第68話 とある冒険者のお話:宿屋で啜り泣く声…その正体は…?

 ゼノがリィン神殿地下にてアンデッドと戦闘を繰り広げている…そんな時を同じくして、とある冒険者の少女がプライム王国王都にて活動していた…


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 レティ/レティシアside


 私は今、プライム王国の王都へと来ている。前まではセレスの街を拠点としていたけど、これからしばらくはこの王都を拠点にするつもりなのだ。


(最近Eランクに上がったけど此処からはパーティを組まないと危ないと言われましたし…でも何故かセレスの街じゃパーティ組めなかったんですよね)


 レティは知らない。自分がマスコットや可愛いアイドル的な扱いをされており、もし特定のパーティに入ってしまえば、日頃からレティをみて癒されていた者達がレティが入ったパーティのメンバーにヘイトを向けてしまうことを…


 そしてセレスの街の冒険者はその事をよく分かっていて、あえてレティのパーティ加入を断っていた事を。


(でも人の多い王都ならお仲間さんを見つけるはず!でもまずは宿探しからですね)


 旅人でも冒険者でも街についてからやる事は変わらない、まずは宿屋探しなのだ。もしこれをやらずに夜になってから探すと宿が空いてなかったりして野宿の可能性がグンと上がるのだ。


(ん〜美味しいですね、このホーンラビットのお肉…ツインホーンラビットのお肉らしいですけどホーンラビットとどう違うんでしょうか?)


 小腹が空いていたので屋台で売っていた兎肉の串焼きを食べながら宿屋を探す。

 にしてもやっぱり王都は人が多い…セレスの街は冒険者が大半で日中は依頼に出掛ける人が多い事もあってそこまで密度を感じなかったが王都だとツメツメしてるって感じだ。


 ちょっと憂鬱になってたりする。


(やっぱり魔物の危険とか気にしなかったらセレスの街の方が住みやすいですよね…せめて宿くらいはある程度人が少なめの場所が良いなぁ)


 そんな事を思ってたからだろうか?ちょっと大通りを離れた所に行き着いてそこに冒険者の騒がしくて大雑把な印象とはかなり反対な小綺麗で静か目な印象を漂わせた宿屋を見つけた。


 …なにか黒い魔道具?が置いてあるが。


(銀猫亭…?良い宿っぽそうですね。にしてもこの黒い魔道具っぽい物の素材って…)


 自身のスキルに収納していた今までの人生の中で圧倒的に扱いが困っている貰い物を取り出して見比べる。

 魔道具に使われている素材の方がより硬く、上質に感じるが色合いや素材から感じる雰囲気は私が貰った鱗と全く一緒なのだ。


(ゼノさんの鱗…?えっ、討伐されちゃったの⁉︎………いや、ゼノさんが置いていったのかな?)


 一瞬討伐されてしまった事を想像したけどそれはなさそう…何せドラゴンを討伐したなんて事があれば噂がガンガン飛びまくるのだから。


 その噂がないとなればゼノさんが持ってる力でこれを作ったって言った方が納得できる。スタンピードを起こした魔物達をゼノさんの鱗で作られた物が殲滅してたのはちゃんと覚えている。


(となるとこの宿ってもしかしてゼノさんが泊まってるのかな?)

「ねぇ、そこの貴女?店の前で何をじっと見てるの?」

「えっ?ここにある魔道具ですけど…」

「魔道具?そんなの無いけど。まぁいいや、それよりも貴女はお客さん?それとも冷やかし?」


 銀猫亭の従業員だろうか?白髪の猫獣人さんが買い物袋をぶら下げながらこちらをみている。

 魔道具が見えないのは不思議だけど未発見種族になってたゼノさんが関係してそうだし納得できる。ほんとあの鱗どうしよう?

 にしても冷やかし…最近落ち着いてきた獣人差別を警戒してかな?


「いえ、冷やかしじゃなくて宿を探してまして」

「そうなの?じゃあウチはどう?獣人に何も思わないなら結構過ごしやすいと思うわよ?」

「えっと、じゃあお世話になります?」

「はい、それじゃあ入って入って!」


 白猫ちゃんに背中を押されて銀猫亭へと入る。

 中に入るとなんとも落ち着く感じだ。程よく静かな感じで喧騒を感じない。

 まだ差別意識が残ってる人達が多いが故にこの銀猫亭は穴場スポット的になってるのだろう。


 あまり慣れない馬車移動で来て疲れてるので宿の手続きをして早い時間だけど部屋にあるベッドで横になる。


「ん〜!良い宿取れて良かったぁ。人の多い王都だとここがちょっとしたオアシスに感じちゃう」


 久しぶりの気が抜ける場所なので自分に掛けた偽装も解いてベッドへとダイブする。

 私の本来の姿であるエルフのレティシアの姿となってベッドで転がる。


 思った以上に疲労してたっぽい。特に動くこともなく布団の上でグッタリしている。

 そして疲れ故か眠気に襲われて意識を手放すのであった…


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 ふと、声が聞こえて目が覚める。

 時間帯は…真夜中だろうか?外はかなり暗いし、明かりの魔道具が無ければ何も見えないくらい暗くなっている。


(うぅん、なんの声…?隣の部屋の人が泣いてる?)


 どうやら起きる原因となった声の元は隣の部屋らしい。隣の部屋から啜り泣く声が聞こえてくる。

 声的に多分女性…悲しさや喪失感を感じさせる様な声がとても気になって慰めるまではいかなくても、せめて側に寄り添ってあげたいと思えてくる。


(ちょっと寝れそうにもないですし、凄く気になっちゃう…それに少しで力になりたい…!)


 自身のスキルで姿を人間の姿へと変えて泣く女性の居る部屋のドア前へと移動する。

 夜深くに訪ねるのはかなり躊躇われたが、それでも寄り添ってあげたいと思う気持ちが強い。


(こんな悲しそうな声を聞かされて黙ってられないですもの!お邪魔だったらごめんなさい!)


 心の中で謝罪しながらドアをノックする。

 どうやらノック音が聞こえたらしく、「はぃ…」とか細い声が聞こえてこちらに歩いてくる音が聞こえるのであった。


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 あとがき

 はい、冰鴉です。


 と言う事で人の世視点を担当するのは主人公に最初に接触したレティことレティシアさんです!

 さながら運命の如く銀猫亭へと足を運んだレティちゃんは今後どんな道を歩んでいくのでしょうか。


 ルミナさんも聖女ちゃんもシィ/スゥちゃんも皇女ちゃんもしっかり絡ませて行きたいですね!


 ちなみに主人公作の罪化魔道具がレティちゃんだけに見えてるのはレティちゃんが無意識に人徳の権能を使ってるからですね。ついでにスゥちゃんの対応が結構丸めだったのも権能の影響が出てますね。

 一応差別が落ち着いてきたってのもありますけどね?

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