第94話 聖銀龍、動きます

 連合軍司令side


 今の罪銀龍はもはや暴力の化身だ…怒りに身を任せ、本能がままに全てを壊し尽くしている。


 期待していた将は喰われ、気に入っていた兵は消し飛ばされ、連絡がこの状態で取れるはずもなく、もはや連合軍は見る影が無くなっている。


 何故こうなったのか…何故、こんなにも罪銀龍が大暴れしているのか…それは、少し前に遡る。




 ほんの少し前、私はとある指示を出した。この日に備えて龍と言う存在の弱点を探し回っていたのだ。


 龍とは非常に硬い鱗と殻を持ち、翼を兼ね備えた陸と空…種族によっては海すらも支配する超常の生物。

 人間が敵う存在ではなく、もし討伐出来てもそれはあくまで幼体か、成体になったばかりの龍なのだ。


 そして今回相対する罪銀龍はおそらく成体になってから久しいにも関わらず、老練の個体に引けを取らない能力を持ってるとされている。


 正直無謀だと思った。いくら連合軍となれど、あまりにも敵が強大過ぎる…だが、上層部は何を思ったのか出撃を命じた。


 軍人である以上、逆らえない…だからこそ生き残る為に、少しでも争うためにあらゆる文献を読み漁った。


 そして見つけた唯一の弱点………それが【逆鱗】。

 顎の下辺りにあるらしい一枚だけ逆さに生えた鱗…それが弱点らしく、私はそこに狙いを定めた。


 幾ら強大な存在とは言え、弱点を突けば打倒出来るかもしれない…そんな思いで、たまたま我が国にきていたS級冒険者に依頼し、逆鱗を突く事を指示したのだ。


 だがそれが間違いだった。

 逆鱗を突いた事で罪銀龍は大暴れしており、S級冒険者の姿は一切見えない…踏み潰されてしまったのかもしれない。


 そんな事が走馬灯のように頭の中を流れていく…

 あぁ、私は死ぬのか…目の前に迫った罪銀龍の口を前に、死を悟るのだった。


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 リア・シオンside


「………怒りに呑まれた」


 極寒の地と化した空間の上空にて、ゼノ君を見下ろす。

 元々人間であり、精神も完全に龍となっていないゼノ君にとっては逆鱗に触れられるのはとんでもないストレスだったらしい。


 本来、龍が逆鱗に触れられた場合、ある程度暴れて怒りの原因となった存在が滅んでから少ししたら怒りは収まっていくのだ。その程度で収まるのはひとえに元から龍だったから。


 人は龍より繊細な生物…故にもし人の精神で龍の逆鱗に触れられてしまった時…今のゼノ君みたく理性を手放し、あらゆる物を壊そうとしてしまうのだ。


「…怒りは1番分かりやす———ん?」


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【世界の理】


【憤怒ノ権能】を感知し———淵源種の干渉を確認、秘匿されました


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「…ゼノ君、大罪に支配されてるだけ………」


 今ゼノ君を動かしてるのはどうやら大罪らしい。

 大罪は完全支配できてる。出来ているのだが、ゼノ君が理性を手放している時に獲得してしまったが故に今憤怒の権能がゼノ君の身体を支配しているのだろう。


 となると本来のゼノ君は………どうやら魂の中の記憶でぬくぬくと過ごしているらしい。

 何してるの…


 だけど、少し興味がある。ゼノ君がどんな生活をしてきたのか、どんな環境にいたのか…生前、どんな性格をしていたのか。


 丁度いい機会だ、少し見させてもらおう。


「ん、ゼノ君…いや、橘 氷樹君…次会う時は同級生」


 自身を霊体化し、そのままゼノ君の魂の記憶へと潜り込む。

 どうせなら夢の中で…楽しもう?


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 フィリア・スノウライトside


「ねぇ、リアったら酷くない?我が子を心配してるだけなのにあんなに強く静止するだなんて」


 今私は世界樹ことセシリアに愚痴っている。だって…私全然母親らしいこと出来てないじゃない!子育てを経験したくて子を産んだけど私の力加減が下手過ぎてまともに触れられないし…でも触れても大丈夫なのって私が育児放棄しちゃったゼノだけなんだよ?ならせめて今からでも愛情を与えたいじゃない!


「…いや、リア姉が正しいと思うけど。そもそもそのゼノって言うフィリアの子だってしっかり独り立ちしてるでしょ」

「でもでもでもっ…!」

「…それより、ゼノって子の所に行かなくていいの?」

「………どう言うこと?リアからは頭冷やしててって言われたんだけど」


「…ゼノって子、今憤怒の権能に呑まれてるよ」


 えっ…?なんで権能に呑まれて…私が確かに蝕みを消したはずなのに。


「…理性を手放した時に権能を手に入れたっぽいかも。だから掌握出来ていても身体の制御権が大罪になってる。フィリア、こう言う時こそ母親の出番」


「わっ、分かった!行ってくる!」


 まさかそんな事になってるなんて…にしてもなんで理性を放棄する事に…まさか逆鱗⁉︎あの感覚は到底人の精神で耐えれる苦痛じゃないのに…!


 今のゼノを止めれるのってそれこそ最上位進化種以上の存在でしか止めれないでしょうに…と言うかセシリアが止めてくれたって良いじゃない…!教えてくれたのはありがたいけども。


「でもまぁ、やっぱり子とは触れ合いたいですし…良い機会なのかも♪」


 私の聖印のある場所に向かって飛んでいく…待っててね我が子よっ!しっかり正気に戻してあげますからね!


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 神格者視点書くの結構好きなんですよね…というか神格者って言う立場がめちゃくちゃ好きだったりします。(パニグレって言うゲームでもルナ様陣営の代行者とか大好きですし)


 あとフィリアさんの過保護ママ感強くなってるけど…大丈夫だよね?大丈夫だと思いたい…(最初の威厳はどこに…?)

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