第96話存在しない記憶

「………大丈夫?」


 目を開けると、目の前には美少女の胸が。

 …何故にこうなった?


「……っ⁉︎えっ、だっ、誰⁉︎」

「…?私?私はリア・シオン。ほら、転校生の」

「あー、聞いたことあるかも。えっと、それで…大丈夫とは?」


 即座にシオンさんから離れて、改めて対面する。

 にしてもなるほど、こりゃ高校で有名になるのも納得出来るほどの美少女だ。

 銀髪のショートで青い瞳、気怠げなダウナーっぽさを感じる雰囲気を持ち合わせ、少し不思議っ子味を感じる。全体的に幼め…確か学年が一緒で同い年のはずなのだが、恐らく中学生といっても通じる見た目…なのだが、雰囲気が凄く大人びている。


「鉄骨、当たってない?」

「鉄骨…?あっ、そうか…上から鉄骨が降ってきて…助けてくれたんだ、ありがとう。特に掠っても無いから大丈夫だよ」

「ん、どういたしまして…気を付けてね?」

「あぁ、流石に死にそうになるのは経験したくないからね」


 これが長い、長い時を関わる事になるシオンさんとの出会いであった。

 それからの事、偶然か必然か…よく分からないけどすごく頻繁にシオンさんとは出会うようになった。


 街中で買い物をしてる時、ちょっと運動がてらに散歩する時、進学した大学の中でも出会った。

 どうやら学部すらも同じっぽい。


 ちょっとストーカーを疑ったりもしたが、俺みたいな存在をストーキングする物好きが居るわけがないし、居たとしてもシオンさんみたいな美少女はストーキングするほど男に飢えるわけがないと結論が出て、ただの偶然として処理した。


 そんな感じで頻繁に会う事もあり、シオンさんとは人一倍仲良くなり、連絡先を交換して俺は彼女をリアと呼ぶ仲になった。


 何故か俺の愛称として【ゼノ】と呼ばれる事になった。俺の名前は橘 氷樹であって一切ゼノって名前には掠りもしてないのだが…?でも不思議としっくりと来る。まるで元からその名前が自分の名前だったかのように。


 そんな感じで関わっていくうちに自然とお互いの距離が縮まっていき、もはや恋人同然の距離感で接している時、俺はとある女子大生に告白された。


 なんか色々と俺の好きな所を述べられたのだが、よく分かんなくて保留にした。

 俺の知らない人だし、俺に告白するなんて嘘告の可能性が高いからと思ったから。告白してきた女子には悪いが、一度持ち帰らせてもらってリアに相談しよう…そう思った次第だ。



「…なんで振らない?」

「えっ?いやまぁ、彼女は居てもいいかなぁって思ってたし…嘘告じゃないなら付き合ってみるのもありかな?って」

「…堂々と浮気発言、ゼノ…許さない」

「えっ?ちょっと待って⁉︎何故押し倒すっ!」


 何故か相談したらリアが押し倒してきた。と言うかリアが怖いっ!普段は気怠げの感情乏しげって感じなのだが、今回は一段と無表情で怖い!


 と言うかなんか黒いオーラ出てるんだけど⁉︎なにそれ!ちょっとカッコいい…なんて言ってる場合じゃねぇ!


「ゼノ、浮気は良くない」

「い、いや…浮気って、俺は誰とも付き合ってないじゃん?」

「ううん、私と付き合ってる。ゼノには昔からマーキングしてる」

「いやいやっ!聞いた事ない!俺がリアと付き合ってるなんて聞いた事ない!」

「ん、でも事実。私とゼノは付き合ってる」


 強引っ!この子すごく強引なんだけど!

 と言うか割と幼げな見た目してるけどそれでも美少女だからか圧が…圧がすごいっ!


「わ、分かった…告白は断るから…だから退いてくれない?」

「…無理」

「無理なの⁉︎」


 そんな事があって俺とリアは正式に付き合う事になった。ちなみに告白は嘘告だった。…悪い、非常に悪い文化だよね、嘘告って。



 大学で数少ない友人からやいのやいの言われながらも、楽しくリアと生活をしていた。非常に多く飛んでくる男の嫉妬が凄い…けど、何故かそこまで怖くは無かった。


 リアとイチャイチャしたり、デートしたり…一緒に勉強したり、夜を共にしたり…そんな大学生活を送り、無事に大学を卒業して普通よりもちょっとだけ給料の良い仕事に就く事ができた。


 ここらで一旦惚気…リアは普段無表情なのだが、時々見せる…それも俺とのイチャイチャ時にみせるちょっとした微笑み。ほんの少ししか表情が動かないけど、それでも溢れ出る喜色…それが堪らなく可愛いのだ。



 そんなリアと、遂には結婚した。と言うかなんかめっちゃ自然な形で…それこそ消しゴムを貸すかのノリで婚姻届を渡された時はフリーズしてしまった。


 誰が予想出来る?ただの平日の、夕食前にボーッとリアを撫でながらテレビをみてた時スッと婚姻届を渡されるなんて。

 でも特に迷う事もなく同意し、結婚した。もう俺はリアに惚れてるのだから。


 ちなみにリアの姿は未だに美少女、見た目で言えばようやく高校生くらい。将来は若見えの美魔女確定の様で。


 て事で稀代の美少女との結婚生活が始まった。

 とは言え稼ぎも何もかもがリアが圧倒的であり、俺は尻に敷かれている…でもそれで良いかなぁとは思ってる。リアはやっぱり凄いしそれに側にいると安心感が凄い、滅茶苦茶落ち着く。


 そんな満ち足りた、順風満帆な生活を送る。子も授かり、子育てに四苦八苦しながらも幸せで…疲れた時はリアに癒され、甘えてくるリアを存分に甘やかし。


 年月が過ぎて子供は独り立ちし、良き妻や良き夫を捕まえ、孫の姿も見え始めた。

 俺も60代後半、流石に老いを感じるこの頃…とはならず、何故か若さを保ってる。リアは当然ながら美女である。性欲もあるのは不思議…ちょっと怖い。


 孫を愛で、四苦八苦する息子や娘たちの育児を手伝うそんな日々に、リアはとある所に行きたいと言ってきた。


 山奥の、地図にも載っていないとされる神の社だ。

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