ちょー美女と野獣 ☆Super-duper ♡Beauty Beast☆
野梨原花南
第1話 絶望の森 1
ジェムナスティ王には、王国の慣例に従い何人もの妃がおり、何人もの姫君がいた。
ダイヤモンドはそのうちの一人であったが、父にも母にも似ず、血縁の誰にも似ない容貌をしていた。
金色の、きつく巻いた髪、抜けるような白い肌、淵のような深い緑色の瞳。扇のような睫、何も塗らずとも桃色の唇、薄いばら色の頬。細い首筋に、完璧な身体のバランス。
爪は母貝の輝きを持ち、その手がひらりと動けば誰もが見とれる。
内から光り輝くように見える、美しい姫君だった。
その美しさはあまりにすさまじく人間の様ではなかった。
彼女の姿を見たものは、怖れた。
芸術品が動き出したら、きっと誰でもそうなるように。
彼女の母であるその妃は彼女を愛し、思いやりを持って育てたが、他のものは恐怖と悪意を以て接した。彼女の母は体調を崩し、五年前に彼女と離れた。
十六の年に、父王が広間に姫君たちを集めて言った。
「絶望の森で、人の言葉をしゃべる獣に助けられて、つい、姫をひとり、差し出すと約束してしまった……誰か、行ってはくれぬか……」
怖い、きっと食べられてしまうわ、どんな目に遭うか分からない。喋る獣だなんて化け物よ。ざわめき、悲鳴を上げる姫君たちの中から、ダイヤモンドが歩み出た。
「私でよろしければ、参ります」
暁の星が瞬くような、特別な音楽の響きを持った声で、ダイヤモンドは言って、しとやかに父王の前で頭を下げた。
他の姫たちが嘲笑する。そうよあの子がいいわ。お似合いだわ。だってあの子気持ちが悪いもの。この間、あの子に、腐った煮物を頭からかけたのは誰? あの子臭くて咳き込んでたじゃない。私、おかしくて笑ってしまったわ。私もよ。
「ダイヤモンド……! なんと健気な! すまぬ、すまぬな……!!」
「よいのです、お父様。すぐに出立致しますわ。お父様のお役に立てるのなら嬉しゅうございます。永の別れとなりましょう……ダイヤモンドは寂しゅうございますけれど、どうか、お父様に変わらぬ健康と栄華がもたらされますよう、心から望んでおります」
父王は涙を浮かべて頷く。
「すまぬ……!! すまぬ!! 余は一生お前に感謝をし続けて生きるぞ!! お前は物語の主人公にもなるであろう!! 国で一番素晴らしい支度をすぐにさせよう。宝石で馬車を飾り、布令を出して、民たちに旗を振らせてお前の名前を叫ばせよう」
姫たちが、どうせ死んでしまうのだから、そんなものはいらないでしょうと、妬み、歯がみし、憤る。
「いいえ、お父様。お父様のそのお心だけで、充分でございます。私の馬を、森の入り口までお借りします。あの子も、元はお父様が下さった子ですから、お返し致しますわ。賢い子です、一人で帰れるでしょう。乗馬用の服と、いくつか必要なもの、そのほかに、ドレスと飾りを一揃い、持っていってもよろしいですか。それが私の婚礼の衣装となりましょう。その、獣との……!」
そう言ってダイヤモンドは両の手の平に顔を埋めて、泣いた。
「すまんの、ダイヤモンド……」
「西の療養所におられます、お母様によろしくお伝え下さい……。それでは、支度をして出立致します。お父様、皆様、これにて
ダイヤモンドは、ほろほろと涙をこぼしながら、早足で去った。
「ダイヤモンド、すまぬ……父は、無力だ……!」
と嘆く父王に、姫たちが一斉に近づいて、私たちも寂しゅうございます、かわいそうなダイヤモンド、と、嘘の、慰めと悲嘆の言葉を紡いだ。
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