第39話翼脚を付けた人なんて居ないからそりゃ目立つよね

 今俺は王都の検問を過ぎて宿屋までの道を歩いてるのだが…


(…めっちゃ見られてる。翼脚を生やしたからか?)


 めちゃくちゃ見られるのだ。

 この世界には龍人と言う種族も居る。龍の特徴と強さをある程度引き継いだ人族なのだが、それでも見た目は龍のツノに翼に尻尾を生やした人となっており、特徴的な見た目なのだが今の俺に関しては翼脚だけだ。


 龍人の誇りとされるツノが無いし、翼も翼脚なのだ。そりゃ不思議な目で見られてもしょうがないと思うけども…それでも見られ過ぎな気がする。


(んー…あっ、怠惰の瞳のままだったか。そりゃ確かに瞳が水色に輝いていやたら気になるわな)


 目を深く閉じて怠惰の権能を解除する。そして瞼を上げるとかなり暗かった。


(うっわ暗いなぁ…こう切り替えると権能の便利さってのが分かるな)


 こちらを見る目が少なくなった所で宿屋へと着く。

 普通に開けて中に入ると店主と看板娘達が後片付けをしていた。他の客の食事の後片付けだろうか?


「ん?おぅ、お前さん遅かった……な?………っ⁉︎」

「ちょっと所用で遅れてしまってな。……なぁ店主、なんで俺に向かって跪いてるんだ?」

「そっ、そりゃお前さ…いや、貴方が首につけれるそれは聖銀龍様の…」

「んにゃっ⁉︎聖銀龍様の聖印⁉︎」

「なんで人族がそれを…いや、その前にその黒い翼みたいなのは何…?」


 店主が俺を数秒くらい見つめた後に急にその場で跪いたのだ。

 それに合わせてシィも首に付いてるチョーカーを見つけて即座に跪いた。


 スゥだけはかなり驚いてるが割と冷静に見れてるらしい。聖印だけじゃなく翼脚の方もちゃんと認識している。


 これは後で聞いた話なのだがスゥはシィとソルほど信仰心が強いわけでは無いとの事。二人は銀猫だからか聖なる【銀】の象徴でもある聖銀龍を一際強く信仰してるらしい。


「あー…とりあえず元に戻ってくれないか?対応を前と同じにしてくれるとありがたいんだが」

「うっ、うぅむ…お前さんがそう言うならそうするしかないな…不敬とか言わないでくれよ?」

「にゃぁ…聖印、初めて実物を見たにゃ」


「これってそんなに凄いものなのか?」

 なんか反応的に敬う対象にさせられてる感じがするのだ、悪くはないがムズムズする。特に昨日とか一緒に雑談に興じた相手だと余計にそう感じる。


「凄いなんてもんじゃないぞそれは…四神の伝承だと特に密接な関係にある者に送る印だからな、言わば神と深い関係の証なんだ。俺ら信者から見れば神の使徒を表してるんだよ」


 なにそれ、大騒ぎになりそうじゃんこの聖印。流石に祭り上げられて動き制限される可能性もありそうだな。

 フィリアさんからしたら人間の味方を付けるための手段的な感覚で授けたのかもだけどちょっとめんどい…


「流石に使徒扱いは困るな…隠すか」

 怠惰の権能でチョーカーを覆って隠蔽する。怠惰は隠蔽や偽装と戦闘などを避けて楽する権能がかなり多いのだ。


「水色の…霧?いや、聖印を隠すのはどうかと…お前さんの決定ならなにも言えんか」

「ん?その翼はにゃに?」


 どうやら聖印が消えてようやく翼脚に目が向いたらしい。

 店主も気になる様だが聖印の印象が強すぎたからか一旦整理がてらに料理作ってくると言って厨房に入って行った。


 そしてかなり興味津々に聞いてくる看板猫耳娘二人にある程度説明をする。


 聖銀龍の関係については『俺が特殊な力を持ってて目をつけられた』と言って翼脚に関しては『その特殊な力の一部』と言っておいた。


 フィリアさんの子供と言ったらマジで大変な事になりそうだ…聖印のおかげで信憑性も高まって崇拝対象にされかねない。


 別に崇拝されて悪い気分にはならないがこれで崇拝されちゃ聖銀龍の名を借りてるだけであって俺自身が何も成しちゃいない。


 フィリアさんは母としての試練と言って私に並べと言っていた。ならば聖銀龍の名の元で動くのは少し違う気がするのだ。


 どうせなら成り上がって並んで見たい。神龍であるフィリアさんが無限の可能性を持っていると言っていたのだ、きっと出来るはずだ。




 そうして料理を持って戻ってきたら店主に料理を食べながら同じ説明をして夜遅い事もあってすぐに寝床に着く。



 王都での生活は聖銀龍と出会い、新たな決意と共に始まるのであった。


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 聖銀龍:フィリア・スノウライトside


「それでね、大罪を孕んだのは私の子だったわ」

「…何やってんのフィリア」


 ここはとある島のその中心。穏やかな生態系が構築された楽園とも言えるこの場所の中心で私は中心にある大樹の元で1人の少女と話をしている。


 ちなみに人型だ。龍の姿だと身体が大き過ぎて大樹の根を傷付けて怒らせてしまうのだ。


「だから子育ては大変だって言ったのに…しかも産んだ場所があの森林って…」


 そう言って私に呆れてる目の前の少女は世界樹の名を冠する『セシリア・グロウ』、その分体(人型)だ。


 ちなみに本体はすぐそこにある大樹。この子平穏を乱す存在が現れない限りなかなか動かないのよね、怠惰の権能が似合いそうなのに持ってないのが不思議…私の子は持ってたのに。


「しょうがないじゃない、あの森って私の生まれ故郷でもあるのよ?どうせならそこで産みたいじゃない」

「それでも世界一危険な地で産むのはおバカ、結局盆地で育ててた」

「まぁ、そうなんだけども」


 この子と私は対等だ。私が本気を出してもこの子が守りに徹すれば私は突破できない。まぁ戦う意味がないから突破出来なくてもいいのだけども。


「それで、その子は殺したの?大罪の龍なんて邪龍でしょ?」

「あぁそれがね、邪龍化してなかったのよね」

「…?」

「魂称号持ちだったのよ、大罪もレジストして意図的に邪龍進化を避けてたわ。それも異世界の魂、突然変異もしてたから将来私達に並ぶかもしれないわよ?」

「……結局脅威じゃない?」

「邪落の道は消したし大罪の蝕みも消した。あの子自身は善性だったから大丈夫よ、心配なら貴女自身で監視したらどう?」

「ん……めんどくさい」

「…貴女本当に怠惰ね」


 そんな会話をしながらお茶を飲む。世界樹の葉で作ったお茶なのだが…セシリアが飲んでるのを見てて

 思うのだが自身から採れた物で作ったお茶に何も感じないのだろうか?

 私からしたら自分の鱗を食べる様な物なのだけど…


 まぁ美味しいからいいか、多分だけど世界一美味しいお茶はコレだし。


「ん、とりあえず脅威にならないなら良い。深海の引きこもりは言わなくて大丈夫だろうけど創作バカには報告しときなよ」

「勿論そのつもり、にしてもやっぱりここは良いわね…ここに住んじゃダメ?」

「ダメ」


 そんなこんなで子育てした感想などを報告しながらお茶を飲んで過ごす。


 相変わらずここはのどかで良い。でもここに住むのは許してくれないのよね、生物達が怯えるって言われて許してくれないのだ。

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