第82話能無き暴力

 予め霊体化してた方が良かったかもしれん———、そう思いながら内心冷や汗が止まらぬまま俺の真下に出来たクレーターを見る。そのクレーターの中心には前脚の片方を地面にめり込ませた老地龍が立っていた…位置的にも丁度俺の真下だ。


 そう、咆哮が終わってからの数瞬のうちに俺に近づいて攻撃をしてきたのだ。このクレーターはその攻撃の余波である。

 ギリギリ霊体化が間に合ったが、もし間に合わなかったらデッドエンドだった。多分ここのアンデッドの仲間入りを果たしていただろう…


 そんな恐ろしい未来を感じながらも霊体のままそっと老地龍から離れて空に飛び立つ…そして、ありったけの魔力を使ってここら一体を霊力で満たす。

 …このままでは多分あの老地龍に何も出来ずに終わる、そう思えるほどの速度だったのだ。ならば魔力消費が激しくともやるしかないだろう…【空間の支配】を。



 辺り一体に霊力が満ちる…そして黄泉ノ龍になってからの初めての【死域支配】を発動する。

 ………随分と久しぶりの感覚だ、ルミナ・アンブラル戦以来感じなかったこの空間内を全て把握出来き、スキルを最大限使用出来る感覚。


 少し万能感を感じてしまうが、一切慢心せずに老地龍を見据えながら実体化する。

 赤い双眸で俺を見据えた老地龍はその攻撃力ステータスに物を言わせた身体能力で乱立した石レンガの柱を経由して俺に猛速度で突っ込んでくる。


 起動で言うならピンポン玉が跳ねる感じだ。突っ込んでくる老地龍に合わせて龍型の大太刀を振り下ろす…が、見事に弾かれて老地龍の魔の手(多分一発死)が迫って来るが焦らずに傲慢の権能で瞬間移動する。


 移動するのは老地龍の下、弾かれた勢いをそのまま利用して老地龍に大太刀を当てるつもりだ。

 老地龍の下に移動してそのまま大太刀を振るう…だがそれでも老地龍には届かない。器用に後ろ足で受け止め、そのまま地面に叩き付けるかの様に足蹴にされる。


 そう、ただの足蹴…のはずなのに攻撃力が高過ぎて弾丸のように地面に向かって俺の身体が飛んでいく。そして支配空間故分かるが老地龍が追撃してくるのを感知できたので霊体化してそのまま体制を立て直す。


 そして俺をすり抜けた老地龍はまた地面に大きなクレーターを生み出す…やはり危ない、くらったら死ねるだろう。

 ついでに分かったことがあるのだが、どうやらアースランページ中の地龍は魔法を使わないらしい。今まで嫌と言うほどに飛ばしてきた石礫も、腐植物のツタも、瘴気の塊も一切出さずにひたすら攻撃力に物を言わせた動きをしている。


 もしかしたらアースランページには魔力すらも全損すると言うデメリットがあるのかもしれない。

 そう思うとわざわざ動きずらく、踏ん張りが効かない空中に居続けても仕方ないので地面へと降りて実体化する。


 再度先ほどと同じように石の柱を伝って猛速度でこちらに突っ込んでくる老地龍に合わせて大太刀を振るう…そして弾かれ、瞬間移動し切り付けるがやはり防がれる。


 やはりステータス差がありすぎる…いわゆるコイツはステータス極振り状態のはずなのだが、上がってるのが攻撃力なせいで異様に速いしどうしても俺は受け身にならざるおえない…今の俺では絶対にコイツには追いつけないのだ。


 そんな感じで大太刀が弾かれ、攻撃を避け、何度も切り掛かる…それを続けながら勝機を探す。

 本当にあと一太刀さえ入れれば相手のステータスの下がり具合的に倒せるはずなのだが、どうしても届かない。


 流石に何度も連戦し、にも関わらずこの老地龍ととんでもない長期戦をした上のこの猛攻撃を対処してると…非常に疲れが出てきている。


 そんな疲れ故か、傲慢の権能による移動が遅れ、ギリギリ攻撃を喰らいそうになったので霊体化した事で、攻撃が俺をすり抜けていく。

 …そう、すり抜けた。


(そっか、なんだ簡単な事じゃんか)


 なぜ気付かなかったのかと言いたいほど簡単な対処法に思い付き、老地龍から少し離れた所で大太刀を構え、実体化する。

 そして俺を見つけた老地龍はさながら弾丸の如く俺に突進をしてきて、俺は今までと同じようにそれに合わせて刀を振るう…


 そして老地龍はその刀を弾くための前脚を使い、刀を弾こうとするが…弾けれなかった。いや、厳密に言うならば刀は老地龍のその脚をすり抜けたのだ。


 そのまま刃は老地龍の首元へと運ばれて行き、さながら豆腐でも切るかの手応えを感じると共に老地龍の首を一刀両断する。

 だが、切ったからと言えどその勢いは止まらず、老地龍のその巨体は俺に激突し、俺は意識を失うのであった。


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 ………全身が暖かい感覚に包まれている。そう、進化の合図だ。

 その暖かさを頼りに意識を覚醒させる。周りに敵は…居ない。見えるのは徐々に身体が消えていっている老地龍のみだ。


 老地龍のその倒れる姿は俺が生前殺した時と同じ体制をしている。地に伏せ、首が一刀両断された姿だ。やった事は簡単であり、大太刀が弾かれる前に刀身を霊体化させ、老地龍の腕が通り過ぎた後に実体化させてそのまま首を切っただけだ。


 死生判別のスキルでもしっかりと死んでいる事を教えてくれている。

 そう、勝てた…あのステータス差相手に勝てたのだ。動かない自分の身体に怠惰の権能による体力超速回復を施しながら自分のステータスを見る。


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 種族:黄泉ノ龍

 名前:ゼノ・スノウライト

 lv:500/500(余剰経験値有り)

 体力:87/4593

 魔力:12/7063

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 内心で乾いた笑いしか出ない…あの攻撃でもないただの衝突で俺は瀕死になったのだ。しかも魔力もほぼ底を尽きている。


 霊力の魔力消費を考えるにあと十数秒経ってたら死んでたかもしれない。なんとか回復してギリギリ動ける様になった俺は身体を引き摺らせながらもこの墓地の入り口である階段まで歩き、地上へと登っていく。


(あぁ、久しぶりの陽の光だなぁ)


 階段を上り切り、どれくらいの時間お別れしてたか分からない太陽と対面し、ようやく生き残った事を実感し始める。

 そして老地龍を倒せた達成感と、もうここに襲ってくる奴は居ないと言う安堵によって再度、意識を手放すのであった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 はいどうも、あとがきの時間だ!

 という事でどうも冰鴉です。


 いやぁ、帝国編で書きたかった老地龍に苦戦する場面を書けて満足です。あれこそステータスの暴力、ひたすらに高いステータスを持てば技が無くとも圧倒出来るのです。


 ちなみに老地龍のアースランページは実は神格者達にダメージを負わせれるほどの攻撃力を生み出してるんですよね。つまりは攻撃力だけならギリギリ神格者に太刀打ちできる状態になってた訳です。そりゃ一発でも喰らえば主人公は死にますよね。


 さて、ここでアースランページの説明を。

 アースランページ…まぁ和訳すると大地の暴走なのですが、効果はと言うと体力と攻撃力以外のステータスを何千分の一の数値に低下させ、スキルも種族由来の物以外は全て使用不可。(魔法系も不可、使えるのは体術とかそう言う感じ物のみ)


 その代わりにステータス減少量に応じて攻撃力が大幅に上がり、更に攻撃力を上げるバフが追加され、大幅に上がった攻撃力を補助するバフも追加されると言った感じです。


 まさに脳筋スキル、防御力が高くて保有不浄魔力量が多い老地龍にとってはまさに諸刃の剣であり、起死回生のスキルなわけです。


 良いですよね、ひたすら硬い事がウリなキャラが全てを投げ打ってとんでもない攻撃力を叩き出してくるって言う場面は…


 と言う事で次回は…なんじゃろな?進化回orリアちゃん視点の後日談的なのですかね…もうそろそろレティサイドも書きたいかも。

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