第62話消えた帝国

 亡帝国の第一皇女side


 私はだだっ広い平原にてただただ棒立ちになっている。


「帝国が…消えた…。やっぱり大罪なんかに触れるべきじゃなかった…私達は禁忌に触れてしまったのかな…」


 ほんの数時間前は大罪の龍が王都近郊に現れてお祭り騒ぎを起こして誰もが帝国が更に世界の支配への一歩を踏み出せると思っていたが、いざ蓋を開けてみれば誰も太刀打ちができない蹂躙が始まっていた。


 そしてほんの数十分前に全てが終わってしまった。

 世界から急に色が無くなり、生きた心地が全くしなくなった状態になって数秒間のうちに全てが塵となって消えてしまった。


 私の自室も、

 お世話してくれていた侍従も、

 いつも礼を欠かさない使用人も、

 帝都の城も、

 美味しかったお店も、

 友人とも呼べる看板娘ちゃんも、

 いつもオーダーメイドを頼んでいた仕立て屋も、

 賑わいを見せていた住宅街も、

 城を抜け出した時によく一緒に遊んでた子も、

 生徒が全てを賭して一位を目指す学園も、



 ……ありとあらゆる帝都の全てが塵となって消えてしまった。残骸なんて物すら残っていない。


「残っている人達も居るけど…数が少ない。にしても残っている人の共通点は何…?」


 ポツポツと怖がっている人達が居るのは確認出来ている。それでも総数は田舎村に住んでいる人数程度だろうか、かなり少ない。


 そして私の顔見知りも数人だけ確認出来た。そしてその共通点が思い当たった。


 それは…

「………大罪の龍に興味がなかった事。もしくは敵対する気が無かった人達」


 残った原因が分かったのは良いが、そんな事が分かってもって感じだ。

 結局は大罪とは敵対しない方が良いと言う事実が残るだけだ。


「そんな事よりこれからどうしよう…帝国は完膚なきまでに消え去っちゃったし、多分他の国が侵略してくるでしょうし、守護龍も殺されてしまったし…もう王国にでも亡命しようかな?」


 帝国の再建なんて正直無理だ。戦力が少な過ぎるしそもそも皇族も私しか残っていない。

 皇帝も2人の兄も消えてしまったし…正直私はあんまり皇帝の座にも興味無かった。ただ楽しく生きて居られれば良いなと思ってただけ…実力を身に付けたのも楽しく生きる為だ。


 皇族と言う枷が無くなったのだから一度世界を旅するのも良いかもしれない…冒険者というのも楽しそうだと思っていた。


「よし、帝国が消えたのも友人が消えたのも悲しいけど…悲しむのは後でもできるもんね。まずは生き残らなきゃ!」


 そう言って山岳の方へと歩いて行く。ちょっと危険な道のりだが出来るだけ早く王国に着いておきたいのだ。


「帝国以外の国ってどんな場所なのかな…?」


 出来るだけ今の間だけは悲しさや喪失感を忘れる為に今後の楽しい未来を想像しながら王国へと向かっていく。今は悲しむ余裕なんて無いのだから………


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 リア/リア・シオンside


 私は今現在、るんるん気分で創作バカの居る場所へと向かっている。

 なにせ今まで見た事の無い「スキルが内包された武器」が手に入ったのだから。


「流石はフィリアの子、あれは将来面白くなる。………私のツガイにしようかな?」


 そんな事を考えていると目の前に白銀に輝く龍が降ってきた。


『ねぇ、シオン…貴女権限を使った…?』

「ん、使った…けどフィリアもつい最近使ってた」


 目の前に降りて来た龍は聖銀龍であるフィリア、腐れ縁とも言える間柄だ。

 たまにお遊びがてらに戦闘指導を施す仲である。この子もいつか私に並べそうだと思ってるけど…いつになるんだろうか?


『しょうがないじゃない…だって私の子のためだったんですもの。あのまま放置してたら大罪に呑まれちゃうかもしれなかったし』

「それでも権限を使うのはやりすぎだと思う。首に聖印まで付けてた」

『ウッ、それは……と言うかあの子に会ったの⁉︎』

「ん、軽く遊んだけど死ななかったし楽しかった。ゼノ君が成長したら私が貰って良い?」


 今まで見たこと無かった物を生み出したのだ、あんな将来面白さの詰め合わせになる様な存在は今の内にマーキングするに限る。あと親の許可も。


 それに純粋になんとしてでも生きようとしてたのも良い…あの落ちこぼれと戦った後に消化不良を感じてた事からも私とは気が合いそうだ。


『それはゼノが決める事だけど…私的には諦めて欲しいわね。貴女のツガイになるなんてゼノが心労で死ぬかもしれないじゃない』

「ん、それは問題無い。死んだとしても私が輪廻から拾ってくる」

『そう言う事じゃないのだけれど…』


 ?死んだのならば蘇らせれば良いだけだと思うのだが違うのだろうか?

 にしてもゼノ君が選ぶ…もし私達の中から選ぶとしたら誰を選ぶのだろう?


「ねぇ、フィリア」

『どうしたの?』

「もしゼノ君が私達の中でツガイとして選ぶとしたら誰を選ぶと思う?」

『私達は全員独身だものね…セシリアはそもそも樹だし、貴女はマイペースだし…リリアはいつも創作ばかりだし他の子も………うーん、私を選ぶんじゃないかしら?』

「…近親は良くない」

『良いじゃない別に。そもそもゼノも含めて私の子は私1人から産まれたんだから近親なんて今更よ』

「そんな事をするから魂の輪廻から外れてきた異世界の子が生まれる………それにフィリアの相手も心労が溜まると思う」

『へぇ、言ってくれるじゃない』

「ん、お互い様」


 ピリピリとした空気になるが日常茶飯事なのですぐに元の空気感へと戻る。

 だが余波で近くにいた魔物が全員泡吹いて気絶したっぽい。


『それで、どう?あの子に会ってみた感想は』

「んー、まだまだヒヨッコ。でも可能性の塊なのはわかる。こんな武器を作ってたし」

『へぇ、武器……て何これ⁉︎』


 ゼノ君から貰った大太刀を見せるとフィリアはすごく驚いた。その気持ちは分かる、魔道具なんて一切くっついていないのに何故か武器そのものにかなりの量のスキルが入っているのは私でも見たことが無いから。


 魔道具を付けてなら創作バカも作れるだろうが魔道具無しの武器でこんなにスキルを内包させるのは多分創作バカでも無理だと思う。


『凄いわねゼノ…流石私の子』

「ん、ほんとに可能性の塊。ちゃんと神格に至れる素質も持ってたし」

『シオンもそう思うわよね。それに成長が速い…これは私達に並ぶのは案外早いかもしれないわね』

「ん!その時が楽しみ」


 そんな会話をしながら創作バカの場所へと向かう。フィリアも創作バカに会う予定だったらしいから一緒に行く事になった。


 そして道中の会話の中で知ったのだが大罪の蝕みを消したのはフィリアがやったとの事。



 ……むぅ、怠惰に蝕まれたゼノ君をお世話するのも楽しそうなのに。



【道中の会話】

『そういえばだけど、ゼノの魂は元の輪廻に戻さないの?』


「んー、出来ないってのが正しい。ゼノ君の魂はこの世界に定着してるし、世界の理も容認してる。それに私じゃ元から無理…元の輪廻に戻せる存在は多分だけど世界の理を生み出した存在くらいだと思う」


『そうなのね…まぁ、ゼノはこの世界を楽しんでいるようだし無理に返そうとしないで良いのかな?』


「ん、私の将来のツガイ候補だから輪廻に返すつもりもない」

『気が早いわね、シオン…』

「気が早くなるのも仕方がない。だってゼノ君は…ふふっ」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 あとがき

 はい、冰鴉です。


 裏でリアちゃんのステータス考えてたらバカ強くなっちゃった…

 ちなみに言うとフィリアさんであっても万が一でも勝てないのがリアちゃんなのです。お遊び感覚でフィリアさんを圧倒しながら戦いますから、あの子。となるとよく生き残ったよね…主人公…


 ちなみにですがステータスを公開するつもりはありません。限定公開でもね…

 ワンチャン物語の最終盤で出るかもしれないけどね。

 あと話の流れ的も分かるかもですが、リアちゃんは世界樹こと「セシリア・グロウ」の分体では無いです。(作者が思ってた以上に世界樹の分体だと思われてた…)

 世界樹は特に何も行動起こさずに自分の住処でのほほんとしてますよ。


 所で話が変わるんですけど龍って結構独占欲とか執着心が強いって印象を受けません?金品を集めたりとか所有物を心底大事にして巣に置いたりとか…

 さて、主人公に付与されている聖印と霊印ってのは一体なんなのでしょうね。ただのお助け装飾じゃないですよ?ただの装飾じゃ称号に現れませんから。


 それとちょっとお知らせなのですが、少しの間この育りゅうの更新が不定期になるかもです。


 魔人の国以外の人の世でのフラグはある程度回収してひと段落着いたところでして…第二章の【人の世】がここで終わりな事もあってちょっと書き切った感があるんですよね。


 もし筆が乗り始めたら毎日投稿になるかもです

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