第22話優しい冒険者は困る

 レティside


「どうしよう、これ…」

 とりあえず今泊まってる宿に帰ってきて鍵を閉めたあと、渡された物に目を向ける。


 私の目の前には10枚ほどの黒い鱗、ドラゴンの鱗と言われた物が置いてる。


 これは魔物の居る草原で寝てた記憶喪失の男の子に貰った物だ。

 黒髪に赤のメッシュが入った少し気怠げな…ダウナー系って言うんだっけ?そんな男の子。


 私より年下なのに私と同じレベルなのだ。聞いた時は驚いて固まったけど後で思い出してほっぺムニムニしてやろうかと思った。


 私は自身に掛けている隠蔽を解いてその鱗を見る。

 私、レティことレティシアは刺激を求めて里の外を飛び出してきたエルフだ。


 同胞がその姿のままじゃ拉致られるから!と凄い説得していたけどいつの間にか芽生えてた人徳の権能って言うスキルを使って姿を変えたらなんとか納得してくれた。

「うぅ…その姿でも危ないよ…」て言ってたけど。


 本当に龍の鱗ならば正直私には過ぎた物だ。

 龍の素材はかなり高値で売買されており、希少なドラゴンとなればオークションにかけられるレベルだ。


 刺激を求めて外に出たただの一エルフには扱いの困る物である。

 刺激と言ってもこんな刺激はちょっと求めてない。困り果てりちゃう。


 とりあえず鱗を一枚だけ残してスキルに他の鱗を収納する。このスキルも権能って言うやつの一つ。凄い便利。


「うん、ギルドに鑑定してもらおう」

 そうして私は宿を出る。勿論隠蔽は掛けている。



 -----------------

「えっと…レティさん、ギルドマスターがお呼びです」

「…へ?」


 ギルドで鱗に鑑定を掛けてもらってる間にゼノ君居ないかなぁと思いながら過ごしてると受付嬢さんがそんな事言ってきた。


「えっと、呼び出し?」

「はい。持ち込んだ素材の事でだそうです」


 …ゼノ君、ほんとに君は何を渡したのさ。




「さて、レティ君。君はこれを何処で手に入れたんだい?」


 私の目の前には男装をした美しい女性がいる。


 この人はこの冒険者ギルドセレス支部のギルドマスターで元Aランク冒険者.


 そんな人に私は事情聴取されてる。


「えっと、ちょっと手助けをしたらこれを貰いまして…」

「君が優しくて街で評判が良いのは知ってるがそれでもこれがお返しだとしてもあまりにもこれは度が過ぎてるんだよ」

「えっと…そこまでの物なんですか?この鱗」

「下手したら王族すら欲しがるかもしれんぞ、この鱗は」


 王族⁉︎なんでそんな物持ってるのゼノ君!


「…聞くの怖くなってきたんですけど一応聞きますね、一体これは何の鱗なんですか?」

「あぁ、この鱗はな…アームズドラゴンの鱗だ。若い個体ではあるが」

「アームズドラゴン?」


 アームズ…武器って事?ドラゴンなのに武器?


「その、ドラゴンなのに武器を使うんですか?」

「あぁそう伝えられているな」

「伝えられてる?」

「そう、ここからが問題なんだ」


 なんかすっごく聞きたくないんだけど。もう怖いよこの鱗…そういえばゼノ君これいっぱい持ってるって言ってたよね。何で???


 とりあえず覚悟を決めて聞く姿勢に入る。


「アームズドラゴンと言うのはな、武器を扱う龍だと伝えられていてその情報量は非常に少ないんだ」

「情報が少ないんですか?ドラゴンなら仕方ないと思いますけど」

「既存のドラゴンの情報とは比にならないほどの少なさなんだ。その情報は武器を扱う事と他のドラゴンとはかなり異なる骨格をしてるって事だけなんだ」

「二つだけですか?」

「この二つだけだ」

「えっと、何でですか?」


 聞いたら後戻りできない気がするけど好奇心には勝てない。話し方が上手いんだよね、このギルドマスター。


「聞いて驚くなよ、どれだけ過去の文献を漁っても、どれだけ探索しても発見された例が過去、それも遥か昔に一体か二体程度なんだよ。つまりアームズドラゴンの素材は今此処にあるこの鱗が唯一の素材と言う事になる」


 …ほんとに何渡しちゃってくれてんのさゼノ君!


「ギルドマスター」

「…なんだ?」

「どうしましょうか、これ」

「知らん。オークションにでもかけろ」

「絶対騒ぎになるじゃないですか!ギルドで買い取ってくださいよ!」

「買い取れるかこんなもん!あまりにも希少過ぎて値が付けられんわ!」

「そんなこと言わないでくださいよ!どうするんですか、私これあと10枚程度貰っちゃってるんですよ!」

「何でそんなに希少な物を貰ってるんだ…!もう家宝にでもしとけ!」

「もうそうした方が良い気がしてきました…」


 再度ギルドマスターが「で、何処で手に入れたんだこれ」と聞くが私はひたすら困った顔で「貰ったんですよ、これ」と言うのであった。


 その後のギルドマスターの信じられない物を見た表情をして「マジか…」と言っていたのが凄い印象に残った。


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 とりあえず取調室を出てギルドのロビーに出ると黒髪に赤のメッシュが入った子供の姿が受付に見えた。


 とんでもない素材を手渡してきたゼノ君だ。

 ゴブリンの耳とホーンラビットの角を提示して報酬を貰ってる。

 あの鱗を売った方がお金になるのに。ついでに私に手渡したのも売って欲しい。


 するとゼノ君はギルドを出て行こうとするのでギルドを出たところで私はゼノ君の服の襟首を掴んで言う。


「ちょっと付いてきてくれるかな?ゼノ君」

「レ、レティさん…?」


 なんでさん付けなのかなゼノ君?さっきまで付けてなかったじゃない。

 そう思いながらゼノ君を引きずって宿屋まで行く。



 ちなみに後で聞いた話だがこの時の私は笑顔だったけど圧がすごかったらしい。少し震えて「もう怒らせたくないです」って言ってた。


 …私怒ってないよ?





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