親になんて目をしてるのかしらこの子は。
(ふぅ、にしてもリアはまだなのかしら…なんとかするって連絡来たから抑えるだけ抑えてるけど…)
ここに来る途中、リアから連絡が来てた。私がゼノに猛速度で近づいてたのに気付いたのだろう。リアからゼノがもし被害を出す様なら抑えといてと言われた。理由はゼノが気に病むかもしれないから…らしい。
薄々思ってたんだけど、リアってなんかゼノに甘くない?私だってリアと親しいとは思ってるわよ?だって法も何も無い時代からの付き合いだもの…でもわたしって戦闘訓練で瀕死間近までボロボロにされる扱いなのよ…?酷くないかしら。
(まぁでも、リアの戦闘についていけるのってそれこそ私達ぐらいだものね…その私達に近付いてる新しい存在は気になってしょうがないのかもね)
着実にゼノが私達神格者に近付いてるのは先程の抵抗で嫌でも分かった。理性のない…本能だけでの抗いでも私に衝撃を与えて少しだけでも仰け反らせたのだから。
今も私の下で暴れているゼノ。何度も罪の力が混ざった氷や鱗を飛ばしてくるし、なんとか引っ掻こうとかしてきている。
(うーん、これが反抗期って奴なのかしらね…?そもそも龍に反抗期ってあるのかしら…いやでも、ゼノって精神はまだ人だし…)
龍の独り立ちって言うのは人間で言う反抗期が来る時期よりも早い。だからこそ初めての経験なのだ、親に歯向かう子の相手をするのは。………流石に分かってるわよ?これが憤怒の権能のせいってのは。
にしてもいまだに攻撃してくるゼノを見てて思う…あまりにも成長が早い。確かに竜種と言うのはこの世界でも強者である事が多い。種族値的なのもあるとは思うけど、何故強いかって言う要因は「独り立ちが早い」と言う部分が強く影響している。
生物は独りの方が逞しく生きるのだ。だからこそ独り立ちが早い竜は強く逞しい個体が多い。…もしかして最初から育児を放棄する方が良かった?いや、それをしたら邪龍が生まれるわね…ゼノだって邪龍一歩手前だったし。
そんなこんなで適度にゼノが放ってくる攻撃の衝撃をマッサージ感覚に思いながらボーッとしてると、リアから念話が飛んでくる。
(『元に戻るけど戻る瞬間だけ激しく暴れると思うから抑えといて』…ね。なぁんかリアの声音に喜色が浮かんでると言うか、柔らかいと言うか)
恐らく何かあったんだと思う…けど私には分からない事だ。だからこそ言われた通りにしっかりと抑えておく。
…ゼノの身体が一瞬ピクッとしたかと思えば全方位に魔法やらなんやらを飛ばしていく。暴れるって魔法も使って暴れるの⁉︎
即座に結界を貼って被害を抑えるけど、運悪く一つの氷が人間達の方に飛んでいく。…あの結界じゃ耐えれないでしょうね。
だけど、結果的には無事だった…忍耐の権能を持ってるあの子が全力で罪氷を受け止めてたのだ。確かに私が展開してた聖域とかあったとしても、耐えれるのは凄い。…相当権能の使い方を熟知してて鍛錬を惜しんで無かったのだろう。もし、人間に生まれてなかったら上位種に居てもおかしくない人材だと思う。
視線を暴れ収まったゼノに向けると、ゆっくりと目を開け、琥珀色の瞳が出てくる。やっと正気に戻ったのか、この息子は。
そんな息子に言ってみたかった言葉を投げかける。
『あら、起きたのね?反抗期の息子め』
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