第49話恐れられる罪龍

 プライム王国・医務室にて起きた女性side


「私は殺されたのね…」


 医務室のベッドの一角にて1人の女性が目を開ける。

 その女性は右腕が欠損していた。


「はぁ、私も全力だったんだけどねぇ。大罪ってのはヤバいわね、蒼炎と炎破壊魔法を使っても殺せないだなんて」


 魔力管理が厳しいが初手から蒼炎を使って全力で戦ったのに勝てなかったのだ。

 それに途中から私を逃さないためかあの龍が結界を張ったから周りの被害なんて気にせずに無差別破壊に特化した火属性魔法を使ったにも関わらず殺された…蒼輝炎剣を使ったのにも関わらず有効打も与えれなかった。


「私より強い存在がいるのは重々承知してたけど…大罪に芽生えて1年も経ってない存在に負けるなんてね。それにこの神代遺物も使っちゃったわね」


 そう言って横にある大型の魔道具を見る。


 不思議な形をしていてどんな構造か全く分からない魔道具、それは太古の…それも神話時代の物ではと言われる魔道具だ。プライム王国と言う大国と言えど、この一つしか見つけれていない神話遺物。


 その効果は死の無効化。身体の劣化、つまり老化などの寿命による死でなければ数回分の死を無効化して機械の元で蘇生される代物だ。


 あまりにも希少な物が故に普段は王がもしもの時に使う魔道具だが今回は私に使われた。幾ら私がこの国の個人戦力で最上位を争う人物だと言えど使うのは勿体ないと思える程の物。


 それを使ってしまったのだ。


「にしても腕は生えないのね。あくまで死の回避と致命傷の除去のみって感じかしら」


 あの時、死ぬ理由となった腕の消失はそのままだ。右腕が無くなっている。

 ボーッと無くなった右腕を見ていると何やら来客が来たようである。


「ルミナ・アンブラルよ、そこに居ると言うことは討伐は無理だったか…死を経験させてしまってすまんかった、そして任務ご苦労であった」


 そう言って現れたのはプライム国王だった。

 国王だったのだが…


「えっと、陛下…大丈夫ですか?顔色がすごい事になってますけど」

「大丈夫ではないかもしれん…」

「…何があったんですか」


 国王は非常に憔悴した顔になっていたのだ。いつも自身と威厳に溢れて我が国の繁栄を手にしてきた人物とは思えない程の状態であるのだ。


「師団長のルミナには言っても大丈夫か…実はお前達が出陣した後に理の間にて新たな通知が来てな」

「新たな大罪が出たと言う事ですか。私は流石にすぐには出れませんよ?」

「あぁいや、出なくていい。他の兵達の証言と過去の文献から見るに全ての大罪は今回討伐に向かった龍が持っておるのだ」

「あの龍が全ての大罪を…一体何の大罪なのですか?」


 怠惰だけだと思っていたが嫉妬も持っていたそうだ。私にとって未知の力が二つ…いや、陛下が言うには三つだろうか?


「怠惰と嫉妬、これが以前確認された権能だ。この二つがかの龍が持ってることを確認できた。そして新しく確認された大罪は傲慢と色欲だ、この二つも龍が持ってる事を確認出来た」


「…つまりあの龍は四つの大罪を持ってるって言うんですか⁉︎」

「その通りだ。そしてそんな存在に手を出して討伐出来なかったのだ…かの龍の暴力の矛先がこちらに向くのは時間の問題だろう」


 陛下がなぜ憔悴しきってるのかは分かった。国がなくなる事を予見してるからこその状態なのだろう。


 だがふと私は思う、私が起きるまでに数時間は経ってるはずだが龍ならばその時間以内に王都へは来れるし混乱を齎せるだろう。


 だがそんな感じは一切ないし平和だ。それに戦ってる時の節々から知性を感じた…と言うか私が死ぬ間際に短いが会話が出来たのだ。


「陛下、多分その心配は無用かと」

「気を紛らわすにしてもそう言われてもな…」

「ちゃんと理由はありますよ。まず相手は龍です、私が目覚めるまでにこの王都に来て暴れる事は出来ますけどそれは見られないですしそもそもとして私が戦った時に知性を感じれました。そもそも軍もあの龍には察知されてたでしょうけど私達が攻撃するまであの龍は動かなかったのですから無闇矢鱈と襲う存在ではないかと」

「そ、そうなのか…!」


 陛下の目に希望の光が宿った。本当に疲れた顔をしている、陛下はこの国の中枢なのだから早く休める様になってほしいのだが…


「えぇ、ほんの少しだけですが会話も出来ましたよ。これは勘ですけど敵対するつもりがないなら手を出さない方が良いかと」

「流石にもう手を出すつもりはない、大罪を四つ持ってる事とお主がやられた事からもはや我々に手に負えないことが分かりきってるのだ。触れぬが吉、と言うやつだろう」

「良き判断かと」


 まぁこれは希望的観測、確実な証拠も無いしただの理想の話だ。可能性はあるし願うならばこの王都に襲撃が来なければ良いなと思ってる。


 そうは言ったが個人的にはあの龍にはまた挑んでみたい物だ、私の蒼炎は破られたがまだまだこの蒼炎は成長出来ると思っている。自身の魔法を極めて再戦を申し込む…長らく無かった私の目標が出来たのであった。


 これは私がどこまで行けるのかの確認。決して討伐が目標ではない…

 討伐は各国の強者、それですら無理なら聖銀龍様に祈るしかないが少なくとも討伐が出来ずとも世界が滅びる事はない。


「私はまだまだ弱いな」

 失った右腕を見て呟く。失った右腕に燃えない程度の温度の不思議な炎で義手を作る。


「だけど私はまだまだ強くなれる」

 ステータスを見てそう呟く。ステータスにはこう表示されていた。




【蒼炎魔法lv0】と…

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