第37話 魔剣セージグリーン
結局、地上では日が暮れた時間になっても、救助隊が来る気配はなかった。
「よくぐっすり眠れるもんだな」
羽澤の就寝を確認した後、ボクは一人で洞窟を出て、伝説ステージへと足を踏み込んだ。
ウンディーネ本体は、正直弱い。
エレメンタルはその生態が属性要素を纏ったものであり、水属性以外は攻撃するだけでこちらにもダメージが帰って来るのだ。
それでもエレメンタルの中で★5はウンディーネのみ。
その特徴は、エレメンタルでありながら、水に面していればモーション無しの遠距離攻撃を可能とするからである。
ボクが持つモンスターカードに有効なものはない。
とはいえ、勝てる見込みはある。
『魔剣 セージグリーン★★★★★』
クリエイトツールEXで作製したこの装備は、現状ボクの持つ最高戦力。
慈雨からは、原作では第10層で特殊ステージが出現すると聞いていた。
これはその事態が思った以上だった時用に持ってきた訳だが……より困難な状況に陥ってしまったからな。
ゴールデンスライムによるレベリングで、一撃で倒されることはないだろうけど、それでも余裕の戦いになんてことにはならない。
そもそもソロで挑むモンスターじゃないし、ボクがいくら知恵を絞っても勝てないかもしれないと考えていた敵の一例なのだから。
夜の時間になっても、ダンジョンの中は明るく、エレメンタルに睡眠は必要ない。
前日の睡眠も削っているボクの頭は冴えていないし、不利なことも多い。
だが――――
「魔剣の力を見せてやる」
『サモテン』時代に用いたユーザーネーム『セージ』が付いた名前の装備品で、ボクのお気に入り。
後々では『紅冥神刀』に切り替えたとはいえ、この剣はきっちり強い。
装備としての追加ステータスは攻撃力10%と低い。
本来の装備が持つ追加ステータスは、★の数×10%分が、攻撃力や防御力に振り分けられる。
そう考えるととんだ欠陥品だが、この装備には加えて特徴的な装備効果が存在する。
成長型――『サモテン』におけるエンドコンテンツの一つとして数えていい、クリエイトツールEXを素材とするしか作製できない希少装備の一つが、この魔剣なのである。
ステージの中、足場に出来る地面を見つけては駆け巡り、ウンディーネの攻撃を待つ。
すると、水面積の広い部分に渦巻きができあがり、やがて地上の地面を覆うほどの波を引き起こした。
「見つけた」
ボクは攻撃が始まった瞬間、水面上の端から端までを見渡し、その中にキラリと光る何かを発見する。
ウンディーネに攻撃モーションはない。
が、その存在は水面上に姿を現しボクを捉えなければならず、エレメンタルは常に光っている。
すぐさま波の届きが遅い経路を計算し、遠回りで本体の元を目指す。
だが――――
「っと、とと。そんな甘くいかないか」
経路先の足場の一部に、水の柱が立った。
同時に背後からは波が遅いかかり、窮地に立たされる。
頭が冴えていないせいで、やや判断を誤ったようだ。
ボクはアイテムカード『避水針』を取り出し、背後へと投げつける。
『避水針』は水属性の命中率が存在する直接攻撃を誘導させることができるアイテム。
波は既に大きくなっており、直接攻撃とは言い難い。
そのため意味が無いように思えたその瞬間、襲い掛かってくる大波を前に水の柱が立ち、これにより大波による攻撃も防ぐことに成功した。
「やっぱりな」
先ほどのボクの経路を潰す攻撃といい、ウンディーネはモンスターの中でも、かなり賢い部類だ。
だから、囲まれたボクに念の為、水の柱による攻撃を繰り出してくると思っていた。
「ソロでこいつと戦うのは初めてだが、さすが伝説ステージといったところか」
正しく言えば、『サモテン』でも11層に挑戦する頃には英雄シェナを所持していたこともあり、攻撃の対処は彼女に請け負ってもらっていたという意味で、ボク単体のソロでは初めてという意味である。
「けど、もう慣れた」
波の攻撃が去ってすぐ、ボクは経路を逆走し、より近い方向へと直線を定めた瞬間、魔剣を振り下ろして斬撃を飛ばした。
斬撃はウンディーネには届かず、水面が割れるのも一瞬で終わる。
だが、この攻撃の意図は、足場作りだった。
このステージは古代都市が水に埋もれた舞台であり、水面下には建物がある。
当然、建物を壊せば、その欠片は水面まで浮いて……それが足場になってくれる。
実はさっきまで、走りながら並走して魔剣を水面に突き刺していた。
成長というのは攻撃力だけの話じゃない。一時的にでも適応性を持った魔剣は、水による抵抗を限りなく減少させたのである。
足場が作られたことを悟ったウンディーネは、次に水の渦を数個作り出して足場を壊しながらの攻撃をしてきた。
やはり奴は賢い。
だが、ボクはその賢さを信じていた。
『風車★★』
そのアイテムは、風属性攻撃を受けて、その方向へとそのまま風を受け流す。
水の渦はあくまで水属性攻撃だが、空間で使用すれば風の流れが出来上がる。
アイスウィングの《吹雪》もそうだが、風は色んな属性との相性が良く、また得てして生まれてしまう攻撃でもある。
風の流れを下へと誘導したボクは、水の渦よりも高く空中へと打ち上げられ、風の対流を読みながら超高速でウンディーネ本体の元へと辿り着いた。
「おらっ!!」
魔剣を振り下ろし、一撃でウンディーネを仕留めた。
賢さと攻撃の手数、そして物理攻撃無効を持つウンディーネは、たった一撃で、撃破された。
魔剣はその名の通り、魔法の剣だ。
無属性の装備であり、魔法のような攻撃が打てるわけではないけど、魔法を斬ることができる。
さきほど水面を斬りながら走ったことによる適応性のバフがあったこともあり、簡単に撃破できたのだろう。
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>伝説ステージ『冥界蜃気楼』が踏破されました
>MVPが計測されます・・・
>入場者2名
>ユーザー『四辻聖夜』に踏破報酬『ダメージポーション』が進呈されます
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固定ステージではないので、ボスモンスターを撃破した瞬間にアナウンスが流れた。
踏破報酬はハズレだった。まあ、そういうこともあるか。
とりあえず第一段階クリア。
朝になる前に、階段を探して、そこまでの道を攻略しておこう。
羽澤への言い訳は……無関係な誰かが倒してくれたことにしておこう。
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
・『装備効果一覧』
物理攻撃力10%~50%
魔法攻撃力10%~50%
防御力10%~50%
改心率10%~50%
改心ダメージ10%~50%
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
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