第91話そんな感じの生活

 そしてこれで罪銀龍という名称が俺の事を指すことが確定してしまったわけだが…というか恐らくその名称を広めたのも目の前のセナさんだろう。


 そんなセナさんは今現在、龍型である俺にひたすらに発光するのではと思うほどの輝きを宿した瞳を向けながら喋り続けている。

 ………よく息が続くと思う、オタクの早口と似た様な物だろうか。


 ちなみに俺はそんなセナさんをジッと見つめている…一切声を出していない。

 だってしょうがないじゃない、龍の姿に人の発声器官なんて無いから喋れないのだ。声を出しても恐らく『グルゥ…』とか『ゴアァ』とかの唸り声にしかならないだろう。


「あっ!そう言えばなのですが、ご近所挨拶としてこれらの品を持ってきたのですが…如何でしょうか?もし不服があるならばより良い物を集めますが」


 …挨拶にしては金品とか豪華過ぎませんかね?要らないよ、使い道が無いし…あっ、でも料理は欲しいかも。普通に美味しそうなのだ。


 流石にコミュニケーションが取れないので人型に変化…フードを被り、仮面を付けた身分隠しの姿だ。


「俺は別に金品などは特に要らんから持って帰ってくれ。ただ挨拶の品として全てを返すのは申し訳ないから料理などは貰っておこう…それと、一応俺からも挨拶としての品を渡そう…ただ、此処にはあまり近付かないで欲しい、此処は俺のプライベートスペースな物でな」


 そう言ってから老地龍の素材を複数個出し、それを与える。

 …在庫処分とかでは無い。ただ収納スキルの肥やしになってるくらいなら使い道を見出せるであろう人間に渡した方が良いと思っただけである。

 あと俺の鱗を数枚混ぜたのは内緒である…所詮俺の鱗は幾らでも取れるから問題無いだろう。


 セナさんはあまり此処に長居するのも悪いと即座に理解したのか、金品などの俺が要らないと言った物を遠目から見てた俺を怖がってる使用人や騎士達に馬車に積ませて移動させる。


「今後ともここは侵入禁止区域にさせて頂きます…罪銀龍様、是非ともこれからもよろしくお願いいたします。もし市街に来られる場合は是非とも我が国をご堪能してくださいねっ!」


 そう言って何度も振り向いて腕を振りながら巣の外へと歩いて行くセナさん。何度も振り向いてるせいで全然進んでいない…攻撃力1の壊滅術・散で聖都方面に吹き飛ばしてやろうかとは思ったが、普通に怪我をしそうなのと関係悪化を望んで無いのでそのまま見守る。


 そうしてセナさんが見えなくなったところで俺は一息つく…


(………巣に他の人が居ると落ち着かねぇ)


 恐らく龍の習性なのだろう、ひたすら落ち着かない時間が終えた事にようやく安堵するのであった。


 ----------------------

 そんな事が数ヶ月程前の出来事である。


 最近は特に何もやる事がなく、ぐーたらな生活を送っている。野生の姿で食って寝てのサイクルを繰り返し、時たま食べたくなった料理を聖都に出向いて食べる程度だ。


 数週間に一度の頻度でセナさんが巣に訪れるが、必ず一人で巣に入って来ている…おそらく大人数は怒りを買うとか思ってるのかもしれない。

 ちなみにほんの数十分程しか喋っていかずに、帰る事が多い…だが、話してるうちに結構親しくなった感じはある。


 証拠に今ではセナさんが巣に入ってきてもそこまで落ち着かなくなる事は無くなった。

 例えるならアレだ、友達を家に呼ぶ時は最初は緊張するだろう?だが、何度もそれをすれば勝手に慣れていって何とも思わなくなると言う奴だ。


 そんな風に過ごしていると、時々レティが訪れる事もあった。仲間の二人は別行動の時に限って来ているらしい。


 そして不思議なのが、レティが俺の巣に入ってきても一切不快にもならず、落ち着かなくなる事は無かったのだ。原因は不明である。

 ちなみに巣の気温は大体-20を下回っているが、それはあくまで寝る時であって起きてる時は常温だ。何せずっと冷気操作で気温維持するのもめんどくさい。


 普通の龍ならばおそらく縄張り意識が強くてしっかり維持するのだろうが、俺は元人間なのだ…そこまで縄張り意識が強くない。


 そんな感じの数ヶ月だった。そう言えばある程度の月日が経った時にセナさんが「私の身体を是非罪銀龍様にっ!」とか言うまさかの自分自身を贄として出したいと言われるとは思わなかった。


 確かにセナさんは綺麗な人だ。恐らく前世の学校とかに居たら男子生徒がこぞって告白して玉砕されるタイプの人だ…つまりはラブコメヒロインを担当できるレベルの容姿である。


 だが、残念ながらそこまで俺は異性を欲する欲望は無い。と言うかステータスの称号欄にあるように俺は【不老】なのだ…もしセナさんを貰って親しくなっても寿命で別れるのは目に見えている。


 どうしてもと言っていたがそう言った理由で拒んだ。それに俺にとっては恋愛とかよりもフィリアさん達に近づきたい意志の方が強い。


 まぁ、とは言えちょっと砂漠の件で軽く燃え尽き症候群になってるのだが…と言うか本当に霊印が一切反応してないから何処に行けばいいか分からないと言うのがある。


 一応、「人間にとって足を踏み入れてはならない場所」とか言う資料を探してみたのだが、割と多くて何処に行けばいいのか分からなかった。


 ちなみに出てきた場所は砂漠の更に奥にある火山、別大陸である【カラミティア】、海に発生している深海に続く大渦、セレスティア森林最深部などなどが書いてあった。


 ちなみに砂漠神殿地下って言う場所もあった…記述を見た限りだとあの砂漠地下の墓地である。


 とまぁ、こんな感じで人の勢力が弱くて何処にどのくらいの強さがいるか分からない状態が現状である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る