第34話 予期せぬ邂逅
【ダンジョン第10層】
10層に入ってすぐ、野生のサラマンダーと遭遇するも、運よく戦いを避けることが出来たボク達のグループは、慎重に行動する。
「先輩! この階層で一番気を付けるべきことって、やっぱり戦闘なんですか?」
「良い質問だね、美憂ちゃん。私的には気構え……とか言いたいけど、現実的な話で言うと『白い土』が厄介だね」
10層にのみあるトラップであり、その効果は11層へと落とされるというもの。
それだけでは命の危険性などないが、11層以降はランダムステージが点在し、何の準備も無しにソロで挑めば、生還不可能と言われている。
相変わらず『色付き土』のトラップは、すべてが即死級と呼ばれるのも納得の性悪を誇る。
「だから、慎重に……10層で先頭を進む人の役割は、足元を注意深く見ておくことだからね」
「なるほど! 参考になりますっ!!」
『白い土』を除いても、ここは星4以上のモンスターが跋扈する階層だ。
姉川先輩ほどのユーザーであっても、まだ複数体相手にするのはキツいのか、或いはボク達の引率を兼ねている為、安全な道を辿ってくれているのだろう。
もちろん、モンスターに気付かれる場合もある。
出会したガーゴイルの飛びかかりに対して、姉川先輩は即座にカードを切った。
「《ツルトラップ》!!」
対象の体重によって身動きを止めるトラップ系のアイテムカードを使った後、彼女はすぐに『英雄シキミヤ』を召喚した。
英雄はスキルを使うことなく、扇型の武器で数回攻撃していると、ガーゴイルは撃破され消滅してしまう。
なぜか隠れながら同行していた慈雨が、ガーゴイルを睨んでいた。
そういえば彼女にとって因縁の敵だったか。
「さっすが姉川先輩! スキルも使わないで、めちゃめちゃ強いですね!」
興奮気味に寄る羽澤に対して、先輩は苦笑いをする。
「知ってると思うけど、シキミヤのスキルはサポートの為のものだから」
「あたし知ってますよ〜、自身にもバフかけられるんですよね?」
「んまぁそうなんだけど……ここだけの話、クールタイム長いからあんまり使えないんだよね」
ダンジョンライバーでもある姉川先輩の情報は世に出回っているが、それでもすべてを明かす訳ではない。
自分の弱点や切り札は隠しているみたいだ。
「でも折角だし、見せちゃおうか」
「ほ、本当ですか? みたいみたい!」
「うん。じゃあ弟くん、召喚してくれる?」
「ぼ、ボクがですか……」
なぜか巻き添えをくらい、仕方なく『サーペント』を召喚した。
自分のモンスターがスキルをかけてもらえるんだろうと思っていたらしい羽澤からは、ひと睨みいただく。
……ボクは何も悪くないんだけどな。
「それじゃあ《強化》!」
シキミヤのスキルをかけられ、シーペントの身体の輪郭が少しだけ光ったように輝く。
見た目も綺麗になるが、この英雄のスキルが普通のバフと違うことをボクは知っている。
「よし。じゃあさっきのところ素通りしたサラマンダーと戦いに行こっか」
さっき斃したガーゴイルには見つかってしまったが、サラマンダーは10層に入ってすぐに出くわすも、遠回りで無視した相手である。
「ちょ、ちょっと待ってください姉川先輩! 流石にスキルを過信しすぎなんじゃ……」
大人しくしていた夏堀が、先輩に反発した。
後ろの2人も不安そうな顔をしている。
「安心して! 何かあったら、ちゃんと私が守ってあげるから……先輩として、ね!」
実際その通りだろう。
シキミヤは水属性だから、サラマンダーと相性がいい。
同属性のガーゴイル相手ですら、アイテムカードを上手く使って軽く遊べるレベルだ。
ボクのサーペントのレベルは低い……が、姉川先輩がそういうなら大丈夫だという確信が、ボクにもあった。
「ボクも★4モンスターを斃してみたいと思っていたので、挑戦してみようと思います」
ボクの宣言に、夏堀は呆れた顔で戻り道へと目を促した。
なるほど……やはりシキミヤのスキルの詳細については、姉川先輩も秘匿しているらしい。
シキミヤのスキル《強化》が普通のバフと違う部分。
それは――――
「え、どういうこと?」
「何んだよ、この威力……」
「一撃だなんて、やるね〜」
姿が見えたサラマンダーに対してボクは、サーペントにスキルの《毒攻撃》を打たせた。
しかし、普通のサーペントが使うソレとは違うスキルが繰り出されたのだ。
それも無理もない。
すべては、英雄シキミヤのスキルが原因である。
その特性は、対象モンスターに英雄シキミヤのステータス分の加算と、スキルに水属性バフが付くこと。
では、先程羽澤が言っていたシキミヤ自身へのスキル使用はどうなるのか。
答えは簡単……すべてのステータスが2倍となり、水属性ダメージに限っては4倍にも上がる。
……チートバフだ。
『サモテン』の時も強すぎると言われたが、着物のせいか身動きが遅いのと、当たり判定の大きさで許されていた。
「よし、それじゃあ次は全員で強力して★4モンスターを斃してみよっか!」
「あの……捕獲はしないんですか?」
「試してもいいよ」
宇六は先輩の強さに納得がいったのか、静かにやる気を見せていた。
対して涼しい顔をする先輩と、優しい目で見守る夏堀は弱いレベルで捕獲率が低いことを熟知しているんだろう。
それで無駄とは指摘しないのは、経験させてから教えようとしてくれているみたいだ。
少しずつグループの中でも協力しようとする雰囲気ができる中、ボクは背後から殺気を感じ取った。
隠れている慈雨じゃない。
その相手は、遠くから一直線にレイピアの突きを繰り出してきた。
「ぐっ!」
間一髪で避ける……ように見せる。
殺気を感じてからラグがあって、本当はもっと余裕で避けれたけど、あくまで偶然を装う為だ。
「ちょっ、弟くん!? 大丈夫? ……この子、英雄よね」
敵の正体は、ボクも知る英雄だった。
『英雄ハクア★★★★』
しかし、なぜ急に現れて攻撃をしてきたのか……考えが追い付かない。
すぐに姉川先輩がシキミヤを召喚しようとするも、ハクアがきた方向から君塚澪が現れた。
「やはり不意打ちには気付くわよね」
「あ、あなた確か……」
「1組の君塚澪です、姉川先輩。僭越ながら、そちらの四辻くんに決闘を申し込ませてもらってもいいかしら」
グループワークの途中に、君塚澪はソロでボクのところまで来た。
入学初日、ボクに転ばされたのが憎いようだ。
……ここまでとは思っていなかった。
「ちょっとちょっと! 今グループワーク中なのわかってる!? ここ10層! 危険だよ!」
「それでも、ここでないと彼に戦ってもらえないと思ったので」
どうやらボクと戦いたい……というだけなのだろうか。
それにしては、不意打ちは殺意があったと思うのだが……。
前々から彼女との衝突は避けてきたが、逆に鬱憤を溜めさせてしまったのかもしれない。
姉川先輩はボクの顔を伺いながら、困った顔を向けてきた。
まあ先輩は当事者じゃないし、そういった問題にはグループワークの範囲外だと判断したようだ。
姉川先輩の手前殺されることはないだろうし、適当に負ければいいだろう。
そう冷静に考えた時だった。
「《吹雪》」
背後から、冷たい風がハクアを襲う。
「なっ!? ハクア退いて! ……あなた、誰?」
嫌な予感がして振り返ると、そこにはローブのフードを深く被って、顔が見えないものの、明らかに魔法少女の衣装を着た歪な存在がそこにいた。
彼女の迷彩は、意識した相手には効果を無くしてしまう。
すなわち、君塚澪には……本人だとわからないとはいえ慈雨奏が見えてしまっている。
ここでボクが声をかける訳にはいかない。
何が起きているのかわからないのか、あたふたしている姉川先輩を見るあたり、慈雨のことが見えているのは、ボクと君塚だけらしい。
「《吹雪》」
ややこしいことになった……と思った途端、再び慈雨がアイスウィングに攻撃の指示を出した。
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