第27話 主人公とヒロイン
ボクは夏休みの宿題を、初めの一週間で終わらせるタイプだ。
何を言いたいかというと、年間の必要出席数は前倒しに満たし、1学年末でサボる予定。
その為ボクは授業を真面目に受けている訳だが、困ったことが起きた。
「…………」
アイテムカード概論の授業――学園の授業でも『クリエイトツール』を扱う機会であり、みんなに合わせてボクも工作をしている。
そんな中、無視できない視線を感じ取った。
(そんなことの為に、『迷彩ローブ』与えたんじゃないんだけどな)
なぜか慈雨が教室の隅で、ボクの方をじっと見てきている。
『迷彩ローブ』を使用している為、周囲のクラスメイト達には見えていないが、強烈な視線でボクは気付いた。
強く意識した相手には姿が見えてしまう……という『迷彩ローブ』のリスクは説明したはずなので、多分わざとだろう。
「ねぇ、あんた四辻でしょ。次のグループワーク、よろしくね」
「ああ、よろしく」
この授業は偶々、クラスメイトとコミュニケーションを取らなければならない機会だった。
相手はこの世界のヒロインであり、夏堀に誘われたグループの一員でもある羽澤美憂。
羽澤は「よろしく」と言いつつ、ボクのことなど興味無さそうな顔をしている。
彼女が隣で工作をし始めてから……慈雨の視線がさっきよりも強くなった気がする。
「あんた、集中できてないんじゃない?」
実際、慈雨のことが気になって工作をきちんとできていない。
だが、『サモテン』で鍛えていた技術をここで披露しても、良いことは無いので、これでいい。
「不器用なだけだから、気にするな」
「よくそんな腕前で、えらっそうにできるわね」
逆に羽澤は、ヒロインにしてはツンツンしているというか、落ち着きがない。
わざわざボクに話しかけてくる必要も、なかったはずなのに。
「そういう羽澤は、出来たのか?」
「ふふんっ、ほら……『ルーン石★★』作れたんだから」
「……確かにすごいな」
クリエイトツールで製作可能なアイテムは限られているが、『ルーン石』は様々な効果を及ぼす消費型アイテム。
カードのまま使用可能だから、即座に使えて便利だし、ダンジョンで採用するユーザーは多いだろう。
ただ、ルーン文字を知らなければ、そもそも作れないという欠点がある。
……夏堀が目をかけた訳だ。
「でしょでしょ! けど、本当はあたしだって★3の『ルーン石』作れるんだから。なーんか気が散って実力を発揮できなかっただけなんだからね?」
「そ、そうか……」
羽澤が顔を近づけて、言い聞かせてくる。
同時に、遠くに見えた慈雨が不満げな表情を見せた。
部屋ではクラスメイト達との交流は避けていると伝えていたので、嘘を吐かれたと思われたかもしれない。
ボクは即座に羽澤の肩を掴んで、引き離す。
「ごほん、貴族の娘らしくないな、お前は」
「はあっ? あんたみたいなのに言われたくないんですけど! ……なんで夏堀くんはこんなの誘ったのかしら」
文句を言った後も、ブツブツと独り言を呟いているが、すべて聞こえている。
今まで関わってこなかったが、ボクの態度にも気圧されていないし、度胸もある。
これまで目立たず教室で静かにしていたのが、不思議なくらいだ。
「ちょっと美憂、四辻に喧嘩を売るようなことしてないかい?」
ここで二宮双真がこちらへと寄って来た。
羽澤が騒いで気付いたんだろう。
以前のことがあるのか、彼は少しボクに苦手そうな視線を送るが、こちらは無視した。
「別に~」
「美憂はすぐ喧嘩売るから、目を離している時心配になるよ」
なるほど……既に主人公である二宮双真とは知り合い或いは旧知の仲であり、これまで彼にフォローされてきたのだと伺える。
「はぁ、双真は一々構い過ぎなんですけど~」
「次のグループワークだって、勝手に決められちゃ……一言教えてくれば良かったのに」
「ふんっ、あたしは一人でもダンジョンで活躍できるから!」
仲が良いクラスメイトがいるのに、他のグループに入ったことにも、彼女の性格を見れば納得ができる。
……ヒロインにどんな能力を持っているのか調べてみたいと思っていたが、この性格を相手にするのは、中々骨が折れそうだ。
「慈雨の訃報から、立ち直ったみたいだな」
「……君の方から話しかけてくれるなんてね」
羽澤の目前で、二宮に煽るように言ってみせる。
もう覚悟を決め終わったのか、彼はもう平気だというように、それ以上の言葉は返してこなかった。
「そういや、あんた……慈雨が死んだ時、ソロで遊んでいたんですってね。それもすぐ地上へ戻ったみたいじゃない」
……よくご存知で。
でも、慈雨が死んだ時ってわざわざ前置きをするのは酷い言い方じゃないか?
まあボクは気にするようなタマじゃないけど、厭味ったらしいな。
「ボクは誰とも慣れ合わないソロだからな。それにすぐ地上に戻ったのも、怠けていた訳じゃない。むしろ、自分のスタミナ管理もできない奴はソロに向いてないだろ」
懇切丁寧に説明するも、気に喰わない返答だったのか、羽澤は不機嫌な顔を見せる。
「……あっそ。ソロ自慢お疲れ様~」
「お前が聞いてきたんだろ……」
彼女の性格や、夏堀のグループへ入ったことを加味するに、どうにもソロに興味があるのだろうか。
女子のソロは、中々厳しいところがありそうだからな。
多分、二宮含む周囲から反対されているのかもしれないな。
まあこの世界のヒロインなのだし、そう簡単には死なないと、ボクは思う。
ともすれば、ボクの回答は羽澤にとって期待外れのものだったかもしれない。
彼女はスタミナ管理ができそうには、見えないからな。
同じグループだし、少しお節介をするか。
「でもまあ自分を伸ばすなら、ソロで挑む方がいい。チームで動くと経験値が分散するし、自分の欠点が見えてこない。攻略時間を減らす分、他の時間を次のダンジョン攻略の為の情報収集にも使えるからな……ん、固まってどうした?」
羽澤はソロに興味があると予想していたが、勘違いだっただろうか。
しかし、ボクの声に反応して、二人とも我に返った。
「いや、あんたって意外と考えているんだなぁって……うん、悪くないじゃないのっ!」
「い、いてえ……」
共感してくれたのか、羽澤が思いっきりボクの背中を叩いた。
二宮の方はなぜか握り拳を作って、何も言わない……物語の主人公の心情は読めないな。
――カランッ!
そんな時、隣の机に『避雷針★★★』が投げ置かれた。
カードに保存された形ではなく、しっかりオブジェクトされたものが。
「ちょっと急に投げてきたの誰!? ……って、何この出来……よくできてる!」
現れたアイテムの出処には、ボクだけが気付けた。
製作者……慈雨の方を少し見ると、満足そうな顔をしている。
工作するほど暇だったらしい……何をしに教室まで来たのだろうか。
慈雨の存在がバレるとは思わないけど、下手を打たないように後で注意しないといけないな。
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈人物┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
・四辻聖夜(よつじ せいや)
ジョブ:なし
称号:なし
前世:四宮誠司
爵位:公子
メインモンスター:サーペント★★★
備考:頭脳や身体能力は転生者の中で中央値
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
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