第97話 目覚めの時間

 いまだに体力が衰えず、むしろ全盛期よりも調子の良い身体を使いながら山奥を進んでいく。

 目の前には愛する妻の背中。そんな妻はスルスルと獣道を進んでいる。流石はリア、どこに行っても凄いと思う部分が出てくる。


 行き先の社について聞いても、「行けば分かる」としかリアは答えなかった。でもなんだかんだリアの言葉は聞き入れてしまう…特に深掘りをする事もなく、リアについてきている。


 …もしかしたら、この老化しない身体の理由があるのかもしれない。息子や娘たちは少し老化の色が見えていたのに、なぜ俺たちだけは老化しないのか。


 そんな事を考えてるうちに神の社に着いたらしい。


「ん、ここ。中に入って」

「えっと…良いのか?勝手に入って」

「問題無い。許可はとってある」


 一切の道がなく、一部分だけ切り開かれた土地にあるその社はさながら新築の様だった。見た事もない建材で作られており、感じたことがあるようで…この世界で感じた事のない雰囲気を感じる。

 そんな社に招かれて入ると…世界が一変した。


「えっ?何ここは」

「…どうだった?私との生活は」

「?…いや、滅茶苦茶幸せでずっと過ごしてたいと思ってるが」

「そう…でも、もう起きる時間」

「いや、俺は起きてるけど」


 何もない白黒の空間。だが、遥か下の方に何か見える。


「ねぇ、ゼノ。もし貴方が力を得たら…何を成す?」

「力を得たら?急に何を…まぁ、そうだな。大切な存在をずっと…守っていたいかな」

「………そっか」


 …何を言いたいんだろうか、リアは。俺は一応歳をとってるのだ。今更トレーニングして力をつけるつもりは無いのに。


「…ゼノ、貴方は………今でも【龍になりたい?】」

「龍に…?確かに昔は憧れていたけど、リア達家族を捨ててまで願う事じゃないな」

「………」


 何かが疼く。身体?魂?分からないが…知らない力の使い方が何故か理解出来る。


「ねぇ、もし…私達家族が………幻の存在だったら、どうする?」

「幻…?居ない存在って事か?そんなのあり得ないって言いたいけど…そう言う答えを求めてるんじゃないだろ?」

「ん」

「そう…だな…まず前提を教えて欲しい。俺たち家族と言うが…居ないのは誰だ?娘か?息子か?それとも孫?………もしくは、俺かリアのどっちか?」

「ゼノと私以外」

「なら簡単だな…もう一度関係を築けば良いだけだ。あの子達が居ないなら…あの子達を迎えれば良いだけだ」


「………そっか」


「ねぇ、ゼノ君。もし…もしだよ。私が創られた存在でも…圧倒的な上位者であっても…愛せる?」

「そりゃ勿論だろ。俺が愛する妻はリア1人で充分だからな」

「………ふふっ、そう」


 知らない…ではなく、忘れていた記憶をはっきりと思い出していく。にしてもやはりリアの笑顔は素晴らしいな…俺を、改めて恋に落とす程なのだから。


 …まさか、あの鉄骨で死んでいたなんてな。


「…言質は取ったから。【淵源種が理に記す。ゼノ・シオンは生涯、リア・シオンの伴侶である】」


 …リアの伴侶になる事が決定してしまったな。

 嫌とは言えない…むしろ嬉しさが込み上げてくるが、どうやら戻らないといけないらしい。


「ん、目覚めの時間。行ってらっしゃいゼノ、私の並ぶ程の力を付けた時、改めてつがいになろ」


 その言葉を聞くと同時に落下が開始する。今更気付いた、俺の身体が半透明である。

 さながら霊体化したかの様…その俺の身体が、どんどんと落下していき、真下にある俺の身体…【ゼノ・シオン】としての身体に入り、定着する。


 ゆっくりと目を開ける…久しぶりの、体感では60年ぶりほどの龍の身体である。

『あら、起きたのね?反抗期の息子め』


 そんな言葉が上から聞こえてくる。


 …なぜフィリアさんが俺を押さえつけてるんだ?


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【詳細説明】

 よく展開が分からなかったと言う方はぜひお読みください


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 逆鱗に触れられ、思考を全て魂の中の記憶へと移動させる(反射的な緊急処置みたいな物)

 思考が無い為、身体の制御権は突如芽生えてしまった【憤怒ノ権能】が保持

 ↓

 魂の記憶の中での生活を謳歌する(第95話:存在する記憶)

 ↓

 リアが魂に入り、ゼノの記憶に干渉する。(第95話:存在する記憶にて登場する転校生リア・シオン)

 ↓

 リアの干渉によって本来死んでた場面で死なずに、これからも生きる事となる(第96話:存在しない記憶、最序盤)

 ↓

 リアの力によってゼノの前世を模倣した世界が構築され、ゼノの魂を創られた橘 氷樹の身体に移動させる。(存在しない記憶の為、ゼノの魂に記された記憶だけでは途切れてしまう)

 なお厳密に言うならばちょっとした拡大空間なだけであり、別世界と言うわけではない(砂漠地下の墓地、あれの日本バージョンです)

 ちなみに移動した場面はゼノが死ぬ間際に目を閉じた所。

 ↓

 *現実世界

 魂が空となったとて、ゼノの身体は憤怒ノ権能が支配しており、暴れ続ける。

 *模倣世界

 リアの手によってゼノは救われ、後の妻となるリアと出会う。(第96話:存在しない記憶)

 ↓

 リア視点

 橘 氷樹としての人生を観察したが、干渉するには遅かった為にあまり見れず、善悪の判別に困った為に模倣世界を創造、ゼノの魂を移動させ、スキル/ステータス/記憶等を一時封印してゼノの恋人/妻としてすぐ側で見守る。

 ↓

 リアとの恋人/結婚生活を楽しみ、幸せに生きる。

(この生活によってリアがゼノに対しての独占欲が少し芽生える)

 ↓

 老後生活中にリアの提案によって地図にすら記されていない山奥へと赴く(第96話:存在しない記憶、終盤)

 ↓

 新築の様な社の中に入る事で現実世界へと戻ってくる。(なお魂だけの存在のため、半透明)

 ↓

 リアによる最後の問答。

 受け答えによる「俺が愛する妻はリア1人で充分だからな」と言う発言によってリアとの婚姻(世界の理を介して)を結ぶ。

(偽りの結婚生活であれど、リアも幸せを感じたからか絆された模様。故にゼノをロックオン)

 ↓

 リアにスキル/ステータス/記憶の封印を解かれた後、聖銀龍フィリアが押さえつけている自身の龍の身体に魂が戻される。

(理性/思考が戻ったため、憤怒ノ権能は完全に支配下に。身体の制御権もゼノ本人へと戻る)


 そしてフィリアさんの一言、【あら、起きたのね?反抗期の息子め】







【リアしか知らない事】

 とある魂を保管している

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