第83話 貴方は何を成す?

 目が覚めると、太陽の光があった。


(そうか、俺はこの墓地から出たんだったな)


 俺はどれほどここで戦ったのだろうか…ひたすら押し寄せてくるアンデッドに砂漠地下の虫共と、その地下にあった廃都市に眠る機械人形…そしてアンデッドの老地龍だ。


 …どうしよう、ここにあまり良い思い出がない。


 正直此処に長居はしたくないので寝てる間に回復した魔力を使って霊体化し、さっさと安全な方に向かって飛んでいく。

 目的地は砂漠と元住処の間にある平原だ、元帝国領とも言う。


(にしても霊印は何も示して無いな…進化しないとダメなのかね)


 おそらくリアが残したであろうあの老地龍…アレを倒した訳だが霊印は一切反応していない。進化をしないといけないのか、それとも何か条件があるのか…もしくはまたリアと会わないといけなかったりするのだろうか?


(まぁ考えても仕方が無いか…まずは進化でもしてゆっくり過ごそう。せっかくなら人の街に行って美味しい食べ物とか食べたいし…そう言えばこの世界で風呂を見てないな)


 そんな風に平和な事を考えながらフワフワと漂う様に移動していく。

 まず直近の予定は平原で進化した後は近くにある人の国にでも寄ってまったりと楽しむつもりだ。出来れば近くに巣作り出来そうな場所があると良いのだが。


 なにかキャラバンらしき物に襲い掛かってるワームを罪氷一つで蹴散らしながらものんびりと歩いて行く。ちなみに殺したワームからは以前見たことある様に体液が噴き出ている…うん、やはり気持ち悪い。


 まぁでも今日で此処とはおさらばなのだ、SAN値削りことワームの容姿を物ともせずに元帝国領に向かうのであった。

 ----------------------

 リア・シオンside(ほんの少しだけ時間遡り)


 ほぼほぼ身体が消えた帝国の龍の魂を掴み、私が干渉した痕跡を全て消す。もしかしたらこの龍の来世に強く影響を残す可能性があるのだ。

 未練はゼノ君の手によって消えてるため、やることはスキルの除去だ。除去するスキルは霊力耐性と大罪抵抗、それとアースランページと要塞化だ。


「ん、これで良し」


 スキルを除去し、私が干渉した痕跡も魂に刻まれた記憶も消した所で魂を輪廻へと戻す。次にやるのは転移魔方陣の除去。


 この転移魔方陣は大昔に頼まれて創った物だけど結局文明も滅びて使われなくなった物だ。結局あの霊が宿った玩具もあの子が要らないと言った魔道具も無くなった以上はもうあそこに繋がってるこの魔法陣の必要性は全くと言って無いのだ。

 と言うことでさっさと除去する。魔法陣は魔力の塊をぶつければすぐ壊れるから特に時間も掛からなくて楽で良い…あとついでに玩具に憑依していた霊も黄泉の世界に返した。まぁ死んでたから返しても意味ないかもだけど…でも霊は黄泉に存在するのだから返しておいた方が良い。


「終わり…さてと、ゼノ君は?」


 地上の墓地の入り口で寝ているゼノ君の場所まで移動し、容態を調べる。流石に最上位進化種が持つ様なスキルであるアースランページの攻撃は危なかったらしい…滅茶苦茶体力が削れている。


「…死ぬとフィリアに何か言われそう………しょうがないか」


 起きてもバレない程度に魔力を回復させ、体力もここら辺の魔物じゃ削りきれないほどに回復させておく。多分この程度なら自然回復と思うだろう…


 そして次に霊印に細工をする。少し気になったのだ…このままゼノ君が力を付けて、どんな事を起こすのか。ゼノ君は神格者や最上位進化種に比べれば劣ってはいるが、充分にこの世界でも強者の位置に立っている。


 ならば今のうちにもこのまま力を付けさせても良いのか見極めておいたほうがいい。

 もしこの世界のルールを壊す様な性格なのであれば、フィリアの制止を振り切ってでも………いや、今はそこまで考えなくていいか。


「ねぇ、ゼノ君…貴方は何を成すの?力を求めて、どうするの?………敵対は、したくないな…」


 そんな言葉と共に一際強く風が吹く。そしてその風が止む頃にはリアの姿はそこに無かった。

 それからゼノが起きるのは数時間後の話であった…





(霊印の道標は機能しないようにした…これからはゼノ君が思うがままに行動してみて。それを私は監視するから………貴方の本性を、私に見せてね)


「ねぇ、ゼノは大丈夫かしら…?聖印から凄い生命の危機だって伝わってくるんだけど」

「大丈夫、ゼノ君は生きてる」

「あぁもうすごい心配なんだけど…!いっその事ゼノの場所までひとっ飛びして———」

「………フィリア、過保護過ぎ」

「しょうがないじゃない!だってゼノが生まれた時に私は見捨ててしまったのよ⁉︎少しでも母親らしい事を———」

「落ち着いて、フィリア…ゼノ君はもう立派に独り立ちしてる」

「あぁもう…!気になってしょうがないっ!今から行ってくるわ!」

「ステイ、フィリア…大丈夫だから」

「止めないでリアっ!待ってて我が子よ!」

「【止まって、フィリア・スノウライト】」

「んにゃっ!?…クゥン………」

「フィリア………貴女は犬とか猫じゃなくて龍でしょ」


 …監視の前にまずはこの子煩悩な聖銀龍をどうにかしなきゃ。他のフィリアの子には結構気軽に独り立ちさせてたのになんでゼノ君にはこうも過保護になっちゃったの…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る