第23話 スタミナ切れ

 慈雨奏の成長に関しては、あまり期待していなかった。

 ただボクの目指すエンドコンテンツへ至る為に、たった1人技巧力を持つ人間が必要だっただけ。


 この世界では『英雄シェナ』をまだ入手していないので、彼女の代理として、ボクのとある製作の協力者として考えていた。


 しかし――予期しない拾い物をした。

 彼女の前では『アイスウィング』について、ボクは目立ちたくないから……などという理由で見栄を張ってみせたが、真意は別にある。


 氷属性は、ボクでなく、ボクをサポートしてくれるユーザーが持つべきモンスターカードだと判断した。


 なぜなら氷属性のモンスターを持つサポーターがいなければ攻略できない……そんな場所が存在するからだ。


 ダンジョンにおける最高難易度を誇る超越ステージの一角『新緑神殿』……そこを始めとする超越ステージは7つ存在し、すべてを纏めて七大神殿と呼ぶ。


 そう――『サモテン』すなわち『召喚士と七大神殿』というゲームタイトルにある七大神殿とは、それのことだ。


 11層以降、ランダムで出現するそのステージは、ユーザーが退避するか全滅するまで階層全体をカバーする。

 中でも『新緑神殿』は、そのフィールドギミックが絶望の塊みたいなステージだ。


 個人やモンスターの強さが一切通用しない……事実『サモテン』のランキングトップ10は誰も『新緑神殿』を攻略できなかった場所。


 しかし無視できないのは、9つの超越装備カードは、この七大神殿の初回踏破報酬であり、『MVP踏破報酬』ともなるということ。


 七大神殿をボク1人の力で攻略できるのは2つが限界だと思っていたが、慈雨奏がいれば、1つ増やせるかもしれないという希望が見えてきた。


「おかえりなさいませ、公子様」

「ああ。さっそくダンジョンへ行くか」


 教室では相変わらず孤立しているが、そんなことは関係ない。

 ボクは授業が終わると同時に、慈雨を連れてダンジョンへ潜るのが日課になっていた。



【ダンジョン第7層】


 慈雨が通用する範囲での活動をしながら、ボクも自分のレベルを上げる。

 『サモテン』運営は、他ユーザーより飛躍的にレベルを上げられるバグなどを修正し続けた悪徳企業なので、今はコツコツレベルを上げるしかない。


『サーペント★★★』


 ――20体目。

 いくらレベルの増加を体感していても、連戦となると撃破効率は落ちる。

 ボクは少し、この身体を過信していたのかもしれない。


「ぜぇ……おりゃ!!」


 1層前では一撃で葬れた敵と同じモンスターなのに、倒れてくれない。

 同時に、油断を見せてしまう……サーペントの《毒攻撃》モーションが見えた。


「《吹雪》!」


 攻撃を受ける寸前……雪のカーテンが《毒攻撃》を防いでくれる。

 防御にも使えるなんて、慈雨のモンスターの使役活用はボク以上かもしれない。


 続けて攻撃しようとするボクは、背後からの腕に止められる。


「おい……何すんだ……」

「公子様、アレを捕獲しましょう」


 安全を取るなら、撃破するより捕獲の方が容易いだろう。

 だが――


「モンスターもう2枚……持ってるから……」

「でも弱いですよね」

「――――――」


 慈雨の言葉に反論できない。

 たしかにボクの所持モンスターは雑魚で、6層以降は本格的に役に立っていない。

 実際、生身の限界はボク自身がたった今感じていることだ。


 対して、慈雨の『ライトシープ』や『アイスウィング』はその点、DPSとして活躍している。

 彼女の意見は、正論だ。


 とはいえ、学園では初日から多方面に横暴な態度を取ったから、これ以上目立ちたくない気持ちが大きい。


「もし公子様に何かあったら、私は死んでしまいます」

「ダンジョンはある程度逃げられる猶予を与えるように出来て――……わかったよ」


 まだ生きているとはいえ、ボクの攻撃を食らっているサーペントはカウンター狙いの受け身を取った状態だった。


「《ホワイトカード》!」


 ボクはすぐさま『ホワイトカード』を使用するも――――


『フシャーーーッ!!!』


 捕獲に失敗してしまった。


 ――しまった。

 捕獲失敗時は、一瞬の隙を与えてしまう。

 なにより敵はもう瀕死で、ほぼ確実に捕獲可能だと思っていただけに、精神的にも油断してしまう。


 ……まさか、弱っているように見えたのはフェイクだった……?

 ゲームの頃にも、何度か体験したことはあった。

 しかし、そこまで集中できていなかった。


「《静電気》!」


 その隙を突こうとしたサーペントは、慈雨の『ライトシープ』のスキルでスタンに成功する。


 再び『ホワイトカード』を使用すると、ようやく捕獲に成功した。


「今日はここまでにしましょう」


 慈雨はまだまだ元気そうで、冷静だった。

 彼女のサポートを加味すれば、まったく死の危険には至っていなかったのに、完全に頭が回らなくなっている。


 目標撃破数は下回っているが、ここは慈雨の提案に従った方がいいだろう。


「――だな」

「……公子様?」


 『第陸の鍵』を使用して扉を出した瞬間、頭がクラッとした。


 ……なんだか視界が暗くなる。

 これは完全にスタミナ切れだろうか。

 ゲームの時は感じていなかったが、『ホワイトカード』の使用には集中力を使うらしい。


 ――やっぱり、『サモテン』はとんだクソゲーだ。












୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧


・『七大神殿』

 ダンジョン11層以降ランダムステージとして出現する超越ステージ。

 捕獲不可能な★6のボスモンスターが生息している。

 フィールドギミックやタイムリミット、特定オブジェクトの保護など、他のステージでは見られない特殊な攻略を必要としているとされている。

 迷宮研究所は、このステージ攻略難易度を不可能に設定しており、即ステージからの退場が求められる。


୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る