3rd ACT:ダンジョン&バトルファンタジー

第32話 グループ顔合わせ

 グループワークの日がやって来た。

 『サモテン』でそんなイベントは無かったが、原作小説にはあったらしい。


 どうにも、ダンジョン内や世界のシステムは基本的に『サモテン』のものだが、非転生者の動きは原作小説から受け継いでいるものらしい。


 ダンジョンの入り口5つに分かれた、1学年の生徒達。

 ボクや夏堀もまた、グループでまとまって1つの入り口の前へと誘導された。


「という訳で、大分ダンジョンに慣れてきた君達1年を、僕ら3年生が引率して10層を体験するのが、今回のグループワークだ」


 さっそくダンジョンへ……とはならず、高い位置に登壇して話をするのは、ボクの兄でもある四辻朝日。


「緊張するのも無理はないけど、いきなり10層へ行くじゃないの。まずは私達が管理する工房へと案内するから」


 ――姉川琴葉。

 以前、慈雨に見せてもらったライブ配信にも映っていた女性であり、とても有名な配信者だ。


「こら。まだ説明の途中だよ、姉川。君達には5人で1グループを作ってもらったけど、グループ毎に1人の先輩が付く事になっているんだ。3年だと頼りなく思われるかもしれないけど、引率する僕らは全員が1組……学年のトップ層だから、安心して10層を体験してほしい」


 兄は優しそうな顔で懇切丁寧に説明した。

 ボクとは違って目つきも悪くないし、これではただのイケメンだ。


 物語であれば、こういう奴には裏の顔がありそうなものだが……それにしては実績が強すぎる。


 姉川先輩と兄はよく2人で組んでおり、その実力は6年生並みとも言われているらしい。

 この学園で7年生き残った者がランカーレベルだと考えれば、どれくらい強いのかわかりやすいだろう。


「あの2人付き合ってるのかな」

「姉川先輩、めっちゃ美人だよなぁ」

「四辻ってアレでしょ……弟とは偉い違い」


 ちゃんとモブっぽい連中がモブっぽいことを言っている。

 ……ここに転生者が混じっていたら、ボクは悲しい。


 まあボクが散々自分勝手な態度を取っているのは本当だし、仕方ないんだけどな。


「それじゃ、早速グループ毎に引率する生徒を決めようか。みんな、希望があるなら言ってほしい」


 兄がそう言うと、真っ先に挙手する左手が真横から。


「はいはーい! 夏堀のグループは四辻先輩を希望したいです!」

「君達は……ああ、違うクラスから集まったというグループだね。先生が心配してたよ」


 一応……学園の教師は、クラスごとに争っているように見せているからな。

 ボクらのようなグループがあれば、注目するのも無理はないのか。


「ほら。弟さんもいることですしぃ? 丁度よくないです~?」

「んー……そうだね……」


 兄がボクと目を合わせる。

 実際、家ではどういった兄弟関係だったのか知らない為、ボクから声をかけづらいのだ。


 というか夏堀の奴……授業に先輩が付く事を知っていて、わざとボクに声をかけたんじゃないだろうな?


「えー!? 四辻の弟がいるってホント? 私が引率させてもらってもいいかな?」

「お、おい姉川……」

「何? 弟くんとは、幼少期の頃から喋ったことがないって言ってなかった? 仲良くないでしょ」

「えっ?」


 驚いた声を零したのは夏堀。

 いや、ボクも知らなかった情報だった。

 公爵家という立場上、やはり前世の家族関係とは大きく違うみたいだ。


「そうなの?」

「まあな。というか夏堀……ボクをダシに使うな」

「それはごめんごめん……つい彼がイケメンだったからさ」


 意味がわからない言い訳だ。

 ボクにとっては、夏堀の方が充分イケメンだと思うけどな。

 まあ……落ち着きだったり雰囲気を加味すれば、兄に分があるのは否定しない。


「……姉川が引率する形でいいかな?」

「も、もちろんです……!」


 兄に言われた夏堀は、一瞬しょんぼりした顔を見せたが、すぐに立ち直って快諾した。

 すると、背後からボクの肩を押しのけて姉川の元へと押し掛ける存在が一匹。


「やたっ! あたし姉川先輩のファンで……いつもコトハチャンネル見てます! もちろんメンバシップにも入ってます!」


 羽澤美憂……彼女は物語のヒロインみたいだが、そんなミーハーっぽくていいんだろうか。

 ……いや、ソロとデュオもそう変わらないからだろうか。


 まあ……女性で人気のあるユーザー相手だ。

 惹かれるのは、もっとシンプルなのかもしれない。


「ありがとうね! 四辻の弟くんも、よろしくねっ!」

「あ、はい」


 ぞろぞろと、グループ毎に引率する先輩が決まっていく。

 そんな中、まずは自己紹介だろうと姉川先輩が提案して、まずはボクだったみたいだけど、何を言えばいいのかわからなかった。


 仲の良い友人の弟という立場は、中々難しいものである。

 すると彼女は、再び羽澤に目を向けた。


「えっと……確か羽澤さんと弟くんが同じクラスなんだっけ。やっぱり四辻の弟ってことは、代表とかなのかな?」

「いえいえ……その、こいつはちょっと問題児というか……ねぇあんた! 姉川先輩に迷惑かけたら承知しないんだから!」


 メインヒロイン……そんな三下ムーブでいいのか……メインヒロイン。


 ボクは言い返さずも、呆れた表情を作って見せると、姉川先輩が面白そうなものを見る目でこちらを見てくる。

 ……完全にボクらを子供扱いしているな。


「悪いですけど先輩、ボクは……というか、ボクらは基本ソロの集まりなので、10層でも好きに動きます」

「えぇっ!?」


 ボクの宣言に、唖然とする姉川先輩。

 どうだ羽澤……言ってやったぞ。

 とドヤ顔をしそうになったが、予想外の返答をされる。


「いや……あたし達は姉川先輩に引率してもらうけど」

「そうだね。いくら何でも、10層でソロは危険だよ」


 他の2名……2組の翠尾碧と3組の宇六白久もまた、うんうんと夏堀の言葉に賛同する。


 残念だ……せめて羽澤には、ソロへの憧れを止めてほしくなかったのにな。


「あ、あはは……弟くんは面白いなぁ。えっと君は……え? ダンジョン2層までしか潜ってないの?」


 姉川先輩はパッド型の端末で情報を見ているらしく、ボクのデータを見たのか驚いていた。

 それもそうだ……ボクは基本的に端末を持ってダンジョンへ入っていない。


 ほぼ初ダンジョンの記録のままである。


「あんた……よくそれで威張れたものね」


 さすがの羽澤も呆れ顔を見せた。

 翠尾と宇六からは、残念なものを見る目。

 夏堀は、感心するような溜息が聞こえた。


「まーまあまあ、弱くても大丈夫! お姉ちゃんがサポートするから!」

「あの……兄と付き合ってるんですか?」

「――――――」


 誰がお姉ちゃんだと思い、訊いてみると、カチンと固まってしまう姉川先輩。

 もしや失言だっただろうか。


「わ、わわわ、私は有名ライバーだものっ! 恋愛なんて……し、してないんだから!!」


 やがてすごい動揺を見せながら、言い訳をし始めた。

 結局、付き合っているのかどうかはわからないけど、どちらでもよくなってきた。


 多分、ボクよりもよっぽど姉川先輩の方が面白そうだってことは、グループのみんなにも伝わっただろうから。

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